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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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空前絶後の嫉妬

15/02/24 コンテスト(テーマ):第七十八回 時空モノガタリ文学賞 【 嫉妬 】 コメント:6件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1079

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 午後の公園は、おだやかな初夏の陽ざしにつつまれていた。
 この広い公園は、近所にすむ親子連れがよく利用するところで、ベンチがとりまく周囲にはいまも、子供をつれた母親のすがたが三々五々ながめることができた。
 そのとき美智子のすわっているベンチに、ちいさな女の子の手をつないだ母親が、妙におどおどとためらうような足取りでちかづいてくるのが見えた。
「すみません、お隣にすわらしていただいて、よろしいでしょうか」
 遠慮がちにたずねる母親の顔を、美智子はながめた。
 ―――見なれない顔だった。
 美智子は、三年まえの、はじめてこの公園に足を踏み入れた当時の自分の姿をおもいだしていた。
 この母親もいま、あのときの自分とおなじ心境にたたされているのにちがいなかった。 今後この公園で、みんなと仲良くやっていけるかどうか、彼女の胸の中は、その不安と期待ではちきれそうになっていることだろう。
「どうぞ、どうぞ。おすわりになって」
 美智子は、二人のために体を横に移動した。
「わたし、小林ともうします。これからも、よろしく。―――新顔さんね。安心してちょうだい。この公園にきている人たちはみんな、やさしい人ばっかりだから」
 それを聞いた相手の表情から、見る見る緊張感がうすれてゆくのがわかった。
「ご親切に、ありがとうございます。二週間前にこのすぐそばに引っ越してきました山本です。これは娘の真矢です。よろしくおねがいします」
 母と娘はならんでベンチに腰をおろした。
 美智子の目が、その娘の顔を見て、きらりとひかった。
「まあ、なんてかわいらしいお嬢さんなんでしょう。まるでお人形さんみたい。何歳ですか?」
 母親にすがるようにもたれていた娘が、ちょこんと居住まいをただすと、
「六歳です」
 といって、ニコリとわらった。
 美智子はそれからも、ながいあいだ、真矢の顔をながめていた。
「奥さま、おしあわせなことですね。真矢ちゃんみたいな子供がいたら、毎日が、たのしくてならないでしょう」
「ええ、まあ」
「ほんとに、うらやましいですわ」
 美智子は、真矢のほうにさらに大きく身をのりだした。
 意識のすべてが、ひとり六歳の女の子にむいているのが、その黒々とみひらいた瞳が雄弁に語っていた。
 そんな彼女の気持がつたわったのか、真矢もまた、美智子の顔を興味深げにみかえした。
 そして、それまで身をよせていた母親の顔をちらとうかがうようにみると、なにをおもったのかいきなりベンチからたちあがって、美智子のほうにあゆみよってきた。
「これ、失礼でしょ」
 母親の制止もきかずに真矢は、美智子の膝のうえにあがろうとした。
「かまいませんわ」
 美智子は手を貸して、真矢を自分の上にのせてやった。
「抱いても、いいかしら」
 こみあげてくるものを、抑えきれないようすで、美智子は真矢にたずねた。もはや彼女には、真矢意外のものは、なにも目にはいらないようすだった。
 真矢は、いやがるどころか、むしろそれをのぞむかのように、美智子の目を見てこくりとうなずいた。
 美智子はまた、ながい時間をかけて真矢を抱きしめた。
「あなたのような子供がいたら、わたしの人生は、大きくかわっていたことでしょう」
 そして、真矢に頬をすりよせる彼女の度を越した愛情表現をみて、こちらの母親は当惑げに眉をひそめた。
「さあ、真矢、時間がきたわ、ぼちぼちおうちにかえりましょう」
「もうちょっと、こうしていたい」
「だめ。ご迷惑でしょ」
 おもわずつよい口調になる母親に、美智子はかるいたじろぎをおぼえながら、
「ごめんなさい。わたしむかしから、真矢ちゃんみたいにかわいらしいお子さんを見ると、衝動的にだきしめたくなるくせがありますの。あなたが本当にうらやましくて。いけないことですわね。真矢ちゃん、お母さんがおよびよ」
 美智子の言葉に、いやいや膝の上からおりる真矢を、母親はまちかまえていたようにひきよせると、あとは挨拶もそこそこにたちさっていった。
 その二人の姿が、公園から出ていくのを、ベンチから美智子はいつまでも見おくっていた。
「母さん、おちるわよ」
 その声に、美智子はおどろいたように横をみた。
 そこには、あの真矢とほぼ同年代の娘の好美が、ベンチの端から片足をはみだした形で、辛うじてすわっていた。
 美智子がさっき、あの二人のために横によったときから、好美はそんなあぶなっかしい状態をたもちつづけてきたのだった。
 好美は、母親の顔をじっと、こわい目つきでにらみつけた。
 真矢ちゃんみたいに、かわいらしくなくて、わるかったわね。
 そんなことばが、その怒りをはらんだまなざしにありありとやどっているのに、美智子は気づくこともしないで、
「あら、いたの」
 おもしろくもなさそうにいうのだった。


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このストーリーに関するコメント

15/03/08 W・アーム・スープレックス

志水孝敏さん、コメントありがとうございました。

現代ならむしろ、そのようなとらえ方のほうが、リアル感が出せたかもしれません。好美が嫉妬にくるって真矢ちゃんに殺意を抱いたりしたら、また話はかわっていたでしょうね。この作品の場合は単純に、コメディ路線をつっぱしりました。

15/03/14 浅月庵

W・アーム・スープレックス様

拝読させていただきました。
オチが読めなくて面白かったです。
中盤になんだか不穏な気配を感じ、最後にちょっとゾクっときてしまいました。

15/03/15 W・アーム・スープレックス

浅月庵さん、コメントありがとうございます。

実の娘が母親の美智子にたいしてなにをいうかはいろいろ想像していただければと思います。しかしこの娘も、母親が真矢ちゃんに気をとられているあいだ、ベンチから落ちそうになりながらじっと耐え忍んでいたぶん、なかなか辛抱づよいとほめてあげたいところもあります。

15/03/22 光石七

美智子に悲しい過去があって、真矢ちゃんのお母さんに嫉妬するお話かと思っていたら……
好美ちゃんがかわいそうですね。美智子も母親としての愛情が全く無いわけではないのでしょうが、私の周りは「うちの子が一番可愛い♪」という親バカがほとんどなので、彼女の言動は少々理解に苦しみます。
好美ちゃんの嫉妬がどこへ向かうか、考えると怖いですね。

15/03/23 W・アーム・スープレックス

読む方に注文をつけるつもりはさらさらありませんが、あまり怖いほうに話がおちていかないほうに、物語は展開するように気をつけました。
とはいえ現代は、このストーリーはやはり、ホラーに傾くのかもしれませんね。
わたし自身は、コメディーのつもりでかいたのですが、意外な評価で、うれしいようなかなしいような、複雑な気持ちです。

光石七さん、コメントありがとうございました。

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