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タックさん

がんばる。

性別 男性
将来の夢
座右の銘 明日の自分に期待は持たない。

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突然の逃避

14/12/15 コンテスト(テーマ):第七十一回 時空モノガタリ文学賞【 不条理 】 コメント:2件 タック 閲覧数:986

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「…………」
「お嬢様、まだ起きていらっしゃったのですか。もう、随分と遅い時間に思われますが」
「…………」
「……お嬢様? 聞いておられますか? いかが、なされたのです?」
「……別に。なんでもないわ。ただ、月が綺麗だなあって、見てただけ。執事のあなたに心配されることなんて、なんにもないんだから。……そう、なんにも」
「……お嬢様」
「…………」
「……やはり、先のご自身のご婚姻を?」
「…………」
「ローゼス侯のお噂を、お聞きになったのですね? 女性関係に放埓であられるという侯の、ご婚姻のお相手の、その灰色のお噂を?」
「…………」
「……ローゼス候は、この国随一の富豪であらせられます。お嬢様とのご婚姻が成された際には、お父上、ひいてはこの家に莫大な富と強固な繋がりが齎されることは、間違いのないことでございましょう。……ですが、お噂通り、ローゼス候は非常な好色家であられるご様子。ご婚姻後のお嬢様お一人をその御目に映していただけるのかどうか、……身分を弁えぬ暴言ながら、私は疑問に思っております」
「……ふふ、しかたないのよ。この婚姻は、お父様のご意向。この家の名声をさらに高めるための、これは大切な婚姻であるのだもの。わたしの感情など、想いなど、家の発展の前では、木の葉に等しい軽さでしかない。……それこそ、部品にすぎないわたしには、好きな人と結ばれる希望など、淡くはかない夢物語、幼い頃のみに許される、童話のごとき空想の世界でしかないのだわ」
「……お嬢様」
「……ふふ。なんで、あなたがそんなに悲しい目をするの? これは、若く有能なあなたの待遇が上がる婚姻でもあるのよ? この家が、今よりも豊かになるのだから。お父様の地位が、さらに高まるのだから」
「…………」
「……それとも、あなたはわたしの婚姻に反対する気なの? 執事である、お父様の忠実な僕であるあなたが? ……職務を離れてわたしのわがままを聞いてくれた、目の前の優しいあなたが? 颯爽とした風のような、目の前の、強く気高いあなたが?」
「……いえ、それは。執事である私に、婚姻に反対する権利などあるはずもございません。執事である限り、私はお父上のご意向に従わせていただくだけの、僕でございますから」
「……ふふ、そうね。ああ、だいじょうぶよ。期待なんて、はじめからしていないもの。……好きな人と結ばれるなんて、わたしには遠い夢でしかないのだから。期待なんて、持つだけ無駄というものなのだわ」
「…………」
「……さ、そろそろ、あなたも休みなさい。執事とはいえ、若い男が夜更けに部屋を訪れているなんて、お父様に知れたら大事よ。静かに帰りなさい。あなたには、明日からも職務が待っているのだから」
「……ええ、おっしゃる通りです。執事である私には、お嬢様の道筋を左右する権利など最初からあるはずもなく、そしてまた、お父上に反抗する意思など、持ち合わせているはずがないのです。それは執事である限り、今もこの後も、変わることのない絶対的な事柄であることでしょう。……ですが、執事でないとしたら、どうでしょう。一人の、お嬢様を憂い、愛する、一人の解き放たれた男であるとしたなら?」
「……? あなた、なにを言って……、キャッ!」
「しっかりとお掴まりください。私の首に、手を回して」
「……あ、あなた、なにをして……」

(あ、この腕、この体の強靭さ……)

「……お嬢様。私はもはや、執事ではありません。忠義も忠誠も無くした、お嬢様をここから盗みだそうと試みている、一人の獰悪な盗賊にございます。お屋敷を出ましょう。そして誰の目も届かない、静謐な二人きりの場所へと、お嬢様をお運びすると致しましょう」
「……あ、あなた。そんなこと、本当に……」
「私ならば、可能でございます。ですがもしお嫌であれば、私を殴ってでも拒絶を。盗賊には分別がございます。その際はお嬢様の強奪を諦め、職務に戻ると致しましょう」

(……ばか、本当にばかで、とっても憎らしい、あなた……!)

「……嫌なんて、言えるはずがないじゃない……! こうして、あなたの腕に抱かれているのに。あなたと、この屋敷を出ることができるというのに……!」
「フッ。ならば、急ぎましょう。夜明けまでには、この町を出ることが出来るはず。その先のことは、私にお任せいただきます。お嬢様」
「……いや。お嬢様はもうやめて。シェリーと呼んでよ。わたしだけの、ナイト」
「……了解致しました。シェリー。私だけの、プリンセス」

 アハハ……。アハハ……。アハハ……。


………………。

………………。

………………。


「以上、本国会における首相の国会答弁を、ノーカットでご覧頂きました。質実で知られる首相の、突然の奇行。リーダーの破綻に、国民の混乱は避けられない模様です」


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このストーリーに関するコメント

14/12/16 光石七

拝読しました。
……なんですか、これ(笑)
ラストのカウンター、あまりに唐突過ぎてパンチが体にのめり込んだことに気付きませんでした。ええ、私のKO負けです。
あまりの重責に現実逃避?
癖になりそうな面白さ。この発想に完敗です。

14/12/18 タック

光石七さん、コメントありがとうございます。

……なんなんでしょうね、これ。
オチも決めないまま書き進めて、適当に思いついたものを適当にいれたら、こんなんなりました。突拍子なさすぎて、変なはなしー、と思います。そのわりにフリの部分もいま一つで、フリはフリとしてもっと盛り上げることができたのかな、と反省しきりです。

でも、まあ、いいかな、不条理だし、とテーマに甘えて出してみました。結局なんだかんだ言って、少しお気に入りの話だったりもするのです。ご一読、ありがとうございました。もっと馬鹿馬鹿しく、頑張ります。

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