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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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穴掘りビトの系譜

14/12/12 コンテスト(テーマ):第七十一回 時空モノガタリ文学賞【 不条理 】 コメント:13件 そらの珊瑚 閲覧数:1748

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 いつからこんな生活が始まったのだろうか。

 覚えてはいないのだけれど、気づいたら僕は、父さんと一緒に穴を掘っていたのだった。

 日の出と共にツルハシは正確に振り上げられ、日没と共に穴掘りは終わる。
 
 丸いその穴は、父さんが寝てちょうど収まるくらいの大きさで、夜になればその底で、僕は父さんに抱かれるようにして眠った。 そこから見上げる夜空は丸く切り取られた丸で、その中を月が形を少しづつ変えてよぎっていくのを見るのは楽しみだった。
 僕は満月の日に産まれたと父さんが言う。産んだのは母さんという人で、おしゃべりでよく笑う人だったという。でも僕が小さい頃に天に召されて、今は夜空で瞬く星のひとつになって僕らを見ているらしい。
 母さんは、父さんや僕と同じ『穴掘りビト』で、父さんとは旅の途中で出会った、と。
 母さんは美しい人であった、とつぶやく父さんは、柔らかく笑い、どこか幸せそうだった。
「美しいってどういうこと?」
「……恋の始まりさ。時期が来れば、おまえにもわかるだろう」
「穴掘りビトって何?」
「そういう風に生まれついたってこと。わしらの、なりわい、さ」
 父さんは僕が質問するたび、眉根を寄せる。困っているのだと思った。
「息子よ、どんなささいなことにせよ、答えを見つけることは難しいものだし、答えのない質問もあるのだよ、この不条理な世界には」
 と付け加えた。
 僕は父さんが好きだったから、困らせないように、あまり余計な質問はしないようにした。だから僕が自分について知っていることといっても、ごくわずかであった。
 僕らは、たくさんの満月を見送った。父さんはそれをちゃんと数えていた。きっかり百回目の満月を見た朝、ようやく穴掘りは終わる。いつのまにか、底から見上げる空はとても小さくなっていた。夜空がとても遠い。母さんの星もとても遠い……。

 ピィーーー。
 朝を目覚めさせるような高く澄んだ音。父さんが首から下げた笛を吹いていた。
 それを合図にするように、はるか上の方から、するすると一本のロープが降ろされる。
「誰がロープを降ろしてくれたの?」
「神、さ」
 今までは父さんの背中にくくりつけられてそれを登っていったのだが、今回から一人で登れと父さんが言う。
「出来るかな」
「もちろん。そういう時期が来たんだ」
 とても不安だったけれど、父さんのその言葉で、僕は勇気が出てきて、なんとかその長いロープを登ることが出来た。
 仕事をやりきったことへの満足感はあったものの、久しぶりに穴から出てみても、昔に比べて別段変わったことはない。
 見渡す限り、ごつごつとした荒れ地だった。あまりにも空が大きくて、くらくらとめまいがしそうだ。
 神とやらはもうどこにもいなかった。
 その代わりに地図が置かれている。地図には赤い丸がひとつあって、それはこの次に穴を掘る場所を示しているらしい。
 父さんは、着古してぼろぼろになったズボンのポケットから、方位磁石を取り出して、地図の上に置いた。
 それからおもむろに
「東だ」
 と人差し指を行くべき方向に向けた。
 そうして僕らの旅はまた続けられていく。

 僕らが掘った穴は、いったいなんなのだろう。

 それは答えのある質問なのだろうか。

 しかし僕はそれを父さんにもう尋ねなかった。
 無口な性分というものは、遺伝するものなのだろうか。そうであるのなら、それは確実に父さん由来のものだろう。
 ◇
 それから何十回、その一連の仕事をやっただろうか。
 隆々と盛り上がり、たくましかった父さんの腕はもはや細かった。髪の毛は薄くなり、顔には無数のしわが描かれた。僕はとうに父さんの背を追い越していた。時間というものがそしらぬ顔で、いつのまにか僕らの上を通り過ぎていったように感じる。
 笛を吹いた或る朝、小さくなった父さんが僕にこう言った。
「父さんは老いた。もうロープを登れない。おまえ一人で行くのだ」
 それは答えだった。この穴が何のために使われるのか、長年の疑問がその一言で晴れた。
 晴れてみたところで、とても悲しかった。僕らは人の墓となる穴を掘っていたのだ。そしてその一つが父さんの墓になるなんて。
 いつだったか、父さんが、他の人が掘った穴を決して覗いてはいけないと言った言葉のその訳がわかった。
 命には終わりがあって、誰もその掟からは逃れることは出来ない。人は必ず死ぬのだと。

 理屈はわかる。けれど、そんなことは出来ないと僕は泣いて首を横にふった。
「いや、息子よ、出来るはずさ、そういう時期が来たんだ」
 おまえは穴掘りビトだからな、と父さんは言った。
 その言葉は有無を言わさず、僕の背中を強く強く押した。
 


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このストーリーに関するコメント

14/12/13 そらの珊瑚

画像は「GATAGフリー画像・写真素材集 2.0」サイトより、
h.koppdelaneyさんの作品をお借りしました。

14/12/13 クナリ

異様な世界の一端のみを切り取った、渋いファンタジー小説ですね。
穴が何のために使われるのかは分かっても、主人公たちの置かれている状況自体の説明は誰もしてくれない…不条理を感じます(勝手に(^^;))。
全ての出来事の真相を親切に教えてくれる神様や賢者もなく、自分の立っている場所で自分なりに生きていく、それは程度の差こそあれ現実の自分たちもそうなのかもしれません…そうなのでしょう。
完成度の高い、味わい深い不条理劇を読ませていただきました。

14/12/13 泡沫恋歌

そらの珊瑚 様、拝読しました。

まさに、これが【 不条理 】なんだといえる秀作に出会った気分です。
何も知らされず、ただ『穴掘りビト』として毎日々穴を掘っていく、そのやるせなさがヒシヒシと伝わった。
結局、誰しも生まれたその日から『穴掘りビト』なのかも知れませんね。
いつか、自分の入る穴を掘っているのでしょう。
それが寿命ってもんだから。

14/12/14 霜月秋介

何の見返りもなく、ただひたすら穴を掘る。いずれは自分の墓穴になるかもしれない穴に…。
私が主人公の立場なら、やめますね。掘るの(笑)
素晴らしい作品でした。次作も楽しみです。

14/12/15 草愛やし美

そらの珊瑚さん、拝読しました。

まさに不条理そのものの生きざまですね。穴掘りビト、ファンタジーのようですが、その世界は暗く、何も持たない者たちゆえの切なさに心が痛みます。
人間の本質に迫る深い内容で、不条理を素晴らしく描かれた秀逸作品だと感銘を受けました。読み終えて唸りました。

今回のテーマ「不条理」は、とても難しくて悩みに悩みましたが、結局、何なのか今もわかっていない私です。(滝汗)ですが、この作品を通して、何となく不条理がわかったような気がしました、とても良かったです。

14/12/17 たま

珊瑚さん、拝読しました。
父さんを雇っていたのは、神、なんですね。 モノガタリのテーマは、神の不条理ということなのでしょうか。
その不条理は普遍と背中合わせですから、描くのはむずかしいです。でも、穴掘りビトというキャラクターが見事に演じていると思います。
発想がいいですね♪

14/12/18 ドーナツ

拝読しました。

何のために穴を掘るのか、、最期まで読んで、ああなるほど徒何か新たな発見をした思い出いっぱいです。
アナは自分の墓だったんですね。
人が生きていくこと、人生で何かをなす為に働くこと、其れはつまりは自分が最後に入る墓を掘っていることなんだ  と、、旨く言えないですがそのようなことをかんがえました。深い内容の作品ですね。

14/12/19 鮎風 遊

穴掘りビトの父の覚悟が伝わってきました。

自分の掘った穴で最後は眠る。
そんな運命を受け容れ、生きようとする息子のたくましさを感じました。

14/12/20 そらの珊瑚

>クナリさん、ありがとうございます。
それ以外に選択の余地さえ許されない、というか、思いつきもしない、
そういった人生に、不条理を感じていただけて嬉しいです。
つきつめていったら、人間はみな不条理を生きているのかもしれないと思ってみたり。
いいえ、私は自らの手で人生を選んだのよと言ってみても、選ばされたということに気づいていないだけかもしれません。

>泡沫恋歌さん、ありがとうございます。
そうそう、いつか必ずやってくる寿命の終わりまで、穴を掘るしかなさそうです。
それならばせめて自分で納得できる素晴らしい穴を掘ってみたいものですわ♪

>霜月 秋介さん、ありがとうございます。
うーん、なるほど、止めるっていう選択肢もあったか!(笑い)

>初瀬明生さん、ありがとうございます。
読んでくださった方の勝手な憶測ほど、作者にとってありがたいものはありません。
客観的に自分の作品を読むことが出来ますし、
その憶測のほとんどが正しいものであるのではないかと思います。

14/12/20 そらの珊瑚

>草藍さん、ありがとうございます。
私も実はよくわかっていませんが、
不条理という言葉は決して特別なものではないかと思います。
というか世界のほとんどは不条理の上に成り立っているのではないかと思うほど。
時空のテーマでなかったら、こんなふうに不条理について考えることもなかったかと思い、あらためて時空での創作の場に感謝したいと思います。

>たまさん、ありがとうございます。
雇い主は神か〜なるほど、そういう風にもとれますね。
いいこと教えていただきました!

>ドーナツさん、ありがとうございます。
子供のころ、一時期落とし穴を掘ることに夢中になっていたことがあります。もしかしたらこの話は、そこから…?(そんなわけないか、笑い)

>鮎風 遊さん、ありがとうございます。
息子は父の背中を見て育つとはよく言ったものですね。
なりわいは受け継がれていくべきものなのでしょう。

14/12/24 黒糖ロール

淡々とした世界観、穴の正体が気になって、墓だったという。
読後の後、それでもむなしさではなく納得させられてしまいました。
よかったです。

15/01/12 そらの珊瑚

黒糖ロールさん、ありがとうございます。

納得していただいて良かったです。
楽しんでいただけるよう、また頑張ります。

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