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四島トイさん

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父の放った光線は

14/12/15 コンテスト(テーマ):第七十一回 時空モノガタリ文学賞【 不条理 】 コメント:2件 四島トイ 閲覧数:757

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 やっぱりビームがまずいんだよ、と助手席の父に声をかける。
 そうか、という返事は肯定にも疑問にもとれた。
 ハンドルを握り直す。フロントガラスに冬晴れの青が反射する。道はつづら折りに続き、葉を落とした山並みの中を白いガードレールが線を引いていた。黒色のアスファルトは剥離し地面が覗いていた。
 助手席に深くもたれた父は、良い天気だなあ、とのん気に呟いた。現場日和だ、と。
「……そんなに未練があるなら辞めなきゃよかったんだ。ダム造り屋」
 それを言うなよ、と父は不貞腐れた。還暦間近の男の眉間に皺が寄る。土木建設一筋。特にダム建設に人生の大半を費やしていた父が転職して三年になる。
 鹿のシルエットの出没注意の看板が視界の端で後方に流れていった。
「今の仕事だって悪かないだろう。世の為人の為だ」
「体長五十メートルの超人に変身して宇宙怪獣と戦うことが?」
 ああ、と父は息を吐いた。どこか投げやりな口調。真意は掴めない。
 大きくハンドルを切ってカーブを曲がる。洞門の向こうに巨大なダムが見えてきた。


 太平洋沿岸部に宇宙怪獣がやって来るようになったのは十数年前のことだ。
 未知との遭遇に人々は色めき立ったが、怪獣は港町をひとつペシャンコにすることで彼らに応えた。中学生だった僕は、テレビの向こうで沢山のミサイルと爆弾が投入されるのをアイスを食べながら眺めた。
 防衛費は年々膨らみ、「皆の力で効率的な沿岸防衛!」という謎のスローガンが掲げられ民間企業の参入が相次いだ。
 父が転職したのもそんな企業のひとつだった。改造手術を受けた父は、薬剤を投与すればいつでも全長五十メートルの超人に変身できるようになった。
 秘密だけどな、と足の爪を切りながら家族に報告した。
 父の特技は目から放つ強力な光線であった。他の超人達が怪獣と取っ組み合いをするのに対して、父のビームは大抵の宇宙怪獣を問答無用で薙ぎ払った。
 そして数日前。出動が遅れて焦った父は山中にビームを撃ち込み、逃げ込もうとした怪獣諸共、ダムを破壊した。


『渇水時でなかったらと思うとゾッとしますねえ』
『そもそもビームってねえ。他の超人方も兵装も配慮して戦っているわけで』
『ですよね。安直というか。倒せばいいってもんでもないでしょう』
 テレビ出演者が失笑する。朝食の席で父は無表情だった。
 父の戦いは反感を買うようになっていた。同業者は顔をしかめ、某国が危険視している、と専門家が声を潜ませ、怪獣ファンの幼女はカメラを向けられて「何で殺しちゃうの」と泣いた。
『今回被災したダム付近では市民団体による抗議活動が行われています。現場から中継です』
 画面が切り替わり山中が映し出される。大きく抉れた胸壁と辛うじて残るダム管理事務所。その駐車場に横断幕やプラカードを手にした人達が群れていた。
 不意に父は立ち上がると「散歩に付き合え」と僕に告げた。


 このダムを造るのに四年かかった、と父はダムを見下ろしながら呟いた。
 管理事務所脇の駐車場には抗議団体と野次馬とテレビ取材班がひしめいていた。父は全く気にする様子もなく、鉄柵に手をかけ谷間を見下ろした。
「計画はその倍。業者やら地質学者の先生やら役所と電力会社のお偉いさん。顔を覚えるのがしんどかった」
「大規模事業の醍醐味だ」
「ああ。資材搬入路すら無くてなあ。それでも集落があるんだから驚きだよ。爺さん婆さんばかり。上流から中流にかけて、三年に一度は土砂崩れか大水で人死にが出る土地だ」
「じゃあ感謝されたろうね」
 いや、と父は真面目な表情で首を振った。
「生まれ育った土地をダムの底に沈めるんだ。辛いさ。でも涙をのんだんだと俺は思う」
 深緑色の水が微かに揺れていた。だがな、と父は続けた。
「何年かして会社が訴えられた。全く他所の市民団体に。あのダム工事は違法で、自然破壊で、地域住民を強制的に追い出した、て話だ」
 父は長く息を吐いた。
「会社は金を積んで弁護士やら大学教授を抱えて裁判に勝ったよ。だが俺はよくわからなくなっちまってなあ」
 だから、と続いた父の声は近くの喧騒に紛れた。
 不意に「少しお話よろしいですか」と声をかけられた。振り返ると眼鏡をかけた若い男が微笑んでいた。
「地元の方ですか。ひどいですよね。まあ、あの超人にしてみれば、宇宙怪獣を倒すことが全てなんでしょうけど」
 そうですかね、と父が苦笑した。男はさらに詰め寄った。
「私達、ダムの復旧を訴えるために全国から集まったんです。農業用水に水力発電。水害の減少。このダムに地元の方がどれだけ助けられていたか。他に何か御意見お聞きになったことありませんか」
 そうですね、と父は視線を遠くした。
「そういう言葉は聞いたことなかったですね」
 渇いた笑いがダム湖の水面に落ちていった。


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このストーリーに関するコメント

14/12/16 光石七

拝読しました。
お父さんが変身ヒーロー、どんな話だろうとワクワクしながら読み進めました。
ダムにせよ怪獣退治にせよ、世のためのことではあるけれど割り切れない部分もあり、何か問題が起こると一斉に叩かれる。
世の中の不条理をよく表しているお話だと思いました。

14/12/16 四島トイ

>光石七さん
 読んでくださってありがとうございます!
 コメントまでいただけて嬉しい限りです。ワクワクするような活劇ではなく、世知辛い話で終始してしまい申し訳ないやら、お恥ずかしいやら……内容も詰め込み過ぎたと反省しております。
 もっとスッキリ仕上がるように頑張ります。今回はありがとうございました。

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