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鷹元さん

初めまして、鷹元たかもとと申します。 恋愛から、SF、ファンタジーなど様々な物語を執筆しています。 青春コメディーを中心に、本格的な活動をしていっています。 よろしくお願い致します。

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秋の門出

12/07/09 コンテスト(テーマ):第十回 時空モノガタリ文学賞【 自転車 】 コメント:1件 鷹元 閲覧数:1502

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周りを見ていると、その景色がどんどんと通り過ぎていって、決して止まることはなかった。唯一その景色がゆっくりめになるのは、ちょっとした上り坂になったときくらいで、それは一向に止まることを知らない。

 また、田んぼに生える菜の花の、花の数を数えられるまでゆっくりとしたスピードになったので、藤内は、目の前にある背中にむかって「降りようか」と声をかけた。

 短く切り揃えられた彼が振り向いて「バカ言うな」と文句を垂れる。親切に言ってやっただけなのに、なぜこちらが怒られなければならないんだ。思わず一樹の後頭部を叩くと、彼は「いてえ!」と叫んだ。
うるさい。


「俺は親切で言ってるんだ」

「お前は軽いから大丈夫なんだよ」

「軽くないよ。平均並みに重いよ」

「アホ。それはお前の線引きだ」


 そう言って目の前の男はまた前を向いて、必死にペダルを漕いで行く。ゆらゆらと時々重みに負けて不安定になりながら、長かった上り坂を登り終えて、自転車はようやく起動にのった。
 藤内は足をぶらぶらさせて、なんとなく面白くないな、と心の中で呟いた。一樹が漕ぐ自転車のカゴには、大きなボストンバッグが乗せられているからだ。

 田んぼ畑を通り抜けて、今度はコスモスが一面に咲いている畑の側を、風と一緒に、一樹が一生懸命にペダルを漕いでいる自転車が、通り抜けた。花の良い匂いがする。けれども、藤内はやっぱり、ちっとも面白いとは思えなかった。花に悪気はない。だって、コスモスも、菜の花も、藤内が好きな花だからだ。


「かずちゃん」

「なんだ」

「もうすぐ駅だね」

「そうだな」


 そして、もうすぐ秋がやってくる。ひやりとした空気が辺り一面に広がって、たまに見かける学生がマフラーを蒔き直していた。かくいう藤内も、ちゃっかりとマフラーを口元まで持ち上げて、寒さ対策をしているのだけれど。一樹は寒くないんだろうか。彼は下にTシャツを来て、その上からダウンを羽織っているだけの格好をしていた。風邪を引いてしまわないか少々心配だが、この男の心配をするだけ、杞憂である。

 なにせ、小学校時代は、彼は一年を通してTシャツ一枚で登校し、風邪すらひかなかった男だからだ。

 藤内は、遠くに見えてきた駅のロータリーに目を向ける。無意識に彼のダウンを掴んで、聞こえないように「面白くないよ」と呟いた。


「そうしたら、かずちゃんは自転車を降りちゃうね」

「そうだな」


 藤内は、カゴに乗せられているボストンバッグを恨んだ。この諸悪の根源が、藤内と一樹の仲を裂こうとしているからだ。藤内には、そう思えて仕方なかった。なにせここは、ビルも建物も少ない、田舎だから。

 田園地帯を抜けて、綺麗に舗装された道に出る。ここは国道だから、車が頻繁にあっち行き、こっち行きを繰り返している。それをぼんやり見ながら、藤内はまた足をぶらぶらさせた。


「藤内、お前、自転車揺らすな」


 バランスが崩れる。と、前から苦情が来てしまった。藤内はおとなしく、足を引っ掛けられる位置を探して、やっぱり自転車を揺らしてしまう。


「おい」

「わかってるよ」


 そう。わかってるよ。一樹がこのボストンバッグを持って、大都会へ行ってしまうこと。もうこの地には帰ってきてくれないこと。もう二人で自転車を二人乗りできないこと。もう二人で、簡単に会うこともできなくなってしまうこと。


「かずちゃん、駅についたよ」

「じゃ、俺の自転車をこぐのは、お前だな」

「うん」


 藤内は悔しくて、挨拶もそこそこに、彼が乗っていた自転車に跨る。一樹が乗った電車がやがて発車した。


秋のひやりとした空気と一緒に、藤内は自転車を漕ぎながら、その電車を見送るのだった。


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このストーリーに関するコメント

12/07/11 汐月夜空

>「じゃ、俺の自転車をこぐのは、お前だな」
の言葉が、自転車によるバトンタッチのようで感動しました。
最初、藤内を女だと思ってたのですが、俺ってことは男ですか? それとも俺っこで女の子なのでしょうか?
男同士の友情でも、男と女の関係でも、どことなくゆったりとした二人の別れは美しいですね。
田舎だからボストンバッグしか恨めないっていうのが独特の感性で良いと思います。似た風景があればそちらにも責任を転嫁できますが、まったく違う風景のもとへ行ってしまう一樹に対する恨み言は、田舎の風景では晴らせないって分かる気がします。

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