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日谷 弥子さん

別サイトですが、小説を初執筆中です。これがどんどん長くなり、終わりが見えないので短編も並行することにしました。

性別 女性
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私の進む道

15/03/07 コンテスト(テーマ):第七十八回 時空モノガタリ文学賞 【 嫉妬 】 コメント:2件 日谷 弥子 閲覧数:911

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神様。
これまでの私の選択は誤っていたのでしょうか。悉く誤っていたのでしょうか。
私は今日、数十年振りに、古い友人に会いました。
最初に勤めた会社の、同期です。

以前その人と最後に会ったのは、私が30にならない頃でした。
ごく普通の方です。が、ゆったりとした空気が流れていて、入社当時、何百人もいる同期の中からその人が一番心に入って来た。だから当時、私にしては頑張って、グループの交際までは出来るようになりました。でもそれが限度でした。
私は退社しましたが、その後も、まめなその人がくれる年の葉書は返して来ました。他の人との繋がりはあっという間に絶ってしまったのですけれど。
その葉書に毎年添えられる「連絡ください」の走り書き。それに、何故今年、答えてみようと思ったのか。
すみません。単純なことでした。有名な占いに、今年は12年に一度の活動の年、と出ていたからです。私は吊られて、いろんなことを打ち破ってみようと思い、まず年の初めのそのメッセージに答えてみたのです。
予想外でした。とんとんと話が進み、酒でも飲もう、となった。
私は躊躇しました。

最初に入ったあの会社は大きくて、当時はバブル景気で、私には身の丈に余る責任と分量の仕事が課せられました。気持ちは頑張っても、身体が付いて来なかった。入院して手術もした。坂道を上っても息が切れたし、深夜の電車の窓に映る私の顔は妖怪みたいだった。
私は何年も悩んで考えて、結果、違う種類の仕事をしてみたいと思ったのです。
私は田舎の優等生として育ちました。隣り近所も親戚からも、いつもちやほやされ、私は何かを成し遂げられる人間なのだと信じていた。あのとき、それには環境を変える必要があると確信していた。
でも難しかった。私は何度か職場を変えました。そして変える度にどんどん、あらゆる面で小さくなって行った。年も取り、派遣で入った会社からは契約切りにまであった。
今は社員十数名の会社で、定型の仕事をしています。個性を出してはいけない仕事です。月の収入は20年前に最初の会社を辞めたときの半分に近い。賞与もないし退職金も出ない。

そのような中で、古巣の人々と会うことは重い。
私は迷いました。しかし彼が慮り、他に誰も呼ばないと言ってくれたので、昔の思慕が蘇り、お会いすることにしてしまったのです。いいえ、それは連絡を取った当初から心の底で描いていた、理想のパターンだったのかもしれない。あるはずが無いと思っていたことが実現して驚いたようにも思います。
でも私は躊躇しました。相手が彼ひとりであろうと、優しい方であろうと、今の暮らしぶりについて聞かれる。当然です。
私は約束の日まで緊張して、今年は暖冬だと言うのに毎日寒くてたまらなかった。
しかしこう思うことにしました。
彼はいい年になっている。多分リーダー職のはず。であれば、腹も出ているだろうし髪も寂しくなっているだろう。
一方私は、あの会社を退職して以降、身体を作りはじめました。倒れてしまうような身体には、二度となりたくなかった。収入が半分になろうと、決して止めません。強く美しく立ち振る舞える自分でいたいのです。
そこのところは負けない。待ち合わせて彼が見分けられなかったらどうしようかしら。

ところが。
当日、彼は、颯爽と現れました。頭の先から足の先まで、変わること無く。
私は混乱しました。混乱して、何故予想と異なるのか、探らずにはいられなかった。
彼は何もしていないと言います。特別な運動も、健康療法も、何も。
残業も昔から余り無く、適度に働いて、好きなお酒を飲み歩いていると言った。これでも太ったんだよ、と。週末は自宅をいじってDIYか家族サービスだ、と。そしてまた、ゆったりと笑いました。

何故でしょう。
何故、そんな働きぶりで良いのか。
私があの頃、あんなに働かなければいけなかったのは何故なのか。私の出来が悪かったからなのでしょうか。配属の運なのでしょうか。
何故、そんなに変わらない姿でいられるのか。
私は毎日のようにチェックしてエクササイズして、身体に良かれと思うものを模索して、全て試してきた。
何故。私とあの人とで何がどれだけ違うと言うのかしら。
何故。私はこうならなければいけなかったのかしら。
何故、私は。
私はあの会社に留まっておりさえすれば良かったというのでしょうか。

眠れないのです。
今、真っ暗なワンルームの部屋で寝返りを繰り返し、これまでの私を辿っています。しかし、どの選択の時を取っても、覆すところが見つけられない。今に帰着する道しかない。私は起き上がって何かを打ってやりたい気持ちでいっぱいです。
眠れない。
神様。私が間違っていたと言うのですか。
従順に従えと、何も考えるなと、模索するなと、ただ息をしろと、言うのですか。
ただ従えと。


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このストーリーに関するコメント

15/03/07 海見みみみ

拝読させていただきました。
嫉妬という言葉が作中に出てこないのに、嫉妬の感情がありありと感じられる作品でした。
落ちぶれていく私と昔通りの彼。
その対比が何とも切ないです。
果たしてこれから主人公はどうなるのか。
絶望しか見えないだけに、希望を期待したくなるラストでした。

15/03/25 光石七

拝読しました。
男性の悩みを女性的な文章で書かれているように感じました。
主人公の嫉妬ややるせない憤りがひしひしと伝わってきて、こちらまで息苦しくなります。
どうすればよかったのか、運命と諦めるしかないのか。出口の見えない苦しみの中にいる主人公に、どうか希望の光が差しますように。

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