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高橋螢参郎さん

何でもいいから金と機会おくれ

性別 女性
将来の夢 二次元に入って箱崎星梨花ちゃんと結婚します
座右の銘 黙り虫、壁を破る

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むかし、むかし。でも今は....

14/12/27 コンテスト(テーマ):第七十二回 時空モノガタリ文学賞【 喪失 】 コメント:1件 高橋螢参郎 閲覧数:1415

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「よくも騙しやがったな、あのクソアマ!」
 一人の老人が、誰もいない冬の浜辺で水平線に向かって悪態の限りをついていた。彼があの浦島太郎であるなどとは信じ難かったが、それでも彼は浦島太郎なのだ。助けた亀に連れられて竜宮城に行った、まさにその帰りである。
 帰還した太郎を待ち受けていたのは様変わりした地上の風景と、それ以上に変わり果てた自分自身だった。服装こそ絵本でよく見るままだったが、その他には現在の彼と過去の彼とを繋ぐものは一切見当たらなかった。海面に映し出されたその姿は散々たるもので、黒髪からは色が抜け落ち、背筋もくの字に曲がってしまった。村の若衆の中でも一、二を争うほどの美男子であったはずなのに、刻まれた深々とした皺や老人性の大きなしみのせいで見る影もなかった。
 事実かつて住んでいた村へ一度戻ってみたのだが、浦島太郎を知る者はいても目の前の老人がそうであると信じる者はやはりいなかった。この不当な扱いに一悶着起こして人を呼ばれそうになったところを、続かなくなった息をぜぇぜぇと切らしながら逃げだして来たのだった。
 太郎は打ち捨てられ波を被っていた漆塗りの箱を忌々しげに睨んだ。クソアマ、もとい乙姫に渡された箱は白い煙をもうもうと呑気に吐き続けていた。あの煙を浴びたせいで俺はこんなじじいになってしまったのだ、そうに決まっている。
 もし竜宮城に行かなければ今頃はどうなっていただろうか。もしかしたらうだつの上がらない漁師などではなく立身出世の道を歩み、官職にでもついていたかも知れない。それが何のつぶしも利かないじじいになってしまったではないか。
 文句のひとつでも言ってやりたかったが、箱を開けたのは見送りの亀が帰った後だった。仕方なく太郎はその場に立ち上がり、大きく息を吸い込んで大海原に思いの丈をぶちまけた。
「バカヤロー!」と。
「誰がバカだ!」
 まさか、と遠くなった耳を疑いながら霞む目をこすって声のした方をじっと見つめていると、人影がすっと波間へ立っていた。そのままこちらへとゆっくり近づいて来るのが遠目にわかった。どう考えても、ただの人間の為せる所業ではなかった。
「あっ、乙姫さま!?」
「白々しいわ!」
 亀に乗って現れた乙姫は、開口一番吐き捨てるように言った。絢爛な衣装に身を包んだ噂に違わぬ美女だが、その表情は普段の気高さをかなぐり捨てて険しかった。
 それにしてもいつまでも若々しいままだ。太郎は彼我の差をまざまざと見せつけられて、また腸の煮えくり返る思いがした。
「おい、何であんな箱を持たせた!?」
 太郎の指差した先に転がった玉手箱を認め、乙姫は首を傾げた。
「……お土産が何か」
「何が土産だ! まさに冥土の土産じゃねぇか! おかげでこんなじじいに……お前のせいで俺は人生で一番いい時期を全部フイにしちまった!」
「それは自業自得でしょう」
「何でだよ! 戻ったらこんなに時間が経ってるなんて聞いてないぞ!? まあ百歩譲ってそれは良しとしても、何であんな妙な箱を……」
「? 箱箱と先程からおっしゃってますけど、あの箱はただの入れ物で……」
 一向に要領を得ない乙姫に、太郎はいよいよ掴みかからん勢いで波打ち際まで詰め寄った。
「だからその中身が問題なんだろうが! 浴びたらじじいになる煙なんて嫌がらせにもほどがあるわ!」
「は?」
「知らばっくれんな! ……たったちょっと、遊んで帰って来ただけでこの仕打ちかよ。くそ、亀なんてほっとけばよかった」
「……あ、そういう事ですか」
 わなわなと節くれだった掌を震わせる太郎の訴えにようやく得心のいった乙姫が告げたのは、この世で何よりも残酷な現実だった。
「しっかり経ってますよ、あれから1500年ほど」
「は!?」
 今度は太郎が聞き返す番だった。
「1500年って何、え、ウソだ。普通気付くだろ」
「そんなもんですよ。楽しい時間っていうのは」
「い、いや騙されんぞ。大体そうなる前に何で帰してくれなかったんだ」
 これに乙姫はむっとして答えた。
「あなた、一度でも帰りたいって言いました?」
「……」
「とにかく、事実は事実です。まあでも、1500年間衣食住には困らず過ごせたなら全然いいのでは?」
 何ならその間の諸経費を請求しても、と逆に詰め寄られると、太郎も流石に話題を変えざるを得なかった。
「な、ならあの妙な煙は……」
 急ぎ玉手箱のもとへと駆け寄ると、晴れた煙の下から冷えた包みがごろんと転がり出て来た。
「その煙ドライアイスっていうんですよ。ご存知ないでしょうけど。冷やしておきたいものを運ぶ時、本当に便利で。あ、お土産は氷菓ですから溶けないうちに食べてくださいね。では」
 そうとだけ言い残すと、乙姫は海中深くへと引き返していった。

 太郎は鶴どころか、何者にもなれなかったのだ。


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このストーリーに関するコメント

15/01/21 滝沢朱音

高橋さん、こんにちは。読ませていただきました。
昔話をこういう解釈で書くの、面白いですね。とても新鮮に感じました。
モンスタークレーマー風な浦島太郎に、毅然として対処する乙姫さま!
特に「あなた、一度でも帰りたいって言いました?」のセリフ。こんな乙姫さま、見たことない!笑
玉手箱にはアイスクリームが入ってたのですね。煙の謎も解けて、なんだかとてもしっくりきました。

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