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高橋螢参郎さん

何でもいいから金と機会おくれ

性別 女性
将来の夢 二次元に入って箱崎星梨花ちゃんと結婚します
座右の銘 黙り虫、壁を破る

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土くれは語らない

14/12/21 コンテスト(テーマ):第七十二回 時空モノガタリ文学賞【 喪失 】 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:1075

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 果てのない闇の中、無数の土くれたちがぷかりと宙に浮かんでいた。
 大きさは巨大なものから取るに足らないようなものまであり、あるものは絶えず燃え盛り、またあるものは決して溶けない氷に覆われていた。それらはまるでよく整備された機械のように、決まった軌道をただ粛々と、延々と周り続けていた。
 ごくまれに道を逸れた土くれ同士がぶつかって割れたり、古くなったものが爆発したりとその数は絶えず増減していたが、それも無限と思しき土くれの総数からすれば誤差程度でしかなく、そこに見出される意味はほぼなかった。
 誰からも祝福される事なく産まれ、誰にも看取られずに消えていく。土くれどもは黒一色に塗り潰された静寂の下で、ひたすらに始まりと終わりの瞬間だけを何度も何度も繰り返した。ここに腕のいい指揮者はいても楽団はいない。そういった風な有様だった。

 そんな土くれの中にたったひとつだけ、熱くも冷たくもないものがあった。
 その土くれの上には珍しく色々なものが載っていた。水、岩、砂、草。そして様々な生き物がちょろちょろと這いずり回り、日々生殖行為と殺し合いのみに明け暮れていた。
 確かに珍しくはあるのだが、土くれ自体は他にも掃いて捨てるほどあるのだ。中にはまあ、こういうものもあるだろう。たったそれだけの事だ。結局他の土くれ同様粉々に砕け散って、そこにいるものを道連れに似たような終焉を迎えるであろう事は火を見るよりも明らかだった。燃えていようが凍っていようが生き物がいようが、同じ事でしかない。
 そう、すべてが無意味だった。
 当然、これは逃れられぬ宿命などといった感傷的な物事では決してない。開闢以来いつの時もずっと、ありふれた予定でしかなかったはずなのだ。

 我々人類が核戦争にて一人残らず退場した後には、斯くのごとく一切の感情の入り込む余地は用意されていなかった。
 いや、本来の姿に戻ったと言うべきなのか。唯一の観測者の死により、頭上に広がる宇宙は再びただの闇と化した。神話を失った星座は散り、千年に一度の流星雨から奇跡は消えた。地球に残された生き物たちが当たり前に行う生殖と殺戮――二つの本能的行為も、冷静な因果関係を今ではすっかり失っていた。生きる事と殺す事が混淆し、互いの尾を相食んで作った閉じられた環の外では、他にも実に多くのものが見過ごされていった。
 朝露に濡れた花の艶やかさも、
 澄んだ水面にふと広がった大きな波紋も、
 水平線の彼方より昇る朝日がくれる希望も、
 凍った寒空で満ち欠けする月の侘しさも、
 ただ、流れていくのみだった。
 怨嗟の声が消えた代償に、
 鳥の歌や虫の音も生き物の呻きから選り分けられる事もなく、
 すべて、そのすべてが、
 何にも繋がらぬまま、夜の海のような救いのないモノクロの世界へと静かに沈んでいった。

 確かに人間は贖い切れないほど大きな爪痕を地球に残して消えた、どこまでも愚かな存在だった。
 この土くれを母なる地球と呼んでいた事自体が一方的な思い込みであり、傲慢極まりないその性質を如実に表していた。当の人間自身でさえ、自虐的にそう見ている風すらあった。だが人間をそう断じる事ができたのもまた、人間しかいなかったのだ。
 かつてこの土くれが地球と呼ばれていた事を知る者も、もはやいない。四つ足で歩く彼らがいずれの時か立ち上がって手を取り合いかつての人間の事を評価する日が来るのかも知れないが、それがいつになるかはわからないし、そもそも再びそうなる保証はない。
 少なくとも今は、この宇宙のすべてが黙り込んでいた。それを黙祷とまで言ってしまうのは、やはり傲慢に過ぎるのだろうか。


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