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滝沢朱音さん

♦️第2回ショートショート大賞・優秀賞 http://shortshortawards.com/results-2017/ ♦️『時空モノガタリ文学賞作品集#零』(書き下ろし含む3作掲載) https://www.amazon.co.jp/gp/product/4908952000/ ♦️時空モノガタリ入賞作「このP−スペックを、唯、きみに。」幻冬舎パピルス掲載 http://www.g-papyrus.jp/backnumber59.html ♦️Twitter @akanestor ♦️作品添付画像:『写真素材 足成』

性別 女性
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SHIBUYAにSAKURA、また咲くらむ。

15/03/05 コンテスト(テーマ):第七十七回 時空モノガタリ文学賞 【 渋谷 】 コメント:6件 滝沢朱音 閲覧数:1163

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 今宵は花見の宴。また春が来たか。
 毎年このときだけ現(うつ)し世をかいま見ることができるのは、祭りに私の名が残っているせいだろう。お館さまが私のために植えてくださった桜は、今年も見事に咲いている。
 桜の精霊として姿が見えないのをいいことに、私は境内を歩きまわる。八幡宮の外には出られないが、八百有余年後の世の空気を楽しむには十分だ。
 こうして鎧(よろい)をまとうのなら、御堂にまつられている愛刀の毒蛇長太刀も久しぶりに振り回したいものだが、なぜか子どもの風体なので一度も叶わずじまいだ。
 おや。誰かに見られている気が――

 不届きにも狛(こま)犬の横に座り、長い足をぶらんと下げてこちらを見つめる、金色の髪の女。
「なんだ、女。私の姿が見えるのか」
「オウ!」
 女は鳶(とび)色の目を見開き、狛犬からピョンと降りた。予想よりも背が高い女に思わず身構えると、女は笑顔で叫んだ。
「カワイイ! コスプレ! ソー、キュート!」
 女の敵意のなさに気が削がれた私は、心に直接語りかけてみることにした。私の姿が見えるならそれなりの霊感はあるだろう。
「おまえは異国人か?」
「え……何? 何なの?」
 急に意思が通じ、女は驚いたようだ。
「わかると思うが、私はこの世の者ではない。この祭りの日にだけ現れることができる精霊だ」
「……そうなの、びっくりした。ずいぶんと勇ましくてかわいい精霊ね」
 すぐに落ち着きを取り戻した女は、手を差し出した。
「私の名前はレベッカ。みんなベッカと呼んでいるわ。アメリカから来たの」
 その手の意図がわからず、私は仁王立ちのままで答える。
「私の名は、渋谷常光(つねみつ)だ」
「オウ、シブヤ! あなた、渋谷っていうの?」
「うむ。子どものなりをしているが、幼名は金王丸(こんのうまる)といった」
「金王丸……ミドルネーム?」
「さあ」
「まあいいわ。よろしくね」
 ベッカは私の手を握り、小刻みに揺らした。親愛の情を示したのだろうか。
「で、あなたはなぜ、渋谷という苗字なの? この渋谷で生まれたから?」
「ここに……住んでいた」
「この神社に?」
「ここは昔、渋谷城という城だったのだよ」
 久方ぶりに人と話をすることができた私は、ひどく饒舌になっていた。普段は御堂の木像の中で眠り、人々の願いを聞くばかりで、話すことに飢えていたのかもしれない。
「私はその城主だった。その頃は……戦ばかりでな。親兄弟が敵味方に別れ、滅ぼし合う乱世だったのだ」
「まあ……」
「初陣は十七のときだ。主君の源義朝という方のもとで戦ったのだが、義朝公は父君と弟君たちを敵にし、ついには手にかけた」
「……ひどい」
 興味深げに耳を傾けてくれるベッカとともに、私は宴に賑わう境内を歩いた。
「その義朝公も……やがて滅ぼされた。菩提を弔いたくて私は出家したが、のちにご嫡男・頼朝公が世を統べようと立ち上がったとき、また私は戦に出ることになったのだよ」
「……イクサ、イクサ、イクサだったのね、あなたの人生は」
 桜の花びらが舞う中、異国の女を見上げながら歩く鎧姿の子ども。もし誰かが見ることができたなら、さぞかし不思議な光景だったに違いない。
「最期も……そうだったな。頼朝公に、弟君の義経さまを討てと命ぜられて……」
――『金王丸っ!』
 京に上り、心ならずも館に討ち入ったあの夜の、義経さまの声が耳に蘇る。武人としては軽いところもあったが、戦の才に満ちあふれ快活で朗らかで、とにかく愛すべきお方だった。
「その義経さまに討たれたとき、私はどこかで安堵したのだよ。これでよかったのだと」
「……」
「お館さま――頼朝公は、敗れた私を責めるどころか、偲んで泣いてくださった。その証があの桜なのだ……」
 桜の枝が春風に揺れる。お館さまの御心が今も変わらずここにある。男として武士として、信念に命を懸けた生涯。それを主君に認められ、悼(いた)んでもらえて、何を思い残すことがあろうか。
「想像もできなかった……この賑やかな街に、そんな歴史があったなんて」
 金色の髪をなびかせ、ベッカは呟いた。
「渋谷……ニッポンフリークな私にはカワイイとドキドキにあふれた街。この旅行で訪れるのを楽しみにしてた……でも」
 ベッカはしゃがみ込んで私と目線を合わせ、やさしく言った。
「あなたに会えて……よかった」
 急に気恥ずかしくなり、私は顔を背けた。

 なぜ、この異国の女にここまで打ち明けたのか。
 きっと花に酔ったせいだろう。それに……この国に生まれ育った者には、武士として意地でも言えなかったはずだ。

 何度も手を振るベッカを鳥居の下で見送り、私は夜桜を見上げた。またしばし眠ろう――


――三月の終わり、渋谷駅にほど近い金王八幡宮で行われる桜まつり。金王桜、今年もまた咲くらむ――


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このストーリーに関するコメント

15/03/06 海見みみみ

拝読させていただきました。
渋谷にそんな過去があったなんて、私も知りませんでした。
最後の締めに繋がる歴史物語。
非常に興味深い内容でした。

15/03/10 草愛やし美

滝沢朱音さん、拝読しました。

前作の武将に続いた歴史時代作品。歴史的な背景もきちんと捉えられ、しかも、ファンタジーに仕上げていらして、この出来栄え、素晴らしいですね。思わず、巧いなあと唸ってしまいました。
金王八幡宮のいきさつなど全く知識がなかった私です、感心して読みました。突然現れた外国人に見えたコスプレに見える甲冑姿の武士、若い朱音さんらしい発想が良いですね〜、桜の聖霊という設定も素敵で、大変面白かったです。

15/03/10 そらの珊瑚

滝沢朱音さん、拝読しました。

渋谷のお祭りにまつわるお歴史、とても興味深かったです。
いくさばかりの時代で育ち、辛いことを誰かに聞いてほしかったのかもしれませんね。
だから日本人というしがらみのない、異国人だからこそ、見えたのかもしれないなあと思いました。

15/03/12 光石七

拝読しました。
渋谷の歴史を題材にすることは私も考えましたが、難しすぎて諦めました。
こんな素敵なファンタジーに仕上げられて、ただただ脱帽です。
相手が外国人というのがまたいいですね。
素敵なお話をありがとうございます!

15/03/19 滝沢朱音

>海見さん
読んでくださってありがとうございます!
私も、このテーマで調べるまで全く知りませんでした(笑)
時空さんのテーマ、いろいろ勉強になりますよね。

>志水さん
コメントいただきありがとうございます!
渋谷、全然思いつかなかったので昔にさかのぼってみました^^;
武将でも子ども姿だったらかわいいだろうな〜っていうのと
書いてた時のBGMから、外国の女の子を登場させてみました。

>草藍さん
お読みいただきありがとうございます!
私も金王八幡宮とか全く知らなかったです。このテーマで調べるまでは…
前回はけっこう必死な歴史ものだったので、軽めに楽しく書いてみました。
ちっとも若くない私ですが(笑)発想や設定をほめてくださってうれしいです。

>そらのさん
コメントくださってありがとうございます!
ちっちゃな男の子が、よろい姿で肩肘張って歩いてたらかわいいだろうな〜と
楽しみながら書いてみました。中身は中年のおっちゃんなんですが…

>光石さん
読んでいただきありがとうございます!
渋谷のテーマ、難しかったですね〜 書けなくてかなり悩みました。
渋谷城があったなんて、今回初めて知りました。
いちおう歴史ファンタジー?として仕上がってたらうれしいです。

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