つつい つつさん

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15/02/28 コンテスト(テーマ):第七十八回 時空モノガタリ文学賞 【 嫉妬 】 コメント:5件 つつい つつ 閲覧数:970

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「ねえ佳菜、咲子が自殺したんだって……」
 その話を莉緒から聞いたのは咲子が噂を気にして大学に来なくなってから、およそ一ケ月後のことだった。

 咲子と一番の親友だった夏帆は、咲子が誰とでも寝るって噂を流した犯人を捜そうと必死だった。だけど自分が咲子の死に関わってるなんて思われたくないから、誰もまともに取り合わなかった。
 夏帆と仲が良かった私は犯人を捜すのを手伝うふりをしながら、なんとか誤魔化していた。だって、私は犯人を知っている。知っているどころか、その噂が流れる発端となる場所に居たからだ。それだけじゃない。厳密に言えば私も噂を流した犯人のひとりになるのだろう。

 その話を始めたのは莉緒だった。大学のサークル仲間がよく利用するダイニングバーで、いつものように私は莉緒やサークル仲間の女子五人で飲んでいた。
他愛のない話をするうち自然と、たまたま来られなかった咲子の話題となった。莉緒は前から咲子のことが気に入らなかった。莉緒は美人でスタイルもいいからコンパやイベントでの男子受けは良かったけど、いつも一番人気になるのは咲子だった。咲子は同姓から見ても可愛くて、それにどこか人懐っこいところがあった。ふたりでランチをしててても気を使わなくていいし、あっという間に時間が経つような明るくていい子だった。だから、憧れていた先輩が咲子とつきあいだしたことを妬んでいた莉緒が咲子の悪口を言い始めた時は少しとまどった。でも、すぐに彼氏が出来る咲子が羨ましくて、つい、同調した。
「咲子って、また新しい彼氏出来たみたいね」
 莉緒が近くにいる大学の男子に聞こえるように、わざと大きな声で言いだした。すると、さっきまでうわの空でラインをしてた桜が身を乗り出してきた。
「半年ごとに彼氏変えてない?」
「咲子って、意外と浮気っぽいよね」って莉緒が嬉しそうに返すと、私も知ったかぶりで答えてしまった。
「今まで咲子が付き合ったのって、十人どころじゃないんじゃない?」

 その後も、私達は咲子の話題で盛り上がった。近くにいた男子は私達を見ながら、ひそひそと話していた。だけど、その時はそんな話が独り歩きして、まさか咲子が何十人と寝てるとか、誰とでも寝るなんて噂になるなんて思わなかった。

 次の日、大学に行くと噂はもう広がっていた。咲子はとまどい泣きそうな顔で必死で否定してたけど、一度勢いに乗った噂は本人など置いてけぼりで加速し拡散していった。私はどうしていいかわからずビクビクしていたけど、莉緒は自分には一切関係無いような態度で「誰、そんな噂流したの。ひどい」なんて堂々と咲子を擁護していた。
 それからの咲子は見ているのがつらかった。明るかった表情から笑顔は無くなり、今まで見たことのない暗い顔をするようになった。夏帆は心配していろいろ励ましていたけど、私は気まずさからか咲子とは距離を置いてしまっていた。そして、いつも人に囲まれてキラキラしていた咲子がぽつんとひとりでいるのを見かけることが多くなった。校内のベンチや食堂でひとりぽつんと無表情で座っている咲子を見るたびに胸が締めつけられた。正直、咲子が大学に来なくなった時、私はほっとした。

 あの時、なぜあんなことを言ってしまったのだろう。私は別に咲子のことを嫌ってなどいなかった。むしろ好きだった。でも、恋愛の話題になって、冷静さを失っていたのかもしれない。大学生になっても彼氏の出来たことのない私は、恋愛話につい過敏になってしまう。だから、少しいじわるなことも言ってしまったのかもしれない。

 夏帆は相変わらず犯人を捜していたけど、見つかることはなかった。なぜなら、元々犯人なんていなかったから。そもそも、私達の会話は罪になるほどのことなのだろうか。噂を流した男子の行為は犯罪と呼べるようなことなのだろうか。私達が少しの悪意を持って咲子のことを話したのは事実だ。そして、男子がおもしろがって咲子のことを話したのも。でも、それがどうしたって言うのだろう。そんなの、どこにでもある話だ。ただ、それが最悪の方向に転がってしまっただけ……。

 咲子の話題も出なくなり、すっかり忘れ去られた頃、大学では、また誰かが誰かの噂をしている。他愛のない話に散りばめられた悪意の中を私達はふざけあい笑いあいながら今日も何事もなかったように過ごしている。


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このストーリーに関するコメント

15/02/28 クナリ

逃げ道や、苦痛への処方を取り上げてしまえば、人間がとる道なんてそう多くはないと思います。
メインで扱われている、犯人不在の悲劇というものがかもし出すホラー性とともに、そんな恐ろしさも感じました。

15/02/28 海見みみみ

拝読させていただきました。
悪意の連鎖とは恐ろしいですね。
それがどんなささやかなものでも、積み重なれば人を殺すにも値する毒素をもつ。
読んでいて人の持つ業とは本当に恐ろしいなと思いました。

15/02/28 つつい つつ

クナリ様
感想ありがとうございます。
ちょっとした事で逃げ道がなくなったり、追い込まれたり
人間関係は本当に難しいと思います。

海見みみみ様
感想ありがとうございます。
悪意の連鎖に巻き込まれると冷静な判断力が保てなくなるので
気をつけねばと思っております。

15/03/07 つつい つつ

志水孝敏様
感想ありがとうございます。
悪意は意外と身近にあるんじゃないかと感じて書きました。
ありがとうございます。

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