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みやさん

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ピアノなんて好きじゃなかった

15/01/12 コンテスト(テーマ):第七十五回 時空モノガタリ文学賞 【クラシック音楽 】 コメント:2件 みや 閲覧数:1008

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美帆ちゃん、ピアノを習ってみない?

小学一年生だった私に祖母はピアノを習う事を勧めた。今なら祖母も母も弾けないのに何故と不思議に思うけれど、本当は祖母は母にもピアノを習わせたかったのだが、母が拒否したらしい。我が子で叶えられなかった夢を孫の私で叶えたいー

だから祖母は孫の私にピアノを習わせたかったのだ。そしてエリーゼのためにと言う曲が祖母のお気に入りだったから、というシンプルな理由もあったと言う事を私は習い始めてかなり経ってから知る事になる。

ピアノと言えば女の子の憧れ…という定説は一昔前の事なのだろうか?私は特別ピアノに興味も憧れもなかったけれど、近所の仲良しの二歳年上のお姉ちゃんがそのピアノ教室に通っていた、ただそれだけの理由でピアノを習う事にした。

習い始めてすぐの頃は楽しかった。自分も知っている単純な曲例えばチューリップだとかをただ弾けば良かっただけだから。仲良しのお姉ちゃんと一緒に教室にも行けるし、遊びの延長感覚だった。そんな私に第一の関門が訪れたのは習い始めて一年程たったピアノ発表会だった。恥ずかしがり屋の私は出るのが嫌だと泣き喚いて抵抗したけれど、先生は許してくれるはずも無くて、無理矢理出場させられた私のピアノの出来は散々なものだった。先生や両親や祖母はただ出るだけで満足していたけれど、小さな私にはそれは拷問でしかなかった。

私にはピアノが向いてないかも…と思い始めてからは何だが本当にイヤになってきたけれど、私の弾く下手くそなピアノを喜んでいる祖母の手前辞めたい、とは幼心に言う事が出来なかった。けれどピアノの教科書のバイエルも段々難易度が上がってくる。初めはト音記号だけだったのに、ヘ音記号が出現。右手はト音、左手はヘ音、と分かっていても手がついて行かない…それは第二の関門だった。

習い始めて三年程経った頃にやっとピアノ曲らしいエーデルワイスという曲が弾ける様になった。祖母は自分が聴いた事のあるクラシックぽいその曲を私が弾くととても喜んで、おばあちゃんこの曲も好きだけど、エリーゼのためにがもっと好きなの。早く美帆ちゃんに弾ける様になって欲しいわ…と遠い目をした。私も遠い目をして無理だよおばあちゃん、と心の中で呟いた。

8部音符、16部音符、音符の数が増えて行くともうそれはおたまじゃくしの集団にしか見えない。第三の関門だった。加えてピアノは毎日練習しなくてはいけない、と言う先生の教えが私を苦しめた。小学校高学年ともなると友達と遊びに行く時間が欲しいし、ピアノなんて弾いてられないよ、と言うのが私の思いだった。けれど毎日ピアノを弾く事を勝手に日課にされていた私はサボった翌日には二日分弾かされるという罰を与えられていた。

中学になるとピアノを弾く事が益々イヤになっていた。ピアノが弾けたら何か得する事があるの?無いです。逆に合宿コンクールの伴奏者に任命されるというイヤな役目を押し付けられます。将来ピアニストになれるの?なれません。よっぽど才能のある人で無い限り…おばあちゃんごめん、私はピアニストにはなれません、決して。

ピアノの教科書がバイエルからブルグミュラーにグレードアップすると、もう本当に私の手には敵わなくなってきた。第四の関門。おばあちゃんの念願のエリーゼのためにも教わったけれど、私が弾くと何だが微妙なエリーゼのためにになってしまう。聞いてるおばあちゃんも何だか微妙な顔になる。こんな曲だったかしら?テンポが遅くてごめんね、おばあちゃん。

中学三年生になると、受験勉強を口実に私はピアノから解放された。やった!万歳!これでピアノを弾かなくて済む。そう思う私はやっぱりピアノが好きじゃなかったんだ。無事に高校受験を終え、ピアノの無い生活に味を占めた私はついにピアノを辞める事を家族に宣言出来た。高校に入ったら通学時間が掛かるしバイトだってしたいし、と言うのが私の言い分だ。折角今まで習ったのに、続けなきゃ勿体無い、と言うのが祖母の言い分。両者一歩も譲らない構えだったが、母の一言で呆気なくその言い争いは幕を閉じた。これからも続けててもピアニストになれる訳じゃなし、お金の無駄よね。

私が大学一年生になった現在、我が家のピアノは重い重厚なカバーを掛けられて、部屋の隅でオブジェと化している。何年も蓋を開けてさえもらえず、もちろん調律もしてもらえていない。祖母が私の為に買ってくれたピアノ。苦痛でしかなかったピアノ。もう誰にも弾いて貰う事の無いピアノ。ピアノなんて好きじゃなかった、そう思うけれど…美帆ちゃんの子供がピアノを習ってくれるといいね、と祖母の新たな野望が膨らむ。私の子供が上手にエリーゼのためにを弾いてくれるといいね、と私が言うと、エーデルワイスで十分よと祖母は笑った。


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このストーリーに関するコメント

15/01/25 クナリ

すごく重たくなりそうでそうならない、家族間での微妙な温度差や距離感が、描かれている日常に似つかわしくないほどのハラハラ感を生んでいますね。
なんとなく含蓄のあるラストまで、面白かったです。

15/02/01 みや

クナリ 様

コメントありがとうございます☺︎

確かにサスペンスになってもおかしくない様な展開ですね(笑)
主人公がピアノをやめる事が出来て本当に良かったと思います。

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