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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

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メランコリック・ペンギン狂詩曲

14/12/14 コンテスト(テーマ):第七十一回 時空モノガタリ文学賞【 不条理 】 コメント:13件 光石七 閲覧数:2036

時空モノガタリからの選評

延々と続くベルトコンベアの無機質で単調な作業、そんな日々の中「似非機械」のように無感情に陥っていくような悪夢に、目眩を感じました。これは身も蓋もない言い方ですが“DNAに逆らった夢を持ってしまったがゆえの不幸”でしょうか。夢を叶えたければペンギンは、ペンギンらしい夢を追うべきだったことは自明でしょうが、「鏡」の中の本当の自己を直視することは案外難しく、案外人は、見たい姿をそこに見てしまうものなのかもしれない、と思います。「鏡」を直視するのと「夢の途中で死」ぬのと、一体どちらが幸せなのか‥…。考えさせられる内容でした。

時空モノガタリK

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 空に憧れたペンギンの話を知ってるかい? 空を飛びたいと、崖から飛び降りては懸命に羽をバタつかせたペンギンの話。何度も挑戦するけど、失敗と怪我の繰り返し。もう体はボロボロさ。それでもペンギンは崖に上って飛ぼうとするんだ。このペンギン、最後はどうなったと思う――?

 天井の木目とシミがはっきりしてきた。カーテン越しの光と小鳥のさえずりが僕に朝だと知らせる。
(今日も生きてる、か……)
己の肉体の重みがうっとおしく、正常に機能している五感が忌々しい。ため息を吐いて布団から出る。洗面所に行き、顔を洗う。シェービングフォームを取ろうとして、鏡の中の男と目が合った。
(こいつ、誰だ……?)
わからない。こんな男、僕は知らない。
(嘘だ。わかってるだろ?)
鏡の男が顔を歪めて笑う。……そうだ、これは……僕だ。
(あまりに無様で、認めたくない?)
嘲笑され、僕は鏡に拳をぶつけた。……当たった右手が痛いだけで、鏡は割れたりしなかった。鏡の男は僕の真似をするだけの存在に戻っている。
(……仕事に行かなきゃ)
僕は髭を剃り、着替えてアパートを出た。

 ベルトコンベアで流れてきた部品を箱に詰めるだけの単純作業。自動車部品だというが、どこに使われるのか全くわからない。組み立てられた部品を指定の数に揃え、箱に入れていく。同じ部品、同じ箱、同じ動作。ただ繰り返す。誰とも、何の交流も無い。ただ作業を分担してるだけ。単調な作業に集中しながら、僕は僕を忘れる。忘れようと努める。
「ストップ!」
突然大きな声が工場内に響き、ベルトコンベアが止まった。……慣れない新入りが流れ作業のペースについて行けず、ラインが中断される。これもいつものことだ。僕は持ち場に溜まっている分を箱詰めし続ける。それらが捌ける間もなく、ベルトコンベアは再び動き出す。
 昼はロッカーにストックしてあるカップ麺。お湯を注いで休憩室で食べる。ここでも僕は誰とも喋らない。食事の後はスマホのゲームで昼休みを潰す。クソ面白くないパズルゲームだけど、没頭するふりをする。
 午後もひたすら箱詰め作業。同じ部品を同じ箱に、同じ動作で詰めていく。僕は思考も感情も切り捨て、似非機械になろうと試みる。

 仕事は定時で終わった。コンビニで弁当を買って帰宅する。シャワーを浴び、テレビをつけて弁当を食べる。どうでもいいバラエティ番組。食べ終わると一気に疲れが押し寄せてくる。

 ……まだ作業が終わらない。ベルトコンベアが運んできたものを箱に詰めていく。……いつもの部品じゃない? 白い……骨だ。三本指の足にすらっと伸びた脛骨、そこに直角にくっついた大腿骨。頭蓋骨には嘴が付いている。鳥、か……? よくわからないまま、僕はとにかく骨を箱に納める。詰め込んだ箱はどんどん積み上がるのに、骨は一向に減らない。それでも僕は骨を拾い、箱に詰め続ける――

 転寝をしていたらしい。何が面白いのか、テレビの中のタレントは馬鹿みたいに口を開けて笑っている。
 僕は立ち上がり、弁当の空容器とコップを流しに運んだ。まな板と共にスタンドに立てかけた包丁が目に入る。僕は包丁に手を伸ばした。包丁の刃を首筋に当てる。

 ――ペンギンはさ、最後死ぬんだよ。当然だろ? ……怒るなよ。ペンギンは死ぬまで空を夢見て挑戦し続けたけど、結局飛べなかったのさ。ま、そもそもペンギンが自力で空を飛ぶなんて無茶だよな。飛ぶようにはできてないんだし。

 ……話していたのは誰だったか。記憶はおぼろげだが、嘲るような口調と下卑た笑い声が気に食わなかったのは覚えている。
(ペンギンは、鏡を見たことが無かったんだろうな)
自分の姿を本当に知っていたら、愚かな努力を続けたりしなかっただろう。しかし、その努力が無駄であることを知らないまま、夢の途中で死んだペンギンは幸せかもしれない。
 僕の胸に突き刺さっている砕けた夢の欠片。全てを捧げ全てを賭けた夢だった。死ぬ気でやれば必ず叶うと信じ、逃げ道も退路も断ってがむしゃらに走り続けた。だが、与えられたのは……不適合者の烙印。そのまま強制退場、永久追放。道は冷たく閉ざされた。
 夢と一緒に僕も砕けてしまえばよかった。なんであの時そうしなかったのか。あの日以来、全てが無意味になった。負け犬の生き恥をさらしながら、僕は意味も価値も無い日々を消化している。息をし、栄養を摂取し、日銭を稼ぐ。抜け殻のくせに、屍のくせに……僕はまだ僕を埋葬できずにいる。

 包丁を首から離し、元の場所に戻した。コップと空容器を洗い、水切り籠に入れる。テレビを消し、歯磨きを済ませ、布団に潜り込む。……おそらく、明日も今日と大して変わらない。明日が来れば、の話だが。
(寝てる間に、呼吸と心臓止まってくれないかな……)
微かな期待を抱きながら、僕は眠りに落ちる。


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このストーリーに関するコメント

14/12/15 草愛やし美

光石七さん、拝読しました。

切なさに胸が痛みます。楽しくない道をもくもくと歩いているだけの主人公。退化した羽しか持たないペンギンは、彼自身。ペンギンは飛びたかったと思います。だって、仮にも鳥なのですから、願ってはいけないはずがない。だけど、羽らしきものがあるだけですものね。不条理極まりない生き物、こんな風に作られたことを嘆くでなく飛ぼうとしている。男は、ペンギンのように死ぬとわかっていても飛びたいのでしょう。でも、現実問題、踏み切れそうもない──生きることは考えてみれば、難しいことなのかもしれませんね。

14/12/16 光石七

>草藍さん
コメントありがとうございます。
ペンギンは私が「似てる」と言われる動物です。体型と歩き方が……(苦笑)
以前他サイトに書いたペンギンの詩と、過去の自分の心象風景をベースにしています。
本当はもっと詩的な言葉遊びというか、合ってるようでどこか噛み合ってない、わかる気がするけどどこかつかみどころがない、そんな雰囲気を強く出したかったのですが、そこまでできませんでした。
なにかしら不協和音的なもの、不条理感を感じていただければ、と思っていましたが、深く考察してくださり、うれしく思います。

14/12/17 滝沢朱音

光石さん、こんばんは。読ませていただきました♪

地上でのヨチヨチ歩きがかわいいペンギン。
だけど水の中では魚のように、思うがままに泳ぐペンギン。
あんなふうに空も飛べたら、と夢想し続けるペンギン。

傷だらけになって、とっくにあきらめたふりをして、
それでもあきらめきれないから苦しいのですよね。
自分の姿をはっきり見つめることは、こんなにも苦しい。
「僕はまだ僕を埋葬できずにいる」の一文が胸に刺さります。

14/12/17 夏日 純希

ペンギンさん、なんとか飛べたらいいんですけどね。

叶わない夢は不条理でしょうか。
普通に飛ぶからいけないんですよね。
ジェットでも背負えばよかったのに。

なんて、意味もないことをふと考えてしまいました。
そうねぇ、どうせなら、飛ぶことを夢見たまま死にたいですね。

14/12/17 光石七

>朱音さん
コメントありがとうございます。
朱音さんのコメントで「ああ、そうか。そういう意味でもこいつ(=主人公)は苦しんでいるのか」と気付かされました。
主人公も作者もよくわかってない部分があったりします(苦笑)
ペンギン、飛べない代わりに泳げるんですけどね。それでも空に憧れるのは何故でしょうか。
印象に残る一文があったとのお言葉、とてもうれしいです。

>夏日 純希さん
コメントありがとうございます。
ジェット……確かに。でも、ペンギンですからそういうものは知らなかったということで(苦笑)
叶わない夢を抱くこと自体は不条理ではないと思います。
人間、“私”という存在が一番不条理かな、と思ったりしますが。
私もどうせなら、夢を見たまま死にたいものです。

14/12/19 そらの珊瑚

光石七さん、拝読しました。

ペンギンって空は飛べないけれど、水の中を泳いでいるとき、
まるで飛んでるようにかっこいいです。
それでもやっぱり空を飛びたいって夢を持ってしまったら、空じゃなきゃダメなんですよね。
夢を持つことは素敵なことであるけれど、それは叶えてこその夢。
叶わなかった夢は残酷なだけであるのかもしれません。

14/12/19 光石七

>そらの珊瑚さん
コメントありがとうございます。
ええ、ペンギンは空じゃなきゃダメだったようです。
決して叶うことのない夢だと気付かぬまま夢に溺れ死ぬか、叶うことはないと知りながらもその夢に縛られたまま生き続けるか。どちらも残酷といえば残酷かもしれませんね。
それでも人は夢を見て、叶えたいと願うのでしょう。

14/12/24 黒糖ロール

身にしみるお話でした。
燻し銀の味わい、楽しませていただきました。

14/12/24 光石七

>黒糖ロールさん
コメントありがとうございます。
今まで書いたことのないタイプの話で、できればもっと言葉を吟味したかったという思いもあります。自分が通過した心境がベースではありますが、不可解感や不協和音っぽさをもっと出したかったなと。
いぶし銀とはもったいないお言葉、恐縮です。

15/03/28 水鴨 莢

読ませていただきました。
ありふれたテーマであり、展開であり、結末で、個人的にもこういう考え方は好きじゃないです。
こうした人間には哀愁を感じもするのですが、考え方自体はなんだかなと。
なので大抵のこの手の物語は、まあ特に、べつに、ってふうに読み流してしまいます。
でも、この作品は不思議と読み甲斐がありましたし、創作物としておもしろいと思いました。

多分ありふれたテーマや形というのは普遍的ってことでもあって、うまく作られればとても感情移入のしやすいものなんでしょうね。
なのでどこで個性を出していくか、読む人間に他とは何かちがうと感じさせるかだと思うのですが、この作品から具体的な要素だけ取り出したらやっぱり「ペンギン」と「鏡」であって、これを持ってきてうまく使っているからこそ、創作物語として自分の中で受け入れる価値のある作品となったのだなと思いました。

これであまり格好つけようとし過ぎると「ペンギン」と「鏡」以外の要素も入れこんだりしてしまって、飾りたいだけなのかなーとかなってしまいそうな気がするのですが(自分の場合を鑑みてそう思います)、そこらへんもきちんとまとまっているのでとにかく上手くて、本当勉強になりました。

15/03/29 光石七

>水鴨 莢さん
コメントありがとうございます。
この作品は、自分が通過したネガティブな心情を寄せ集めたようなものです(苦笑)
普段どうもいろいろ説明的に書いてしまう癖があり、テーマが「不条理」なのでそれを避けてある種詩的なものにしてみようと挑戦したのですが、まだまだですね。
語彙も表現も引き出しが少ないことを痛感します。
丁寧に読み込んでくださり、本当にありがとうございます。

16/05/23 犬飼根古太

光石七さま、拝読しました。

面白かったです。
特に、ペンギンについての語り口が素敵だと感じました。
掌編のためか割と明確なオチを用意される方が多い中、淡々とお話をまとめられているところが新鮮に映りました。そして、不条理な雰囲気にもよく合っていると思います。

16/05/23 光石七

>犬飼根古太さん
過去の作品までお読みくださり、ありがとうございます。
テーマが【不条理】ということで、普段よくやってしまう説明的な書き方を避けて、わかるようでどこか掴みどころのない、一種の詩的な作品にしたかったのですが、理想には程遠く……
なんとか雰囲気だけは出せたでしょうか。
お褒めの言葉、恐縮です。

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