藍田佳季さん

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14/12/26 コンテスト(テーマ):第七十二回 時空モノガタリ文学賞【 喪失 】 コメント:0件 藍田佳季 閲覧数:846

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 香奈の葬式から帰った夜、俺はただぼんやりとしていた。
 酸素が薄まったような感覚。精神的な酸欠状態。
 こんな俺を見たとして、香奈は多分「しっかりして」と言うだろう。けどそれは俺の想像でしかない。
 香奈のことを思うのはやめて前に進むべきだ。
 そう頭では思っても気持ちがついて行かない。それは違う、ともう一人の自分が言っている。
 頭と心がここまで分離するとは酷い。俺は自分に呆れながら、緩々とベットに転がりこんだ。目を閉じればそのまま眠りに落ちるだろう。
 風呂も入ってなければ歯も磨いていない。けど、もう起き上がる気力がなかった。だらしないと思いながらも布団を被る。

 と、その数秒後に携帯電話が鳴った。
 仕方なく起き上がり、布団を出た。携帯のディスプレイを見る。
 そこに表示された名前は、滝本香奈。
 俺はとうとうおかしくなったらしい。死者が電話をかけてくるはずがない。
 目をこすった後、もう一度見た。けど、画面表示は変わらない。俺は恐る恐るボタンを押した。
「はい」
『あ、真聡? 久しぶり』
 その声に、電話の文字を見たとき以上に驚いた。これは香奈だ。でもそれは有り得ない。
「……何で?」
『何でって、特に用はないけどかけてみたの。タイミング悪かった?』
 話し方は香奈そのものだ。けど、本人なわけがない。
「悪いも何も……君、誰?」
『誰って、酷いなそれ』
 俺の動揺に彼女は落胆していた。何故だか濁った笑みがみえる。俺はそれに嫌悪を感じながら、本当は誰なのかと考える。
 思い当たるのは一人。冷静に考えればすぐ分かることにいま気付いた。どういうつもりか分からないけど、
「酷いのはそっちだよ。君は香奈じゃない。香奈はもう死んだ」
 彼女、翠に固い言葉を投げた。けど、反応は返ってこなかった。
「姉さんが死んだことがショックなのは分かるけど、そういうことは……」
『私は香奈だよ。声だけじゃ分からない?』
 やっちゃいけない、と言おうとしたところを阻まれた。
 彼女は俺以上にショックを受けている。何があったか分からないけど、とにかく落ち着かせる必要がある。妹だと断定したうえで、
「君は香奈じゃない。翠だよ」
 諭すように言った。
『違う。私は香奈だよ。死んだのは翠のほう』
 けど、認めなかった。全く冷静になってくれない。
「なら、明日実際に会って話そうか。それならどっちが正しいのかはっきりする」
 真面目に言うと、
『……私は香奈になりたかった』翠は呟いた。『香奈として死んでたら、皆そこまで苦しまなかった』
 声としては弱いが、意思としては強い。そんな一言だった。
 
 香奈が事故死する前に何かあったのか、それとも長年に渡って積み重なった何かがそう思わせたのか。訊きたいところだけどうまく言葉が出て来ない。
 数秒間、考えた末に
「君は翠だよ。他の誰かにはなれない」
 現実を突きつけた。
 そのまま電話を切られるかもしれない、そう思いながら翠の反応を待っていると、
『こんな電話かけたりしてごめんなさい。でも誰かに言いたかったから』
 弱い声が返ってきた。
「良いよ。でも、一つ訊かせてほしい」
『……何?』
「死にたいって本気で思ってる?」
『思って……ないかも。分からない』
 混乱してるという。
「そっか。分からないなら、まだ死なないほうが良いよ。この先楽しいことがあるかもしれない。それもまだ分からないから」
『うん』
 宥めるように言ったそれに、翠は頷いた。それじゃあね、と通話を終える。彼女がまたかけてくるかどうかは分からない。俺はもう少し話せば良かったと思いながらも、かけ直しはせずにベッドに座った。

 翠は双子の姉を失い、不安定になっている。言葉には表せない色々な感情が絡まっているのだろう。
 俺に分かるのはそれぐらいだ。
 詳しいことを訊き出す気はないけど、一度会って話す必要はあるだろう。お互いにもう一度立ち上がるために。

 というと、二人同じ立場にいるように聞こえるけどそれは全くもって違う。付き合っていたとはいえ他人だ。血が全てだとはいわないけど、双子の繋がりのほうが強固であることは確かだ。
 埋まらない隔たりがある。
 けど、とにかく会う約束を取り付けたい。自分の携帯電話に香奈の番号を表示させた。おそらくこの番号にかけるのはこれが最後だ。

 俺が電話で最後に言った言葉は、俺自身が心の奥底で思っていたことだ。表に出るきっかけをくれた翠を助けたい。傲慢にもそんなことを思いながら、発信ボタンを押した。


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