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佐崎 ゆうさん

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大嫌いだから渋谷

15/02/24 コンテスト(テーマ):第七十七回 時空モノガタリ文学賞 【 渋谷 】 コメント:1件 佐崎 ゆう 閲覧数:920

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 単なる喜劇は嫌われる。山も登れば谷になる。歩く足には棒あたる。
「ねえ、きみ一人?」
「一人よ、ずっとね」
「遊びに行こうよ」
「遊びに来たのよ」難しそうな顔してる。そのまま消えて、目障りだから、と言わんばかりに歩き出す。
「ねえねえ、きみ」
「十六」
「え?」
「十六歳。犯罪よ」
「あ、ああ……」
心地いい。人生すこぶる熱いはず。もっと私を持ち上げて、もっと私を取り合って。私をここまで育てたと、言い張る二人も私にすれば、家に棲み付く邪魔な虫。私はハチになれやしない。


「どうせまた一位でしょ」
「うん、全教科。ハルは? どうせまた後ろから一位でしょ」
「まあね。あんたって、本当に完璧だよね」
「そうかなあ。私はハルが羨ましいけどな」
「聞き飽きた。私はあんたが羨ましい」
「聞き飽きた」
 ハルは、クラスの皆からストレートにバカ呼ばわりされているけれど、本人はそれをまったく嫌がらない。むしろ喜んでいるようにも見える。「嫌がったところでバカはバカだし。皆が言うんだから、私は確かにバカなのよ。バカを認めないのは本当のバカよ」というのが彼女の言い分だ。あまりにもバカという単語が頻出するものだから、私がバカと言われているみたいだ。いや、私こそが本当のバカなのかもしれない。
「聞いてる?」
「ん、渋谷の話?」
「惜しい、渋谷のハチ公の話。ハチ公ってさ、イヌなのに、ハチなんだよね。不思議」
 ハルが何を不思議がっているのか、さっぱりわからなかった。
「ハルだって、冬なのにハルじゃない」あ、確かにそうだ、ハルは天井を見上げて何かを考えながら、指をくるくるやっている。「大発見。私は夏も秋もハルだ」


「誰かと待ち合わせ?」
「いいえ、一人よ、ずっとね」
「へえ、彼氏とかいるの?」
「彼氏? そんなもの、自分の価値を下げるだけよ」
「……だよね、ちょうど良かった。俺も彼女とかいないんだ、面倒臭くて」
「とてもよくわかるわ。女って本当に面倒」
「そうそう、女って面倒なんだよ。ねえ、立ち話もなんだし、お茶でもどう?」
「その二つの目玉は何が見えてるの? 私は女よ。男は玉がしっかりしていないとね」さよならと言いかけながら、その言葉さえ勿体無い。我ながら、寒い駄洒落に凍えそう。春を待つ自分が少し恥ずかしい。


「お待たせ」
「遅い、ナンパされた。三回も」
「私のトイレが長いみたいじゃないそれ」
「長い」
「うるさい。学校じゃ目立たないけど、やっぱり綺麗なんだよね、あんたって。本当に完璧」
「聞き飽きた」
 もしも、たった今から宇宙人が地球に降り立って、この星の代表者と話がしたいなどと言い出したなら、私はハルの背中を押すだろう。人類代表は、ハルみたいな人であるべきだ。もしくは、ハルであるべきだ。どんな生き物でもハルを認めるだろうし、どんな生き物でもハルは認めるはずだ。ハルには、何でも包み込んでしまうだろう温かさがある。ハルは、夏も秋も冬もハルなのだ。
「そろそろ帰ろうか。あんたの両親、待ってるでしょ」
「うん。ねえ、ハル」
「なに?」
「ありがと」聞き飽きた、と言いたそうなハルの横髪が、すれ違う風を静かに揺らした。
 ねえハチ、あなたは何を待っているの。あなたは幸せ?
あなたは、あなたの物語を、あなた以外の誰かが哀しむことを、どう思うのかしら。私はあなたになれやしない。
 きっと私は今夜も、待っている父と、母と、兄と、祖母と、食卓を囲むのだ。きっと私は今夜も頬を落とす、母のパエリア。
 幸せなんて、幸せなんて。
 大嫌いだから、二度目の渋谷。


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このストーリーに関するコメント

15/03/21 海見みみみ

佐崎 佑さん、拝読させていただきました。
ハルと主人公の関係が気持ちのいい作品ですね。
主人公の心の闇とハルがもたらす光が対照的でとても効果があると思いました。
ハルのような人がいたら私も友達になりたいですね。

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