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ポテトチップスさん

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フライ級を制するこの拳

14/12/16 コンテスト(テーマ):第七十三回 時空モノガタリ文学賞【 隣室 】 コメント:2件 ポテトチップス 閲覧数:918

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体重計に乗った。55.4キログラムだった。相模力也は体重計の針を見つめたままため息を吐いた。
合田ボクシングジム会長の合田守が体重計を後ろから覗きこんで言った。
「あと3.4キロの減量か」
「そうっすね」
「計量日まであと8日だ。そろそろ地獄部屋に行くか?」
「明日からにしたいんです。今日はちょっと、バイトがどうしても休めないんです」
「まあ、いいけど。でも明日から計量日までの1週間は、ジムに泊まり込みだからね」
「うっす。バイト先の店長に、明日から試合日当日まで休みをもらいましたから大丈夫です」
合田はいつもの癖であるニヤニヤ顔で「地獄部屋、極熱にしとくからね」と言って、他の練習生の指導に背を向けて向かった。
午後8時、ジムで夜の練習を終えた力也はラーメン店で皿洗いのバイトをしていた。
「力也、あと体重何キロ落とさなくちゃいけないの?」店の店長の小林健が、客の入りが途絶えたところで聞いて来た。
「今日、ジムで体重量ったら、あと3.4キロの減量が必要っす」
「すでに1ヵ月前と比べて10キロも減量してるのに、さらにあと1週間で3.4キロも減量しなくちゃいけないの?」
「俺が出場するフライ級は、計量が49キロ超52キロまでなんです。100グラムでもオーバーしてたら試合に出れないんっす」
ずん胴の中の灰汁を灰汁とりで取り除きながら小林は言った。「シビアな世界だね。ワンランク上の階級にすれば減量の苦しみをせずに済むとメタボの体の俺は思うけどね」
「みんな減量の苦しみに耐えて、筋肉の塊になった肉体で拳と拳をぶつけ合うスポーツなんっす」
「試合、観に行くからね」
「店、大丈夫っすか?」
「臨時休業にするから大丈夫。俺、一度じっくりとボクシングの試合を生で観たいと思っていたんだ」
「計量パスして、最高の試合をしますんで、応援よろしくっす」
翌日の早朝4時、セットしておいた目覚まし時計で目を覚ました。顔を洗った後、サウナスーツを着て日課の早朝ジョギングに出かけた。
10キロの距離を走り終え家に戻ると軽くシャワーを浴びた。今日から合田ジムに泊まり込で減量に励む。食事は1週間後の計量日まで一切とらないつもりだ。水分は1日1リットルまでしか飲まない。もう余分な脂肪は体にはついておらず、ここからは体の水分を減らしての減量にうつる。と言っても絞った雑巾からさらに一滴一滴、水分をとる感じだ。
ボストンバッグに1週間分の着替えを詰めて、合田ジムに向かった。
ジムに着くとニヤニヤしながら合田が言った。
「地獄部屋、いま極熱にしてるからね」
「うっす。覚悟はできてるっす」
「とりあえず今日のスケジュールは、2時間のスパーリングが昼と夜の二回ずつ。それ以外はリング横のあの地獄部屋で汗を出してもらうからね」
「うっす。よろしくお願いします」
昼のスパーリングが終わると、リング横の地獄部屋に力也は入った。6畳の広さの部屋に石油ストーブが3台、煌々と燃えていた。鼻から吸う空気が熱く、軽くむせた。
この部屋で減量に挑むのは、もう11回目だった。プロボクサーに憧れて田舎から上京したが、プロになってからの対戦成績は11戦5勝6敗と思わしい成績とは言えなかった。
学生時代は周りからヤンキーと呼ばれ、喧嘩に負けたことはなかった。「プロボクサーを目指せば」と言ってくれたのは、同じ高校のヤンキーだった仲間の一人からだった。
ボクサーになってから、負けるという言葉を知った。日本チャンピオンなどすぐになれると思っていた。世界チャンピオンも手が届くと思っていた。でも現実はあまりにも自分よりも各上の選手ばかりだった。もっともっと、強くなりたいと望んだ。今のままではダメだと練習に励んだ。
突然、冷たい風が体にあたり、まどろんだ意識から目を覚ました。合田会長がドアを開けて入ってきた。
「いやー熱いな。減量中にすまんが、ちょっと話をしておきたいことがあるんだ」
「構いませんけど、なんすか?」
合田の額からは汗が粒となって吹き出し、それが重なりあっては顎から床に滴り落ちた。
合田は人差し指でこめかみを掻きながら、言いずらそうに言った。
「計量をパスして試合日に村上選手と対戦したら……」
「対戦したら、なんすか?」
「悪いけど負けてくれないかな……」合田は言いずらそうな顔を言った。
「はあ?」
「いやね、村上選手が所属する木村ジムの会長から、つい今しがた電話で頼まれたんだよ。うちのジムは、木村ジムの会長から多額の資金援助を受けてるんだ。どうしても断れないんだ。頼む!」合田は深々と頭を下げた。
合田がこの高温に熱せられた部屋から出て行くと、力也はやりきれない思いから壁を拳で力任せに殴った。
壁には拳の跡が残るほど凹んだ。
試合を勝利で飾ったら合田ジムを辞めようと、力也は決めた。


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このストーリーに関するコメント

15/02/01 芝原駒

拝読しました。
プロの世界ゆえの厳しい現実と理不尽さの感じられる作品でした。個人的には話の展開はここから、という気もするのですが作者様としては書ききった感があるのだと思います。
台詞回しの説明ぽさが気になりました。

15/02/02 ポテトチップス

芝原駒さまへ

コメントありがとうございます。
ご指摘を参考に、今後の作品につなげたいと思います。

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