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水鴨 莢さん

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救済の女神

15/02/27 コンテスト(テーマ):第七十八回 時空モノガタリ文学賞 【 嫉妬 】 コメント:7件 水鴨 莢 閲覧数:1052

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 みんなは香野のことを誤解している。
 だから今回の大珍事とされていることも、ぼくにはさほどおどろくにはあたらないのだ。
 たとえば春の聖歌コンクールでぼくらのクラスは中等部門で二位の成績をおさめた。
 そのときのムードは「あーあ」と「まあがんばったよ」で大体半々だったけど、香野だけがちがっていた。
 彼は教室へもどるなり机に顔をふせた。そして小さく鼻をすする音がもれると、一部男子がからかったりもしたけど、先生はそんな香野を評価したし、その純粋にくやしい様子に教室もだんだんしんみりしていった。
 それで秋のコンクールの時期がくると「今季こそがんばろう!」
 てなムードになって、その中心には(当人の気もちはともかく)香野の存在があって、そして見事優勝した。
 今度は何人も泣いている生徒がいた。みんなうれし涙で、ぼくも泣きそうになった。
 でも、香野はちがっていた。
 彼はべつに、前回だって二位だからくやしかったんじゃない。
 一位になった生徒たちがうらやましくて仕方なかっただけなんだ。コレ、同じようで少しちがう。
 だって一位の人たちが喜んでなかったら絶対泣いてないはずだから。
 実際「やったな!」って肩をたたかれても、苦笑いしかしてなかった香野をぼく以外のだれが気づいていただろうか。

 彼の風変わりな性質を、幼少からつきあいのあるぼくだけは知っている。
 香野は美男で、頭がよく、家もお金持ちで、天からニ物も三物も与えられたような人物だ。
 でもその代わり神さまは人の徳や得なるものを過剰なまでにうらやむという厄介な性質までお与えになったらしい。
 日常的な話でいえば、学内で食事をしても、彼にとって選んだメニューが人のそれより勝ることは決してない。
 ぼくがわざと大げさに「今日のランチは当たりだ。すごくおいしいな」と言って、よそを向いたふりをすると、まるでこの世の終わりみたいな表情でこちらのマッシュポテトなんかを覗きみてくる。
 でもそこで「ちょっとつつかせてくれよ」とかは絶対に言ってこない。
 なにも知らない友人が「これイケるぜ、食ってみろよ」と香野にすすめたこともあるけど、
「なるほどうまいな」と社交的にニコリとし、あとは石のように黙りこくった。
 彼の場合はあくまでも人のものがほしいとかじゃなくて、そんな喜べるものを選択した友人がうらやましくてしょうがないって気もちしかないのだ。

 当人にも十分な自覚はあって、そんな性格を恥じて強くさいなまれてもいる。
 人に悟られまいとし、そういう感情がおこらぬよう、わずかでも他者に劣らぬよう常にあらゆる方面で努力している。
 勉強、スポーツ、多種多様な趣味、だれに対しても分け隔てなく紳士的に向きあう姿勢。
 彼のポテンシャルはそれらを完璧にこなせるだけものがあり、もとより恵まれたステータスもあってどこへいっても注目の的だ。
 だから当然、そんな学内のスーパースターの心をだれが射止めるのか、そもそもふさわしい女性などいるのか、といった話題は常につきまとっていたし、ぼくもこれに関しては他と少しちがう角度から注目していたところだった。
 そして先日ついに彼から「運命の人をみつけた」との言葉がでると、いっぺんに知れ渡ってしまったわけだけど、みんなは彼の美徳とつりあうような女性を思ったことだろう。
 ぼくはぼくで、香野みたく妙なひみつの性格をもった者が運命とまでいう人とは――と、それぞれ形はちがえどいかなる貴き聖女であるかをあれこれ想像したものだった。
 そしてその人物が、あの久内美千代だと発覚するや、アチコチで女生徒の悲鳴が飛びかい、またなんのジョークかと男どもは笑いころげ、その日学内が騒然となったことは記憶に新しい。
 ああ久内美千代――どんな皮肉からか彼女はぼくと同じ福祉委員なのでその性質はよく知っている。
 陰湿で無神経で不潔でガサツ、自らの不徳にはじつに盲目的ながら他人のアラはけっして見逃さない、不徳の塊のような女だ。
 その容姿もふさわしく内面をうらぎらないものであり、両者のあまりのギャップは香野の評価をも変えてしまった。
 多くは当然ながらそのゲテモノ趣味に幻滅……だが一部女性間では彼を現代のメシアであるとする一派もおり、その信仰熱をより高めたとも聴いている。
 しかし当人としては「彼女こそぼくのユーノだ」といい、むしろ救われているのは香野の方なのだ。
 大抵の女性であれば幸運であろう香野との交際も、虚栄から受けたものの久内はさすがに疑心暗鬼にとらわれるばかりのようで、みるたび彼女は暗い不安と猜疑に満ちた眼をしている。
 対してそんな、人としての幸福や美質を一切感じさせない恋人といる香野は、じつに心安らいでいるようで、彼をよく知る友人としては素直に祝福してあげたいと思うのである。


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このストーリーに関するコメント

15/02/27 海見みみみ

拝読させていただきました。
実に強烈な登場人物ばかりが登場し、インパクトに残りました。
特に印象的なのは久内美千代!
彼女みたいな人って本当にいますよね。
香野にとっては救いの女神だったところがまた実に皮肉です。
面白い話をありがとうございました。

15/02/27 水鴨 莢

海見みみみさん、感想ありがとうございます。
あんまりこういうこと書かない方がいいと思うんですけど、正直自分として
はこの作品よくわからんな・・・って感じだったりします。
いや、読んで持っていただいた感想はどのようなものであってもありがたく、
少しでも楽しんでいただけたのならそれは本当にうれしいことなんですけども。

なんかすいません。精進します。

15/02/28 水鴨 莢

リュウの助さん、感想ありがとうございます。
その解釈で良いと思います。
むしろ私が考えていたのよりそっちのほうがいい気すらします。
大分無責任なようですけど、この作品に関してはどうも確信のもてない部分
が大きいものですので・・・。

作品自体の出来はともかく香野のキャラクターにブレはないはずなのですが、
ただかなりわかりにくくなってしまったかなと思います。
一応最初に考えていたタイトルが「嫉妬の天才」で、それが香野という人間
であり、嫉妬するところのまるでない女性と出会って心安らいだ、という話
だったんですけど、そこまでのものではないかなと思い変更しました。
激しい嫉妬心を抱えながらも人間自体はいやしくないというキャラの有様と
少しの救いを書こうと考えたんですけど(そのせいで一人の女性が犠牲にな
っている形でもありますが)、嫉妬という言葉をあえて使わず書いたためい
まいちハッキリしない感じになってしまったのかなと思います。

15/03/07 水鴨 莢

志水孝敏さん、感想ありがとうございます。
人間理解という言葉をいただき改めて考えてみたのですが、多分、私はこれまで
人間メインの話をほとんど書いてこなかったのだと思います。
とにかく先に状況ありきで、どこで何が起きてどのような結末をむかえるかとい
う物語作りにのみ興味があり、人間に関してはその次なんですね。
思い浮かべた物語に適した人物設定をし、また行動をさせればいいという考え方
で書いてきたといいますか。

でもこういう形の小説って、そういう展開がメインじゃないなと思いました。
一応のそうした体裁は整えながらも、ある定めた人物のことを掘り下げてみせて
いくことが主であると認識して書いていくべきだったんじゃないかなと。
そこがわかっていなかったため、なんか、あれ?ってなってたような気がします。

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