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海見みみみさん

はじめまして。 時空モノガタリで修行させていただいています。 焼き肉が大好物。

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一見さん以外お断り

15/02/23 コンテスト(テーマ):第七十七回 時空モノガタリ文学賞 【 渋谷 】 コメント:18件 海見みみみ 閲覧数:1918

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 渋谷七不思議というウワサをご存じだろうか? 都市伝説の一つで【夜中に動き出すハチ公像】や【目が光るモヤイ像】辺りが有名だろう。
 その中でも今回は【一見さん以外お断りのバー】について語らせてもらう。

 その日、俺はどん底の気分だった。些細な事で彼女とケンカをして、別れてしまったのだ。
 独り身になって、俺の中でいかに彼女の存在が大きなものだったか思い知らされた。だが別れた今となってはもうどうにもならない話だ。彼女のことは忘れ、何か気晴らしになるような事をしよう。
 そう決めた時にふと思い出したのが都市伝説の【一見さん以外お断りのバー】だ。そんなバーが本当にあるのか。俺は早速渋谷の街へと向かった。

 そのバーへの行き方は簡単だ。まずセンター街についたら、まっすぐ百五十歩進む。百五十歩目になったら右を向き、目の前にあるビルの階段をのぼる。そして三階に上がった先にある店が【一見さん以外お断りのバー】だ。
 実際たどり着いてみると、そこは極めて普通のバーだった。看板にはバーとだけ書かれており、外観だけだとあまり良い店のように思えない。
 だが物は試しだ。俺はバーと中へと入っていった。
「いらっしゃいませ」
 すると清潔なシャツとベスト姿の男性が出迎えてくれた。彼がこの店のマスターだろう。
 店内は外観に比べて随分とオシャレだった。薄暗い空間の中に間接照明が輝き、淡い光が店内に広がっている。
 俺はわくわくとしながらカウンターの椅子に腰掛けた。
「ご注文はいかがいたしましょう」
「ジントニックで」
 とりあえず定番のジントニックを注文。すると数分もしない内にジントニックとナッツの乗った皿がカウンターに置かれた。
 早速ナッツと共にジントニックを一口。うん、旨い。定番がしっかりしているバーにハズレはない。これは期待できそうだ。
「こちらって一見さん以外お断りなんですよね」
 酒を飲みながらマスターに問いかける。するとマスターは丁寧な仕草で頷いてみせた。
「はい。一見さん以外のお客様にはお帰りいただいています」
「それではお店の経営も大変なんじゃないですか?」
「趣味でやっているような店なので。新規のお客様との一期一会を大切にしたいんですよ」
 なるほど、一期一会か。俺は納得すると一気にジントニックを飲み干した。
「次のご注文はいかがいたします? 当店オリジナルのカクテルもございますが」
「どんなカクテルですか?」
「先程もお話した一期一会をそのまま名前にしたカクテルです」
「ではそちらを一杯」
 するとマスターはシェイカーにいくつかのリキュールを注ぎ、シェイクし始めた。その動作に無駄はない。マスターの仕事ぶりを見つめている内にカクテルは出来上がっていた。
「おまたせしました」
「なるほど、一期一会だけにイチゴのカクテルですか」
 マスターオリジナルのカクテルは淡いピンク色をしたショートカクテルだった。早速一口舐める。イチゴの甘みと香り、それにアルコールの刺激が口の中に伝わる。
 このカクテルなら彼女も好みだろうな。そう思ったところで、彼女とは三日前に別れた事を思い出す。途端に気分が落ち込んでしまった。
「お口に合いませんでしたか?」
 マスターが心配そうに声をかけてくる。それに俺は首を横に振った。
「別れた彼女の事を思い出しまして」
「まだ彼女の事がお好きなんですか?」
「ええ、情けない事に」
 そう言って頼りなく笑う。するとマスターがグラスを磨きながら語り始めた。
「情けなくなんてないですよ。人との付き合いは一期一会。もう二度と会えなくなってしまう事もあるのですから、まだ彼女を愛しているなら手放してはいけません」
 その一言に俺はハッとさせられる。彼女と二度と会えないなんて嫌だ。もう一度彼女と付き合えるなら、もう恥も外聞もない。
「マスター、ありがとう」
「どういたしまして」
 俺は金を払い、バーの外に出た。ケータイを取り出し、彼女のケータイに電話をかける。
「もしもし、俺だ。この間はすまなかった。反省している。だから、もしよかったらまた俺と……」
 彼女からの返事。それに俺は泣きながら「ありがとう」とつぶやいた。

 後日マスターにお礼を言うべくまたこのバーにやってきた。はずだったのだが、バーのあった場所がテナント募集になっている。まさかこんな短い間に店が無くなってしまったのだろうか。
 俺は同じビルにある他の店の店主にあのバーについて聞いてみた。
「三階の空きテナント? あそこなら数年前からずっと空いたままだよ」
 その言葉に俺は唖然とした。それでは俺が行ったバーは一体何だったのだろうか。
 そこでようやく思い出す。あの店は渋谷七不思議の【一見さん以外お断りのバー】だ。どうやらあのマスターとの出会いもまた一期一会だったらしい。


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このストーリーに関するコメント

15/02/24 泡沫恋歌

海見みみみ 様、拝読しました。

なるほど洒落たお話で【一見さん以外お断りのバー】って、本当に存在しそうな気がしますね。

人生は一期一会だから、大事にしたい出会いもあるのでしょう。

素敵なお話、楽しく読ませていただきました。

15/02/24 海見みみみ

泡沫恋歌様

ご覧いただきありがとうございます。
渋谷の街ならこんなバーが本当にあるかもしれないと妄想をふくらませ、このお話を書きました。
一期一会の出会いを大切にして生きていきたいものですね。
こちらこそ素敵な感想ありがとうございました。

15/02/25 草愛やし美

海見みみみさん、拝読しました。

京都生まれの私には、「一見さんお断り」の店の存在はよく耳にしますが、その反対なんですね。確かに儲からないでしょうね、お店はどこも、リピータに来てほしいものです。一期一会のバー、渋谷のどこかに現実にあるのかもしれませんね。
「一期一会、いちごいちえ」ってカクテルを大阪新地のバーで飲んだことあります。苺ベースでミルク味でかなり美味しかったです。今はそのバーは閉店になっています。そっか、あの店で私があれを飲んだからかもですね。苦笑 渋谷の街には、都市伝説もたくさんありそうですね、面白かったです。

15/02/25 海見みみみ

>草藍さん
ご覧いただきありがとうございます。
こんなお店が渋谷に本当にあったら面白いですよね。
作中に出てくる『一期一会』カクテルは創作なんですが、現実にも『一期一会』というカクテルがあるなんて驚きです!
お店が無くなってしまったのが残念ですが、もし残っていたら大阪へ旅行に行く際、飲みに行きたかったです。
渋谷の街には他にも都市伝説がたくさんあるでしょうね。
それで物語を書くのも楽しそうです。
それでは感想ありがとうございました!

15/02/26 11doors

もう二度と会えなくなるかも知れない男女を、
もう二度と会えない定めのマスターがつなぎとめる。
おもしろい作品ですね。

「情けなくなんてないですよ。人との付き合いは一期一会。
もう二度と会えなくなってしまう事もあるのですから、
まだ彼女を愛しているなら手放してはいけません」

このシチュエーションにふさわしい粋なセリフですが、
もう二度と同じ人と会えないツラさを一番知っているのが、
実はマスター自身。それが、後からじわじわ感じられるのが、
この作品を一度読んで、二度美味しく感じるところでしょうか。

15/02/26 海見みみみ

さいのめさま
ご覧いただきありがとうございます。
マスターは一期一会の切なさを知っているからこそ、主人公を送り出せたのでしょうね。
マスターのことを思うと私自身も切なくなります。
でもきっと今も渋谷のどこかで生きる都市伝説として、マスターは【一見さん以外お断りのバー】を続けているのだと思います。
それでは感想ありがとうございました!

15/02/26 海見みみみ

>志水孝敏さま

ご覧いただきありがとうございます。
今回は渋谷だから都市、都市と言えば都市伝説ということでこのようなお話になりました。
物語を通して少しでも温もりが伝われば幸いです。

15/02/26 水鴨 莢

読ませていただきました。
やさしい素敵なお話でした。
私は結構、話には毒だったり刺激だったりを求めがちなので、たとえば
オチにもう一捻りあってやさしいまま終わらなかったら自分好みだった
のかなとか考えてしまいました。
でもこれはあくまでも個人の好みの話ですので、そんな人もいるのだな
程度に流してください。
話自体は本当、やさしくて少しふしぎな世界でよかったです。

15/02/26 海見みみみ

>水鴨十一さま

ご覧いただきありがとうございます!
毒のあるブラックなお話も素敵ですよね。
ただ今回は明るい話に仕上げたかったので、このようなお話に仕上がりました。
それでは感想ありがとうございました!

15/02/27 ユリイカ

オチがすごく良かったです。これこそ短編という感じで、話しの入り方も書き慣れておられるようで非常に読みやすかったです。
渋谷七不思議の残りが非常に気になります。

15/02/27 海見みみみ

>ユリイカさま
ご覧いただきありがとうございます。
オチを意識して書いた作品なので、そこを褒めていただけて大変嬉しいです。
渋谷七不思議の残りは秘密です。
『実は七つ存在しない』というのが四つ目の七不思議かも笑
それでは感想ありがとうございました!

15/03/11 光石七

拝読しました。
面白い都市伝説のお話ですが、出会いというものについても考えさせられました。
マスターの主人公を諭す台詞がいいですね。ラストまで分かったうえで読み返すと、さらに深いものがあります。マスター自身が一期一会を繰り返しているから……
なんだか優しく切ない気持ちにさせられる、素敵なお話でした。

15/03/11 海見みみみ

光石七さま>
ご覧いただきありがとうございます。
そうですね、マスターの視点に立ってみるととても切ないお話だと思います。
マスターの言葉は経験上のものなのでしょう。
こういう都市伝説系の話は書くのが初めてだったのでとても楽しかったです。
それでは感想ありがとうございました!

15/03/14 冬垣ひなた

海見みみみさま、拝読しました。

不思議なお話ですね。七不思議というと怖い系を思い出しますが、こんなバーになら行ってみたいなという気持ちになってきます。
世の中、一期一会の方が多いはずなのですが、私たちは普段その事を全く気にしていない。でも、あのマスターは今もきっと遠くから見守ってくれているんだ……そういう温もりの感じられる、いいお話でした。


15/03/14 海見みみみ

冬垣ひなたさま>
ご覧いただきありがとうございます。
普通七不思議というと怖いお話ですよね。
そこを今回はあくまで『不思議』にこだわってみました。
こんなお店があったら私も行ってみたいです。
マスターはきっとこことは違うどこかでまたいろんな一期一会を重ねているのでしょうね。
マスターのことを思うと、切なくもなりますが、心温まります。
それではかんありがとうございました!

15/04/04 風富来人

海見みみみ様、拝読しました。

作品を読んで感動の鳥肌が立ちました。
作品を読みながらショートフィルムを見ているような感覚に陥りました。
短い文章の中にバーの雰囲気が盛り込まれている事が特に印象的でした。
素敵な作品に出会えた事を感謝しております。

15/04/04 海見みみみ

風富来人さま>
ご覧いただきありがとうございます。
感動したとのお言葉、大変嬉しく思います。
もともと私自身バーが好きで、その大好きな雰囲気をこの作品に盛り込んでみました。
その点を褒めていただけたのがとても嬉しいです。
それでは感想ありがとうございました!

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