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雲原 拓さん

私に書けることはどんなことなのか、それを見極めるために、少しずつ書いていこうと思います。

性別 男性
将来の夢 世界中を旅して色々なものを見てみたいです
座右の銘 「If you cannot do what you imagine, then what is imagination to you?」

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河原、煙、その他の幻想

14/12/06 コンテスト(テーマ):第七十一回 時空モノガタリ文学賞【 不条理 】 コメント:0件 雲原 拓 閲覧数:1294

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 このごろ退屈だったので、みんなで学校をサボることにした。もちろん、私から直接そういう事を言ったわけではない。まずはプライドが高い紗世っちに電話をかけて、「学校前の駅を降りずにもう少し言ったところの駅で降りて、川沿いに行くと古い、もう使われていない火力発電所があるらしいんだ」という情報を会話の中でさりげなく流すところからはじめた。一週間前のことだ。彼女は面白い情報は全部自分だけのものにするから、こういう時はとても使いやすい。
 今週になって、ようやく紗世っちがその話題を休み時間にみんなの前でご披露してくれたから、やっと私は「じゃあ学校サボって行ってみようよ?」という話をすることが出来た。これも、私が何も言わなくても、悪戯好きの彩華がそれを言ってくれた。

 ゆるふわで小さな存在の私 生きのびたいから黙りこむの

 河原の道を下りながらこんな事を考えた。
 火力発電所のことをいちばん良く知っているのは私だ。だけど、それを言ってしまうとここまで積み重ねた努力が水の泡になってしまう。大きな声で喋るのは紗世にまかせ、私達のグループを先導していくのは彩華にまかせる。そうしないと中身のない質問に辛抱強く答えるハメになったり、みんながついてくるので自由な行動ができなくなったりする。そこまで考えたところで、隣のトモミに話しかけられてしまった。
 「マリちゃん、私達学校サボちゃってよかったのかな?」
 もともと、サボろう計画を立てたのは私だとも言えずに、なにか彼女が安心しそうな事を適当に返事する。大体、もう発電所まで来てしまっているのに、そんな事を言い出すなんてナンセンスだ。そんな事をいうなら一人で学校に行っていればよかったじゃないか。トモミはクラスの他の人達とも仲良いのだから、私達についてこなくてもよかっただろうに。
 到着してみると、中を探検することになった。彩華が壊れた窓をみつけ、ためらいもなく入ってゆく。他の女の子たちもおずおずとついてゆく。私も怖がってみせながら建物の中に入る。しばらくついて行った後、「埃が多すぎるから、ちょっと外に出る」といって抜け出す。トモミがこっちを心配そうに見ている。埃なんて嘘に決まっているでしょう―無駄な心配しないで。
 まっすぐ、河原まで戻る。河なんて名前だけで、真ん中のほうにチョロチョロと水が流れているのと、ところどころ小さな草が生えている以外はただの土砂だ。でも岸は立派にコンクリートで固めてあって、ちょうど段になっているところに、座り込んで、空を見上げる。

 流れゆく小さな水を温む陽 旅に出れたらしあわせだろう

 目を細めると、対岸に人だかりが見えた。群集の真ん中で誰かが大きな声を出しているけれど、何を言っているかまでは聞きとれない。おおかた失業者の集まりだろう。このあたりは多いそうだから。その中の一人が、集まりをはぐれてこっちへ歩いてくる。男だ。背が高い。ギターなんかが似合いそうな雰囲気。私のところまで来るつもりだろうか。私は少しだけ体を小さくする。

 「やぁ、君」馴れ馴れしく話しかけてきたけれど、無視を決め込む。
 「高校生かな?学校は?」
 「ちょっと飽きて、周りを見ていたら、対岸に人が見えたから。若いのに、逃げないなんて偉いね」
 「あらら。無口なんだね」
 「今日は晴れているから、開けたところで過ごすと気持ちいいよね」
 「ねぇ、煙草いる?」
 「吸ったことない」私は答える。「体に悪いって聞く」

 「それは本当だねぇ」彼は火をつけようとしてた紙煙草を箱に戻して服のポケットに入れた。
 「向こうで何しているの」私は尋ねる。
 「詩の朗読会さ」彼が嬉しそうに答えた。
 「どういうこと」私が彼に説明を要求すると、彼は丁寧に答えてくれた。
 「知っていると思うけどこのあたりは昼も暇な人が多いだろう?お金がなくてもみんなでできて時間が潰せるものが必要なんだ。それで、今流行っているのが詩ってわけ。毎日みんなで集まって、自分が作ってきた詩をみんなの前で朗読するわけさ。あるいは有名な詩人のやつを朗読するやつもいる。俺もこないだひとつ、外国の人のやつを覚えたんだ。えーと、なんだっけな、『おおキャプテン、我らのキャプテン…』」
 「毎日?」彼をさえぎって訊く。
 「そうだよ、毎日。ときどきは仕事に行くけど」彼が微笑む。
 「名前教えて」
 「コウタ。君は?」
 「…ユリコ」
 「ふーん。ユリコ。いい名前だね」
 「ねぇ、煙草ってどんな味」
 「おいしくはないさ。煙だもの」

 あかあか輝く小さな紙タバコ 私もほしい燃やしてほしい

 道のほうから、紗世っちや彩華たちの声が聞こえる。
 「私はもう帰る。コウタも、もう帰って」
 「わかった」
 「コウタ、私また来るかもしれない。そのときは煙草吸わせて」


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