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坂井Kさん

今年(2014年)は思い付きと勢いだけで書いてきましたが、来年(2015年)は、状況設定をもう少し固めてから書こうかな、と思っています。スティーヴン・キングによると、「状況設定をシッカリとすれば、プロットは無用の長物」らしいですから。

性別 男性
将来の夢 夢というより目標として、来年(2015年)こそ長編小説を書き上げたい。
座右の銘 明日はきっと、いい日になる。

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バカ兄貴

14/12/19 コンテスト(テーマ):第七十三回 時空モノガタリ文学賞【 隣室 】 コメント:2件 坂井K 閲覧数:989

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 私の隣の部屋にいるのは、アホボケクソカスバカ兄貴。二十代も半ばになるのに、引き籠っている駄目なヤツ。高二の夏から引き籠り、今年ですでに七年目。兄さん兄貴お兄ちゃん――そう呼ぶ気などしないから、私はいつも呼び捨てだ。

――昔々あるところに、一人の少年がおりました。元々は臆病者だった彼ですが、有りったけの勇気を出して、村を荒らし回る盗賊を、知恵を使って捕らえます。しかし、優しい彼は、盗賊に止めを刺すことが出来ません。彼は二度と悪さをしないことを誓わせて、密かに盗賊を逃がしてやります――

「和馬! 出て来なよ。父さんたち今日遅いから、一緒にご飯食べようよ」隣室のドアが薄く開いて、ヤツが少しだけ顔を見せる。「俺は一応兄貴だぜ。呼び捨てするのはやめろよな」ボソボソとした声で話す。「お兄ちゃん――って呼ばれたかったら、兄貴らしいことしてくれる?」

――盗賊は、少年の村では悪さをしなくなりました。けれど近くの村々では、相変わらず盗みの被害が続きます。その手口から、少年が捕らえた盗賊と同じヤツだということが、噂になって行きました。近隣の村の人々は、少年を訪ねて問い質します。「お前は捕らえた盗賊を、わざと逃がしてやったのか?」――

「……」ヤツは反論できずに黙る。恨めしげな眼を向けながら。「言いたいことがあるんだったら、ハッキリ口に出したらどう?」「この間、課題を手伝ってやっただろ?」「この間? あれって、今から二年前だよ?」「……」ヤツは再び黙り込む。

――少年は正直に答えます。「アイツは『絶対もうしない』そう言ったから、僕は逃がしてやりました」近隣の村の人々は、激しい怒りをぶつけます。「お前は自分の村さえよけりゃ、それでイイってことなのか!」少年は静かに言葉を返します。「僕はアイツを信じます」――

 ヤツが引き籠り始めた理由を、私はあまり良く知らない。たぶんイジメられたりしたのだろうが、直接的な被害なら、中学時代の方が酷かった。挨拶がわりに腹を殴られ、道端でうずくまって泣いているのを、一度見かけたことがある。クズどもが去るのを待って、私は近付き、声を掛けた。

――少年は、自分の村の人々からも胡散臭げに見られるようになりました。ほぼ誰も、彼を信じてくれません。彼を信じてくれたのは、一人の少女だけでした。彼女が心の支えとなって、少年は何とか生きて行けました――

「大丈夫?」「大丈夫なわけないだろう……」ヤツは妹の前なのに、涙も拭わず泣き続けた。下唇を噛みながら、声を殺して泣いていた。――それでもヤツは、中学校を休まなかった。それなのに……。

――何年経っても、盗賊の悪事が無くなることはありません。人々の怒りは頂点に達し、再び少年のもとへ押し掛けます。「お前もヤツとグルだろう? 反論あるならしてみろや」――

「今さらだけど、ずっと部屋に籠ってるのは、やっぱりイイとは言えないよ。親と私以外の人と、最後に話したのって、いつ?」「……」ヤツはまだ、黙ったままだ。

――被害の様子を聞いた少年、反論せずに涙します。そして一言言いました。「もしそれが、アイツの仕業だったとしたら、僕も確かに同罪です」怒り狂った人々は、少年に暴行を加えます。少年は反撃もせず、殴られるまま。命は落さなかったものの、半身不随になりました――

 ハァ……。私は溜め息を吐く。「いっつも疑問なんだけど、家族がいない昼の間は、一体何して過ごしているの?」「多くは小説を書いている」ヤツの口から意外な返事。

――数年後、村々を荒らし回った盗賊は、人々によって捕らわれます。その盗賊は、やっぱり例の盗賊でした。彼は少年のことを聞かされて、生まれて初めて、嘘泣きではない涙を出します。縛り首になる寸前、彼は有りったけの声で叫びます。「俺とアイツはグルではねえよ!」――

「どんな小説? 見せてくれない?」「そうだな、例えばこういうやつだ」プリントアウトした紙を、ヤツは素直に差し出した。――それは信じる物語。裏切られ、傷付けられても信じ抜く、そんな少年の物語。読み終え、私は気が付いた。「これってさ、もしかして、自分自身をモデルにしてる?」

――そのとき、すでに少年は死んでいました。少年が住んでいた家の、庭の隅には、小さな墓標が立っており、そこにはこう書かれています。「優し過ぎるバカここに眠る」と。最後まで信じ続けた少女の字でした。彼女ももう、ここにはいません――

「よく分かったな。そうだよ。俺には『少女』はいなかったけど」「和馬って、本当にバカなヤツだよね」「俺は一応兄貴だぜ。バカ呼ばわりは流石にさ……」兄貴は何も分かっていない。「そのとき言ってくれてたら、私が『少女』になれたのに」

 私の隣の部屋にいるのは、バカ兄貴。本当はイイヤツなんだけど、やっぱりバカは外せない。


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このストーリーに関するコメント

15/01/13 光石七

拝読しました。
間に挿入されているお話、そういうことでしたか。
バカは外せないけどお兄さんはいい人、主人公もいい人。より良い兄妹になるのでしょうね。

15/01/15 坂井K

>>光石七さん、コメントありがとうございます。

登場人物の心情を作中作として表す、ということを一度やってみたかったので試みました。

当初は姉と弟にする予定でしたが、「ゴーンガール」という映画を観て、だらしない兄としっかりした妹の関係が「何か良いな」と思ったので、登場人物を兄と妹に変えました。

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