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夏日 純希さん

名前は「なつのひ じゅんき」と読みます。誰かに届くなら、それはとても嬉しいことだから、何かを書こうと思います。 イメージ画像は豆 千代様に描いていただきました(私自身より数億倍、さわやかで、かっこよく仕上げていただきました。感謝感激) Twitter(https://twitter.com/NatsunohiJunki) 豆 千代様 HP:MAME CAGE(http://mamechiyo555.tumblr.com/?pagill )

性別 男性
将来の夢 みんなが好きなことをできる優しい世界を作ること。 でもまずは、自分の周りの人を幸せにすること。
座右の銘 良くも悪くも、世界は僕に興味がない。(人の目を気にし過ぎてるなってときに唱えると、一歩踏み出せる不思議な言葉)

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告白ロールバック

14/12/19 コンテスト(テーマ):第七十二回 時空モノガタリ文学賞【 喪失 】 コメント:7件 夏日 純希 閲覧数:996

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 時哉は、魔法使いの祖父の話を聞くのが大好きだった。
「科学ではどうしようもないこともあるぞ」
「じいちゃん、それって何?」
 小学生の時哉はワクワクして答えを待つ。
「時の流れとか、愛とか」
「あい?」
「愛はまだ時哉に早いか。それより……時哉は時の魔法を受け継いでいるぞ。だから名前に時が入っている」
「まんまだね」
「直接過ぎて嫌だと言う身内もいるが時哉はいい名前だと思うぞ。立派な魔法使いの名前だ」
 時哉は誇らげに頷く。魔法があれば幸せになれると、その時は確かに信じていた。
 そして中学二年生になった時哉は……、校門を出た直後に車に泥水を跳ねられ、制服がびしょびしょだった。隣で舞子が堪えきれない笑いをくつくつと漏らしている。舞子と帰りに寄り道する予定だったのに、どうやら今日は……今日も行けそうにない。
 間違えて入った教室は女子が更衣中で、ガスバーナーの調節中にくしゃみをして前髪が焦げて、鬼教師の授業中にこそ睡魔が襲ってくる。魔法使いでも、間が悪い。そりゃ、告白しようと思った日には、泥水が飛んできたっておかしくはない。通算19回目の告白未遂は、諦めへの王手飛車取りかくもなし。それでも一生に一度だけ時を巻き戻せる魔法のおかげで、心はなんとか踏ん張っている。魔法は幼なじみ、兼、従姉妹の舞子への告白がもし失敗したら使うと、時哉はずっと前から決めていた。
「じゃあ、また明日」
 舞子が時哉をおいて行ってしまう。手を振って見送る時哉は、まさか告白が成功したのに魔法を使うことになるなんて、まだ想像だにしていなかった。

 ◇

「戻った?! 今、何日の何時?」
 時哉は一人、自分の部屋でスマホを探し、時間がその日の朝に戻っていることを確認した。少しほっとした後、叫び出しそうになったので、布団を頭からかぶって暗闇にこもった。だが、スマホが通知音を鳴らして、眩しい光を押し付けてくる。見ると英語のアカウント名で舞子からメッセージが届いていた。
“今日、来られるよね?”
 頭が痛いから無理、と返す。土曜日の今日は待ち合わせ場所まで赤信号一つ引っかからずたどり着けた。順調だった。
“アイス奢ってくれる約束だったのに”
 ごめん、と返す。舞子は確かストロベリーアイスを頬張っていた。時哉はバニラだったのに、一口ずつ分け合った時の苺の香りが、今も喉の奥に残っている。
“話があるって言ってなかった?”
 また今度話すよ、と返す。本当なら寒いという理由で寄り添った川辺で舞子が言った言葉。そして、時哉はそこでついに告白をした。笑顔が返ってきた。全てが完璧だった。だから悪い全ては昨日で終わって、今日からは素敵な人生が始まるんだと思ってしまった。
“私、転校することになったの”
 そっか、と返す。この言葉を川辺で聞いたとき、時哉は大きな勘違いをしていたことに気づいた。全て順調だったのではなく、告白が成立するタイミングこそが最悪だったのだ。暗い未来が浮かんでにじむ。離れた後、間の悪いすれ違いがどれだけ舞子を苦しめるだろう。幸せになれるわけもなく、できるわけもなく。それはどろどろで絶望的だ。
「だから、告白はなかったことにしよう」
 最後に時哉は、舞子と人を弄ぶ何かに向けてそう告げた。舞子も祖父の孫だから時間を戻せることは理解してくれた。理解した上で拒絶した。でも時哉も引けなかった。告白はゴールではないと“今頃”気づいてしまったから。
「待って! やっと、なんだよ?」
 風邪、遅刻、台風、人違い, etc. なかなか告白できない時哉を、舞子はいつも穏やかに見守ってくれていた。その舞子が今、取り乱していた。それでも時哉は強く首を横に振る。
「私、絶対に忘れないから!」
 時間が巻き戻るのにどうやって? 無理な話だ。時の魔法は、喪失の魔法。唯一の希望はせめて舞子のために使いたい。

 そして、あっけなく時間は戻った。

 真っ赤な頬。せわしなく動く指。見つめては逸らされた瞳。好きと言ってくれた唇。初めて見た喜びの涙。温もりで飽和した心。
 なくしたものが枕にどんどん染みこんでいく。

 通知音。

“じゃあ、お大事に”

 通知音。

“時間が戻っても、覚えてるから”

 時哉は思わず立ち上がった。どうして? 画面上のMAIKOという文字にはっとする。AIは愛? 愛の魔法を使えた? 舞子の記憶は消えなかったのか?!
「えげつないなぁ」
 最後の希望を失ってでも、失いたかった。もう失えなくて、もう戻れない、か。……おかしいかな? それなのに嬉しい? なんて。

 決めた。何も言わずに、今すぐ会いに行こう。

 外へ出ると予定外の雨が降り始めた。入れ違いになるかな。ましな場合でも着いたらお手洗い中とかかな? でも……

 それでも行こう。もう戻れない、もう戻らないから。


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このストーリーに関するコメント

14/12/20 草愛やし美

夏日純希さん、拝読しました。

魔法族のお話なんですね、時を戻せる魔法、あったら便利、いや、複雑ですね、それが喪失に繋がってしまうんですから。でも、また、時間を過ごせるということは、倍増?と。ならないのか、その前のは無くなっているのですものね、ああ、ややこしい。
でも、愛の魔法は舞子のAIKOって何か凄く素敵ですね、名前が舞子さんに出会えたら、教えてあげたいです。笑顔

14/12/21 夏日 純希

初瀬明生さん

コメントありがとうございます。
そうですね、これからも間は悪いまんまみたいなので、不安だらけではありますが、応援してあげたくなります。

てーま?! これ、セーフですよね。必ず喪失しろとは言ってないので(笑)

舞子の名前は、直接的過ぎるのは嫌だという身内がつけたんだと
僕は解釈しております。いや、じいちゃんかもですが(笑)


草藍さん

コメントありがとうございます。
時空モノガタリで、時空を超えるものを書いてみたかったんですよ。
流石にそんな時間ジャンプばかりはしていられませんでしたが(汗)
時間は戻せないに越したことはないと僕は思います。宮部みゆきさんが、ブレイブストーリーの最後で言っていたことに尽きると思います。
かなり忍耐強い舞子はMなAIなのかもしれませんね……
いやいや、せっかくロマンチックに仕上がってるのに何を言ってるんだ(笑)
ありがとうございました。

14/12/28 夏日 純希

朱音さん

はい、魔法使いの血を継いでいたから忘れずに済みました。だって、
時の魔法を超えられるのは、愛の魔法しかないじゃないですか!(知らんがな
というわけで、「愛は時を超える」が裏テーマでした。

ロマンティックな幸せがたまに書きたくなります。
現実なんか明後日に投げだした ひと時が届けられていると嬉しいです。
ありがとうございました。

14/12/30 黒糖ロール

甘酸っぱくてよかったです。
ド直球にアイを作品のなかに持ってくる度胸にも拍手を送りたいです。
なんか胸キュン(死語?)しました。

15/01/10 夏日 純希

黒糖ロールさん

時を超える愛っていいですよね。うん、これだけでご飯三杯はいけます。
胸キュンって死語なんですか?!
それは胸ズキュンな話です。やれやれ、もう年かな。
コメントいただき、また楽しんでいただけ、どうもありがとうございました。

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