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みやさん

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砕け散った夢の欠片達

15/02/09 コンテスト(テーマ):第七十七回 時空モノガタリ文学賞 【 渋谷 】 コメント:6件 みや 閲覧数:1004

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夢は叶う、未来は君の手の中にー

渋谷のスクランブル交差点の付近にデカデカとその文字は、大きなビルの大きなスクリーンに映しだされている。最近良く流れているCMのキャッチコピー。これを見る度に俺はいつもイライラする。
夢は叶う?は?奇麗事言ってるんじゃないよ。世界中の人間の夢が叶うとでも言うのか?冗談じゃない、と怒りさえ感じる。夢が叶うのはほんの一握りの人間だと言う事くらいは今の時代、小学生でも理解しているはずだ。

信号が青に変わった瞬間に一斉に歩き出す波の様な人、人、人。この中に夢が叶った人間は果たして何人いるのだろう?あんたの夢は叶ったかい?俺は全員にそう聞きたい衝動に駆られる。

俺の子供の頃の夢はF1レーサーだった。その夢は果たして叶ったか?もちろん叶っている訳がない。今ではしがない車屋のしがないセールスマンだ。俺は車を売りたかった訳じゃない。車に乗りたかったんだ。イヤな客に愛想笑いして車を買って貰いたかった訳じゃない。颯爽とカッコイイF1レーサーになりたかったんだ。けれど、夢を追い続けたところで叶う筈もない。夢だけでは生きていけない。生きていく為には金がいる。金を稼ぐ為にはやりたくない仕事だってしなくちゃいけない。

夢が叶う事を諦め、生活の為、金を稼ぐ為に夢だった職業とはかけ離れた仕事を仕方なくこなしている人間がこの世には星の数ほどいる。悲しいが俺も紛れもなくその中の一人だ。だから夢は叶う、などと言う奇麗事が俺は大嫌いだ。

そもそもF1レーサーにどうやったらなれるかなんて誰も教えてくれなかった。誰か教えてくれよ、F1レーサーにどうやったらなれるんだい?

今日もクタクタに疲れて家路に向かう。今日午後に相手をした客は羽振りが良さそうで、即決を期待していたが散々焦らされた挙句契約は保留にされた。なんだよ買う気も無いのに来るんじゃねぇ。イライラしながら家の玄関のドアを開けるとチビ達が飛んで来る。七歳の娘と五歳の息子。パパおかえり、と纏わり付く。寄るな、触るな、俺にひっそりと一人で愛しいコレクションのスポーツカーのミニチュア達を愛でさせてくれ、と思うけれどなかなかそうはさせて貰えない。

急いで着替えて食卓に付くと、とっくに晩飯を済ませているはずのチビ達がまたもや纏わり付く。飯くらいゆっくり食いたいもんだよ。娘がパパ見て、と自分が描いた絵を俺に見せる。すまん、絵が下手過ぎて何を描いているのか俺には分からん。

「大きくなったらケーキ屋さんになるの」
娘がうれしそうに言う。将来の夢というタイトルで小学校で描いてきたのよ、と妻が補足する。ケーキ屋だったら叶うはずだ。悪くない。

「そうか。良い夢だな。頑張れよ」
俺は素っ気なく娘に言う。夢は叶う、などとは口が裂けても言うものか。夢を叶える為には才能と努力が必要だ。お前にその才能があるか?努力をする覚悟はあるか?ケーキ屋になるにはパティシエの資格を取る必要があるぞ。高校を卒業したら製菓の専門学校に通わせてやらなくては、と俺は考える。

「ぼく大きくなったらえふわんのれーさーになる!」
次に息子が嬉しそうにそう言ってはしゃぎ出した。おい、その手に持ってるミニチュアカーは俺の大切にしているランボルギーニカウンタックじゃないか!勘弁してくれよ…しかもF1のレーサーは俺の夢だ!俺の夢を取るな!

妻がそろそろ寝なさいよ、と子供達を寝かし付ける。俺は息子が遊んでいた手垢でベタベタになったミニチュアのランボルギーニカウンタックをアテに、ほろ酔い気分でスマートフォンでF1レーサーにどうやったらなれるかを検索する。息子がF1レーサーになれるなんて息子には悪いが父親の俺でも思わない。思わないが、どうすればなれるのか、ぐらいは教えてやりたいと思う。力になってやりたい、導いてやりたいと思う。それが親の務めのはずだ。息子の夢は多分叶わない。そして息子の叶わなかった夢を誰かがきっと叶えるのだろう。そして金を手に入れる。叶わなった誰かの夢の欠片達を拾い集めて…

子供達がやっと寝静まり、キッチンで洗い物をしている妻に俺は聞いた。
「ママは夢とかあったのか?」

妻は洗い物を終え手を拭きながらクスクスと嬉しそうに笑う。
「夢ね、あったけどもう叶ったみたい。…三人目出来たみたいなの」

妻の夢は余りにささやかで叶っても金は手に入らない。けれど、その夢は金では決して手に入れる事が出来ない。やった!と俺は心の中でガッツポーズ。その夢に俺は多いに協力出来ていたはずだ。


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このストーリーに関するコメント

15/02/09 レイチェル・ハジェンズ

こんなに愛のない主人公が出て来ると、逆にすがすがしささえ感じますね(笑)

 自分の子供を表面上だけ思いやる親父は問題でしょう。親は子供のためなら死ねるし、世界中が敵になったとしても守るもんでしょう。そもそも「夢」については読者それぞれの価値観がありますから、主人公ひとりで語っていても「違う」のではないかと思います。沢山の人の具体例を提示してこのお話での夢の価値観を固定したり、抽象的な表現でぼやかすなど、方法は幾つか。
 ……その常識感で私達はお話を拝見させてもらっているのですから、これだけ濃い主観描写がトップから来ると配慮がない作品なのかな、というのが第一印象です。

 仕事に嫌気がさしているようで、しかも我慢しているようで。それから思いを爆発させて“変化”(転職という手もありますが)をつけさせた方がこの主人公を使うのであれば面白かったのではないでしょうか。静かに沸々としているのはどうも癖にならない。

 弾けるっていうのも、それはまた別のお話ですね;
 何も事件が起きないのがこのお話のセールスポイントだと思っているので、俺もそれが好きでコメントさせてもらった訳ですから、話の方向性のお話はこれまでにしておきましょう……。


 どうも男女で作品の見方が違うようで、女は自分の日常生活や考え方と照らし合わせて読み進めて行くそうなんですが、「夢は叶わない」「諦める」と挫折を知っている身なので(笑)、共有できるモノがあったので、自然と主人公に同情を寄せてしまいました。夢を叶えるには裏技でも使わないと、才能ない人には無理ですよねー……。

 主人公のイケメンっぷりが素敵でした。
 これからも頑張って下さい!

15/02/11 みや

レイチェル・ハジェンズ様

コメントありがとうございます☺︎
愛情が無い様に見えて実は愛情に溢れている不器用さや、叶わずに砕け散った夢の欠片達にも価値があるのだということを表現したかったのですが…なかなか上手くいかないですね。

15/02/19 水鴨 莢

初めまして。
読ませていただきました。

ネガティブなことばかり言ってるのになぜだかイヤな感じがしないという不思議な印象の作品でした。最後の二行がなくてもそういう印象だったと思います。
考えてみますと、実際一般的にウケがいいのって前向きでふわふわした言葉なんですよね。それも大抵はべつにまちがってはいないんですけど、でもちょっと負の面無視しすぎじゃない?ってたまに思ったりもします。

主人公もそんなふうに考えて、現実的かつ具体的に考えて、すっごいツッコんだりはしてるんですけどでもそこでクサって終わりにするじゃなく、その上でそっからどう考えるか?子供がいるならその考えや経験をどう活かしてやるべきか?をさらに考えていますので、じつはこの人は正しく前向きなんじゃないかって感じも受けます。

あと夢はやぶれながらも、現状は現状でたしかにある幸せをしっかり感じているところも良いです。かくあるべき、夢の成就だけが人の幸せじゃなし、とか思ったりもしました。

一応非常に細かいツッコミなんですけど、最後の行の、多いに(大いに)の誤字は、本当に最後の行だっただけに気になってしまいました。
でもとにかく好きな作品です。

15/03/01 みや

水鴨十一 様

コメントありがとうございます☺︎

大きな夢が叶わなくても、実はささやかな夢で現実は出来ているんだな…と思いながら書いた作品です。誤字には気付かなくてとても恥ずかしいです…

15/03/11 光石七

拝読しました。
自分の夢が叶わなかった不満をだらだら引きずっているようでいて、本当は家族を愛し大切に思っている主人公の不器用さに思わずクスリとしました。
三人目もできたことだし、自分でも新たな夢をみつけて頑張ってほしいです。

15/04/03 みや

光石七 様

コメントありがとうございます☺︎
主人公の幼い頃の夢は砕け散ってしまったけれど、新しい家族の誕生はきっと自分では気付いていなかっただけで、主人公の新しい夢だったのかもしれません。そして息子が主人公の砕け散った夢の欠片達を拾い集めて引継いでくれるなんて…それはとても素敵な事だと感じます。

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