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あこさん

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糸 ー再会ー

15/01/09 コンテスト(テーマ):第七十四回 時空モノガタリ文学賞 【 空港 】 コメント:0件 あこ 閲覧数:852

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全ての事柄は糸で結ばれている。近づいたり、離れたり、もつれたりしながら時を刻んでいく。

慌ただしく人が行き交うなか、私は途方にくれていた。
欠航、と書かれた電光掲示板を眺めながら、これはどうしたものかと悩む。ふと思い出したように、カバンの中から手紙を取り出した。
可愛らしく、そして読みづらい字で、おたんじょうびかい、と書かれている。 明日は娘の3歳の誕生日だ。単身赴任でしばらく娘の顔を見ていない。妻にもこの日は必ず帰るよう念押しされている。

新幹線に乗るか、いや、この時間にはもうないかもしれない。
1人の女性が私を呼び止めた。
「お困りですか」
制服に身をつつみ、優しい笑顔の女性だった。
「ええ、欠航になってしまいまして。整備不良だそうで…」
「まぁ、でしたら、こちらの、そうオレンジの椅子にお座り下さい。いえ、そちらでなく二列目です。」
そう彼女は私を促した。代わりのチケットでも用意してくれるのだろうか?彼女は私が座るのを見て、満足そうに何処かへ歩いていった。
5分待っても彼女は戻ってこなかった。忘れられたな、と思い席を立とうとすると、前の席に座っているカップルが喧嘩をしだした。別れ話のようだ。
嫌なものに出くわした。女の方は泣き叫び、ハンドバッグで男を叩いていた。
今動くのは気まずいな、と思い再度腰を掛ける。女はさようならと言い荷物を持って帰っていった。
男は居づらそうに頭を下げていた。ふとその横顔に見覚えがあった。
「大川じゃないか」
声をかけると男が振り向き驚いたのち、照れくさそうに笑った。
「恥ずかしい所を見られたな」
大学の同級生の大川だった。確か7年前の結婚式に招待したきり、会っていなかった。
「お前はいつまでも若いままだな」
「へへ。彼女の地元に来たんだけどね、彼女の両親や友人たちと会ううちに、腰が引けてしまったよ」
私は大川の隣へと移動した。
「彼女の分のチケット、今からでもキャンセルできるかな」
そのチケットは私が乗りたかった飛行機のものだった。
「なんだか申し訳ないんだけど、そのチケット、譲ってくれないか」
大川はもちろんさと笑った。
機内では昔話に花を咲かせ、あっという間に家族の待つ家に着いた。
「お礼に今度ご馳走するよ」
大川はひらひらと手を振ってタクシーに乗った。大川を見送りながら、空港での女性のことを思い出した。
彼女があそこに座れと言われなければ、大川に会うことも、ましてや飛行機に乗ることもできなかった。これは偶然というべきか…


「パパおかえりなさい!」
久しぶりに会う家族の顔に身体の底から安堵した。
そういえば、と空港で大川に会ったことを妻に話していた。すると妻は頭をかしげて
「大川さんは戦場でカメラマンをされている方でしょ。日本に帰ってきてるのかしら」
そういえば、そうだったかもしれない。私は胸騒ぎがしてテレビをつけた。

ーー今入りましたニュースです。本日の日本時間の19時頃、ジャーナリストの大川達也さんが銃撃に巻き込まれ死亡しました。戦場での子供たちの写真を主に活動していた大川さんは………

それは、私と大川が会っていた時間だった。


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