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霜月秋介さん

しもつきしゅうすけです。 日々の暮らしの中からモノガタリを見つけ出し、テーマに沿って書いていきます。

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聖なる領域へ

15/01/17 コンテスト(テーマ):第七十四回 時空モノガタリ文学賞 【 空港 】 コメント:6件 霜月秋介 閲覧数:1362

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  私は、妻のアヤカと娘のマナミの三人で家族旅行の為、空港に来ている。
『ブー!コノヒト、ナニカ隠シテル!』

  私が金属探知機をくぐると、ブザーが喋りだした。

「あ!パパだけ、ひっかかったねー!」

「すみませんお客様、身に付けている金属類、外していただけますか?」

  警備員がそう言うと、私は腕時計やベルトなど、考えられるものを外して再び探知機をくぐった。

『ブー!マダ隠シテルゾ!怪シイヤツ!』

  またひっかかった。

「お客様、この探知機は『聖なる探知機』でございまして、心の中に少しでもやましい隠し事があると反応してしまうのです」

「ほー!よくできてるものだな。これなら犯罪者乗れないな。科学も進歩したもんだ」

  しかし、私に隠し事?はて…あのことか?

「すまないアヤカ、マナミ。実はパパ、先週パチンコで二万円ほど負けてしまってね。すまない。金を無駄につかってしまって…」

「あなた…」

  白状した私は、再び探知機をくぐった。しかしまたひっかかった。

『ブー!チイセエヤツ!ソウジャネエ!』

「お客様、いいですか?飛行機とは人様の遥か上を飛ぶ、神聖なる乗り物。機内は聖域なのです。そんな場所に、モヤモヤしたものは持ち込めないのです。飛行機に乗るためには、全てをさらけ出し、心を純粋にしなければならないのです。貴方だって、頭の上を汚れた物が通ったら嫌でしょう?」

「そりゃあそうですけど…」

「さあ!言うのです。貴方の心に潜んでいる邪気を追い出すのです!」

  じゃああの事か?

「実は数日前、夜中に小腹が空いて冷蔵庫をみたら、旨そうなロースハムが入っているではありませんか。封は切られていて、十枚前後入ってたんで、一枚ぐらいつまみ食いしてもバレないだろうと食べたら、いつのまにか全部食べちゃってて…」

  それを聞いた妻は怒った。

「まあ!あれはあなたの仕業だったのね!マナミだと思ってマナミを叱っちゃったのよ?最低!」

「すまない…」

「もういいよパパ。これでパパのモヤモヤは消えたんでしょ?」

「マナミ…」

  罪を告白した私は、スッキリした気分になり満面の笑みで探知機をくぐった。

『ブブー!コイツ!マダキタネエ!』

  私のにこやかな笑顔は一瞬にして梅干しのようにしわしわになった。

「お客様、まだ何か隠してますね?そんな状態で飛行機に乗る気でいるなんて、ヘドが出る」

「私は何も隠してない!その探知機がおかしいんだ!」

「まあ!いいですかお客様!人というのは自分の過ちに気づきにくいものなのです。自分が信じている正義が、本当は悪であるということも考えられるのです。あなたは自分の過ちに気づかず、更にはモノのせいにしている、正真正銘の悪です。そんな貴方を飛行機に乗せる訳にはいきません!お引き取り下さい」

「ま、待ってくれ警備員さん!悪かった。私が悪かったよ。でも私は本当に何も隠しちゃいないんだ!信じてくれ」

  私は必死だった。念願の、始めての家族旅行だ。マナミも飛行機に乗るのを楽しみにしていた。帰るわけにはいかないんだ。

「いいでしょう。わかりました。ではお客様、その探知機に直接手を触れて下さい。そうすれば、貴方の内なる邪気をさらけ出す事ができます」

「は?」

  この探知機は、触れるだけで心を読み取り、邪気を追い出すことができるそうだ。

「なら最初からそう言ってくださいよ警備員さん!回りくどいことして!」

  私はためらうことなく探知機に触れた。

『私は妻に内緒で、ベッドの下にグラビアアイドルの写真を隠している!袋とじを開けたエロ雑誌やDVDもだ!妻や娘が寝静まったのを見計らって、じっくりと鑑賞しているのだ!何が悪い!』

  私の心の声は、空港内のアナウンスのスピーカーから響き渡った。妻や娘はもちろん、空港内の客全員の耳へ…。

  その後、私は探知機をくぐることができ、飛行機に乗れた。しかし初めての家族旅行は、終始気まずいものとなった…。

  


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このストーリーに関するコメント

15/01/17 夏日 純希

>貴方だって、頭の上を汚れた物が通ったら嫌でしょう?

いや、もうなんて言うか、この一文が大好きです。
アナウンスにより、煩悩は果たして浄化されたんでしょうかねぇ。
まぁ無理でしょうね(笑)

今後も良策のショートショート、量産して下さい。楽しみにしてます。

15/01/20 泡沫恋歌

志水孝敏 様、拝読しました。

隠し事のない人間なんて、たぶんいないでしょう。
だとしたら、飛行機に乗れる人は小さい子どもと認知の老人だけになっちゃいますよ。

とりあえず、禊ぎをしてきれいな心と体になってから挑戦しよう。

15/01/24 草愛やし美

霜月秋介さん、拝読しました。

やられた〜〜バッタリ! 面白すぎて倒れました。
「飛行機とは人様の遥か上を飛ぶ、神聖なる乗り物」ですよねえ、全く、思ったことなかったです。
しかも、探知機のこの発達ぶり、素晴らしい。
これなら、テロなんてのも起こらない。全て世は事もなし、平和になります。一日も早く、設置を、……いや、でも、まずいかもですね。昨日、私は、赤信号であの信号を渡って……ムニャムニャ。設置は見合わせることにします。苦笑

政治家のみなさまなんて、絶対通れませんから、設置はないかも。とか、いろいろ読後も想像して楽しんでしまいました。いや、面白かった、うけまくりました。拍手喝采です。

15/01/26 光石七

拝読しました。
『聖なる探知機』の精度、すごいですね。そんなことで引っかかってしまうとは……
逆に引っかからない人っているのでしょうか?
楽しいショートショートでした。

15/02/01 霜月秋介

ご感想有り難うございます。
夏日さま
気に入っちゃいました?そのフレーズ(笑)実は真っ先に浮かんだのがそのフレーズなんです。
志水さま
そうなんですよね。奥さん、隠していることはあるのかもしれないですが、それは別にやましいことでは無いようです。
恋歌さま
おっしゃる通りです。隠し事のない人間などいないです。
世の中には隠しておいた方がいいこともありますからね。
草藍さま
草藍さまの腹筋を鍛えるために、この掌編は生まれたのかもしれません。今後もご期待ください(笑)
光石七さま
この探知機はまだ試作品のようです。どんな些細なことでも反応してしまうので、改善が必要となるでしょう(笑)

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