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山田えみる(*´∀`*)さん

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帰郷メランコリイ

12/07/09 コンテスト(テーマ):第九回 時空モノガタリ文学賞【 群馬 】 コメント:0件 山田えみる(*´∀`*) 閲覧数:1951

時空モノガタリからの選評

最終選考

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 群馬。
 『馬の群れ』という字面から田舎と思われがちな地域ではあるけれど、わたしにとってはかけがえのないふるさとだ。東京の大学では群馬生まれであることを告げると笑い者にされたけれど、そのたびにわたしは顔を真っ赤にして怒ったものだ。
 いまわたしは数年ぶりにこのふるさとに帰ってきた。未曾有の不況と就職難により、わたしは新卒の適切な時期に働き口を見つけることができなかった。両親からはこっぴどく怒られ、甘えだとなじられ、こうして帰郷することになったのだ。
 荷物はすでに実家に送ってあるので、リュック一つで駅に降り立つ。吹き抜ける風に色はないけれど、東京のそれと群馬のそれでは明らかに違う。ビルの窮屈な隙間を右往左往するような風ではなく、遙かな山から自由に吹き抜ける風を受けて、わたしは大きく深呼吸をした。まぶしい日差しに微笑んで、うつむいた。
 家に帰れば何を言われるかわからない。
 「よぉ」
 駅で懐かしさをかみしめていると、男性の声が聞こえた。その方向を見やると、ベンチに座っている男が片手をあげていた。よく見れば、おねしょをしていたころからずっと一緒だった幼馴染みだった。
 「へいま?」
 「暗い顔してんな」
 記憶にあるものより、ずっと大人らしくなり、背が高くなった平馬の隣を歩きながら、畦道を歩く。昔は歩幅の違いなんて気にしないでずんずん進んでいくやつだったけれど、いまは問題なく隣を歩くことができる。
 「あんたなんでこんなところに。名古屋の大学に行ったんじゃなかったっけ?」
 「ありゃー、途中でやめた。いまは実家の飯屋を継いでるんだ」
 「あんなに継ぎたくないって言ってたのに」
 幼い頃から、平馬とそのお父さんの仲の悪さは有名なところだった。隣に住んでるわたしからしてみれば、夜中に怒鳴り声と皿の割れる音が聞こえることもざらにあった。
 「いろいろあってな。お前もいろいろあったみたいじゃないか。聞いてるぞ」
 「まぁね」
 わたしはこの一年間の無様な姿を伝えた。あのあわただしい灰色の世界を思うと、いま歩いているこののんびりとした世界はもはや異次元のように思えた。夢の中の世界であればいいのにと思ったが、里帰りしてもすぐに就職活動を始めなければならない。
 「どこも働き口がなかったら、うちで雇ってやろうか」
 平馬がそんなことを言うので笑ってしまったが、意外なことに彼は冗談を言っているような顔ではなかった。こどものころはお気楽なことばかり言っていたのに。
 変わったんだなあ。いまの平馬のほうが大人で頼りがいがあるのだけど、昔のように笑い飛ばしてくれるのを期待していたのもまた事実だ。
 「食ってけよ」
 そのまま二人で黙りこくり、歩いていると、平馬の実家にたどり着いた。昔のままの建物で、わたしと平馬が落書きをしてこっぴどく怒られた看板もそのままだ。
 「久しぶりだなあ。ねえ、平馬の料理を食べさせてよ」
 「おうよ。修行の成果を見せてやる。いつものでいいか?」
 わたしはよく高校の帰りにここに寄り、いつも特製ソースカツ丼を食べていた。平馬に女らしくないと笑われながら、これを食べないと元気が出ないのよと反論したものだ。
 「らっしゃい。おぅ、美咲ちゃんじゃねえか」
 「お久しぶりです。お父さんもお元気そうで」
 出されたソースカツ丼のにおいを嗅ぐと、お腹が鳴ってしまった。気が重くて朝から食べていなかったことを思い出し、いただきますと元気よく言ってから箸を入れた。東京のどこでも味わえない奥深い特製ソース。柔らかいカツ。炊き立てのご飯とのハーモニー。
 ついついかき込んでしまってむせると、平馬が苦笑しながら水を出してくれた。ごちそうさまと手を合わせ、丼を返すと親父さんが苦そうな顔をした。
 「お前さんとこのご両親、ずいぶんと怒ってたぞ」
 「……そうですよね」
 わたしは役立たずだった。一年間、あることないこと織り交ぜて自分をアピールしてみても、誰もすくい上げてはくれなかった。ほかのみんなはうまくできている。平馬もここで頑張っている。両親がわたしに呆れるのは当たり前だった。
 「ごちそうさまでした。また食べにきますね」
 「おう!」
 平馬に付き添われ、わたしは家の前でうつむいていた。気が重い。できることなら避けたい。怒られたくない。何を言われるかわからない。
 震えていると、平馬が手を握ってくれた。
 ぴんぽーん。
 チャイムを鳴らすと、しばらくしてどたどたと駆けてくる音が聞こえた。わたしは平馬の手をぎゅっと握る。ドアが開かれる。数年ぶりに見た父と母が目に入った。
 「おかえり!」
 ぽかんとしていたら、平馬に肩を叩かれた。そうか、ずいぶんと一人暮らしをしていて忘れていた。おかえりを言われたら、笑顔でこう言うんだ。
 「ただいま!」


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