1. トップページ
  2. ただいま

悠さん

人見知りをします。

性別 女性
将来の夢
座右の銘 日の光を借りて照る大いなる月たらんよりは、自ら光を放つ小さな灯火たれ。

投稿済みの作品

0

ただいま

14/12/26 コンテスト(テーマ):第七十二回 時空モノガタリ文学賞【 喪失 】 コメント:0件  閲覧数:860

この作品を評価する

たあくんはいつもひとりぼっち。
今日も教室の隅っこでひとり本を読んでいます。話しかけてくれる友達はいません。
「ねえ、遊ぼうよ」
背筋の凍るような冷たい声が耳元で囁きますが、たあくんはその呼びかけには答えずページを捲ります。たあくんに話しかけるそれは、人ではないからです。
昔から、たあくんはおばけと触れ合うことができました。その力が常人にはないものだと知った時には、たあくんは既にひとりぼっちでした。それからはおばけが見えないふりをしましたが、どれだけ頑張ってもたあくんは「おばけが見える気味の悪い男の子」のままでした。
僕はこのままずっとひとりなんだ。諦めにも似た確信がたあくんの心を闇で埋めていき、その闇に惹かれたおばけたちがますます寄り付くようになりました。
たあくんが小学四年生になったころ、クラスに転校生がやってきました。名前をよっちゃんといいます。快活で人懐こく、すぐにクラスの人気者となったよっちゃんは、ひとりぼっちのたあくんにこう言いました。
「一緒に遊ぼう!」
きらきらした笑顔で手を差し伸べるよっちゃん。たあくんは何が起こったのか理解できず、気づけばひとりでに涙が頬を伝っていました。必死に諦めようとしていた光景が、いま現実になったからです。
驚いているよっちゃんに何でもないと告げ、たあくんはごしごしと目元を拭いました。そして恐る恐る差し出された手を取ると、よっちゃんは二カッと笑って応えてくれました。
それからのたあくんは、よっちゃんのおかげでクラスメイトとも仲良くなり、中でもよっちゃんとは特別仲良くなりました。これまでの日々が嘘のように、たあくんは毎日が楽しくなりました。いつしかたあくんの心の闇は晴れ、たあくんはおばけが見えなくなっていました。
それから二年が過ぎ、たあくんは無事卒業式を迎えました。晴れ晴れしい式の日を、たあくんは憂鬱な気持ちで過ごしました。この春休みによっちゃんが引越すことが決まっていたからです。
引越しの二日前、たあくんとよっちゃんは二人きりで遊びました。場所は一年前に度胸試しの場として人気だった、すっかり水の引いた立入禁止の用水池です。用水池の淵を歩くよっちゃんの後ろに、たあくんが重い足取りで続きます。
「…僕たちもう会えなくなるんだね」
「明日のお別れ会でも会うじゃん」
「それはそうだけど…」
「泣いてんの?」
「だって…」
自分の人生を変えてくれた、生まれて初めてできた友達。大切な存在がいなくなってしまう現実に、たあくんは涙を堪えることができませんでした。
「……くく」
たあくんがぐすぐすと鼻をすすっていると、息を漏らすような笑い声が聞こえました。ぼやけた視界でよっちゃんを捉えると、胸を衝く言葉がたあくんの耳を貫きました。
「俺、お前のこと友達だなんて思ってないよ?」
「…え?」
口端を歪めて笑うよっちゃんに、たあくんは言葉を失います。
「お前がおばけ見えるっつうから近づいただけ。なのに聞いたら見えないって言うし。ほんと興醒めっていうか?まあ小学校卒業したら引越すの決まってたし、それまで友達ごっこに付き合ってやっただけ」
たあくんは鈍器で頭を殴られたような衝撃を覚えました。この二年間で楽しかったこと、嬉しかったこと、けんかしたこと、仲直りしたこと…全部嘘だったのか、と。
たあくんの心に、じわりと黒いものが染み出します。
「そんなことも知らずに、お前はずっとよっちゃんよっちゃんって、本当にばか」
最後まで言い切ることなく、よっちゃんは用水池へと落ちていきました。激情に突き動かされたたあくんに突き飛ばされたからです。
「はあ、はあ……よっちゃん?」
衝動的な怒りが引いたたあくんがよっちゃんに呼びかけます。しかしよっちゃんが返事をすることはなく、変な格好のまま地面を赤く染めていくだけです。
「…よっちゃん!」
たあくんの呼吸は徐々に浅くなり、心臓は脈打つスピードを速めていきます。よっちゃんの体を押した自分の両手が小刻みに震え、その手も滲んでよく見えなくなりました。
僕は、よっちゃんを、殺してしまった。
自覚した途端ぶわっと涙が溢れだして、噛み合わない奥歯ががちがちと音を立てます。
「はあっ、はあっ」
たあくんが膝から崩れ落ちそうになったとき、誰かがたあくんの体を抱き留めました。涙でよく見えませんでしたが、たあくんにはそれが誰なのかすぐに分かりました。二本だった腕が三本四本と増え、最早腕とは呼べないものまでがたあくんの体にまとわりつき、そのうちの一つがたあくんの目元を覆い優しく涙を拭いました。
「おかえり」
背筋の凍るような冷たさが、今のたあくんには懐かしく感じられました。心の中が闇で埋まっていくのを感じ、たあくんは乾いた笑い声をあげて、それから、自らを抱き留める存在に全てを委ねました。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン