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地ー3さん

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無情な隣室

15/01/06 コンテスト(テーマ):第七十三回 時空モノガタリ文学賞【 隣室 】 コメント:1件 地ー3 閲覧数:773

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 隣室。
 読んで字の如くとなりの部屋。部屋の隣に位置する部屋。THEお隣さん。
 私が住む安アパートの自室、その両隣にも部屋がある。
 そして、安アパートに住んでいれば壁が薄くてプライバシーもへったくれもないというのはご存じだと思う。両隣のお部屋の会話どころか、独り言さえ聞こえる。
 例えば、右隣。
「指名手配から逃れて一年。このまま逃げ切れればいいんだがな」
 普段は愛想の良く爽やかなイケメンの隣人である。指名手配犯みたいですが。
 ちなみに、左隣。
「あの野郎が二つ隣に住んでいる情報をやっと掴んだんだ。確実に捕まえてやらぁ」
 普段はヤクザみたいに怖く鬼のような強面の隣人である。お巡りさんのようですが。
 そして真ん中に位置する部屋に住むのが私である。一般人です。
 隣人として最高な犯人さんと隣人として早く出て行ってもらいたい刑事さんの間に挟まれる生活に私は日々胃を痛めているのである。
 しかし、今日をもってその緊張感から解放される。
「これ以上待っていたら逃げられるかもしれねえ……俺は一人でも奴を捕まえてみせる!」
 突然の刑事の決意表明とともにドアが開く音。きっと犯人さんを確保しに行くのだろう。
 犯人さん逃げて! 善良な一市民として言っちゃいけない言葉だけど逃げて!
 隣人としてはあんたの方が断然いいから!
 犯人さんの部屋の前に辿り着いた刑事さんがオンボロのドアノブを握りしめる音が耳に響く。
「警察だ、観念しろ! ○○! もう逃げられんぞ!」
 怒号とともに刑事さんが踏み込んだ! 犯人さんはどう出る!?
「見つかってしまいましたか……逃げも隠れもしません。どうぞ」
 あ、観念した。壁の向こう側で、両手を差し出している犯人さんの姿が容易に想像できる。年貢の納め時ということだろう。私は犯人さんが時折見せるひどく疲れた表情を思い出した。彼はきっと長い逃亡生活に疲れたのだ。
 こうなったら、犯人さんが一刻も早く出所出来ることを祈るしかない。
 ドカドカと荒い足音が私の部屋の前で止まった。
「刑事さん。最後にお隣さんに挨拶してもいいですか?」
「あぁん? てめぇみたいな社会のゴミが一丁前に要求なんざしてんじゃねぇよ!」
 犯人さんの願い出を刑事さんが口汚く否定する。
「お願いします」
 だが、犯人さんは一歩も退かなかった。強い口調、疲弊した犯人さんから出たとは思えない芯の強さがこもった声だ。
「……まったく、早くしろよ」
 犯人さんの意志を感じ取ったのか、刑事さんは渋々ながら了承した。
 そして、ノックする音ともに私の部屋のドアが開かれ、犯人さんが顔を出した。
「ごめんください」
「はい」
 犯人さんの顔は憑き物が落ちたかのような晴れやかなものだった。
「どうも。お騒がせしました。私のこと薄々感づいていたでしょう。それなのに通報せずにいてくれてありがとうございました。もう会うこともないかもしれませんが、どうかお元気で」
「……えぇ、お元気で」
 言葉少なく私たちは別れを告げた。別れはあっさりとしたものだったが隣人として、私たちはそれなりに仲良くやっていたと思う。
 あんなにいい人が刑務所に叩き込まれ、あんなに怖い人が警察なんかやっている。
 世の中、無情である。

 世の理不尽さを噛み締めた私は携帯電話を取り、とある番号へと発信する。
 1コール。2コール。鳴り響く呼び出し音を我慢し、目的の相手が電話に出るのを待つ。
 そして、7コール目で相手が出た。
「もしもし編集長? 特ダネ、ゲットしました」
 真ん中の部屋に住み、記者を生業とする私はもう一度思った。
 世の中は無常である、と。


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このストーリーに関するコメント

15/01/09 橘瞬華

拝読しました。
何とも発想がユニークで、冒頭から一体どうなっていくのかわくわくしながら読みました。オチが最高ですね。こういうお話、大好きです!

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