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村咲アリミエさん

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ラブラブトラブル

15/01/11 コンテスト(テーマ):第七十三回 時空モノガタリ文学賞【 隣室 】 コメント:2件 村咲アリミエ 閲覧数:878

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 隣人同士のトラブルは、とても幸せな解決を迎えた。

 ある寒い日の朝、五号室と六号室の住人から、大家に連絡が入った。
「隣の人がストーカーなんです!」
 警察に連絡をした大家の判断は、賢明だった。警察が来るから、と言われた二人は、それまでの憤りっぷりが嘘のようにおとなしくなった。
 やってきたのは若い警察官だった。大家の部屋の居間で座り込む男性と女性の目の前に、正座をする。男性と女性は、こいつは公正な判断をするんだろうな、とでも言いたげにじろじろと警察官を見つめた。警察官は少しだけ目を右往左往させたが、さすがはプロ、一息ついて、きりりと二人を見つめ返した。
「ストーカー、ということで」
 そうなの、そうなんだ、と大声で叫ばれ、警察官はまあまあと手で二人を制す。
「まずはあなたから……お名前は」
「木下よ」
 女性が、なぜだか不満そうにがなる。
「一年前に引っ越してきてね、もう限界で連絡したの」
「限界はこっちの台詞だ!」
 立ち上がろうとする男性を、警察官が再度なだめ、それで、と木下の続きを促す。
「最初はいい人だったのよ、挨拶もきちんとしてくれたし。でも、半年ぐらいしてね、突然、ブラームスがお好きなんですかって! 私の部屋から聞こえたなんて言ってるけど、嘘よ、聞き耳立ててたのよ、ストーカーよ!」
「それはあんたが、ある日突然虫が出たって騒いだから、心配で!」
 警察官は小さくため息をつき、男の名を訊ねた。
「俺は森野」
 森野も不満そうに鼻を鳴らす。それでだ、と続きを勝手に語りだしたため、大家は警察官を横目で見た。止めたければ止めればいいのにと警察官は思いながら、そっと大家に耳打ちをした。
「お互いの主張を自由にしてもらいましょう。互いに鬱憤が溜まっているようですし」
 大家が頷くと同時に、森野が叫ぶ。
「俺は心配してたんだ! 大丈夫かなって、そしたら、自然といつもより音が耳に入ってくるだろうが!」
「何でブラームスだってすぐに分かるのよ、そんなにはっきりと聞こえる?」
「聞こえたよ! あんたが思ってるよりも大音量で流してくれてさ! 俺が指摘してから、さらにだ」
「それはあんたがブラームスの事好きだっていうから、かけてやったんでしょ!」
「頼んでないね! それに、モーツァルトもバッハもかけてたじゃないか!」
「それはあんたが鼻歌で歌ってるから! あんたの好みの音楽をかけてあげたいじゃない!」
 そこで森野は眉をひそめ、おいおいおいおいと半笑いで警察官の方を向いた。
「きいたかよ! 鼻歌がどうやって聞こえるんだ? 俺は外に出たら絶対に歌わないって決めてる、俺は家の中でしか歌わない、歌うときも小声だ。なぜなら歌が下手だからだ! こいつ、俺の部屋に盗聴器しかけてやがった! こいつこそストーカーだろ!」
 木下は、うっと言葉をつまらせた。警察官はふむ、と立ち上がろうとする。詳しくきかせて、と言いかけたところで、木下が金切り声をあげた。
「あんただって私の部屋を執拗に覗いたでしょ!」
「いつだよ!」
「何かと私の部屋に来たじゃない。長話したときに、私の部屋をちらちら覗いてたの、知ってるんだからね!」
「だからそれはお前が不必要なまでに虫を怖がるからだろ? もしかしたら虫が住みやすい部屋なのかって、思うだろうが! 毛糸が落ちてて、芋虫かと思ったとか呟いてるだろ、いつも心配で気が気じゃないんだよ!」
 木下の目が丸く見開く。
「なんであんた、そんなこと知ってるのよ? それ、昨日の話じゃない! あんたこそ、盗聴器仕掛けたんじゃないの?」
 今度は森野が言葉を飲む番だった。

「あー……」
 警察官は、人差し指で頬をかいた。
「まとめますと、木下さんは森野さんの好みの音楽を知りたくて盗聴器を仕掛けた。森野さんは木下さんの虫嫌いを心配して盗聴器を仕掛けた。間違ってませんよね?」
 お互いがうう、と唸るような肯定の返事をする。
「それって、お互いがお互いを思いやった結果じゃないですか」
「……まあ、そんなに心配してくれてたのは、知らなかったけど」
 木下が、下唇を突き出す。
「俺も……音楽の件は、知らなかった」
 森野が眉間にしわを寄せる。
「お互い、お互いのことを気になっているのでしたら、真正面から向き合ってみてはいかがですか? 喫茶店にでも行って、音楽の話や、虫の話でもすればいいんですよ」
 ほらほら、と警察官が促すと、二人は目を合わせ、じゃあ、と立ち上がった。
「まあ、話しあってまとまらなければ、いつでも来てください」
 警察官の言葉に頷き、二人は頬を赤らめながら、大家の部屋から出て行った。
「……あの」
 大家が、小さく言う。
「なんか、すみません」
「……いえ」

 警察官は、あほらしい、と言う言葉を、すんでのところで飲みこんだ。


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このストーリーに関するコメント

15/01/14 光石七

拝読しました。
結局、お互い好きだったんですね。痴話喧嘩の予行演習のような会話に、ラストの警察官じゃないですけど、妙に脱力感を覚えました。
仲良くやってください、お幸せに。
面白かったです。

15/02/13 村咲アリミエ

光石七様

コメントありがとうございます!
返信が遅くなってしまい、本当に申し訳ございません。

騒がしいコントといいますか、やってろっていう喧嘩ってありますよね笑
脱力していただけてよかったです。
私も書いていながら、脱力致しました笑
面白かったですの一言が幸せです……!

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