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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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99年目の空

14/12/04 コンテスト(テーマ):第七十一回 時空モノガタリ文学賞【 不条理 】 コメント:14件 そらの珊瑚 閲覧数:1232

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  或る日、突然に私は闇に閉ざされた。

 トラックミキサー車から吐き出される、黒いどろどろとしたコンクリートが、隅々まで広がり、私を覆っていく。
 苦しい、止めてくれと、叫んでみたところで、声にならない声など、誰にも届かなかった。
 ◇
 晴れた日は太陽の光が降り注ぎ、おかげで私は温かくなったものだ。地熱は、私の中にある植物の種が芽を出すのに役立ったし、眠っている蝉の幼虫が安らかに夢を見るためにも必要だったに違いない。
 歩き始めたサラちゃんが転んでも、私の柔らかな皮膚は幼子の膝を傷つけることはなかった。
 サラちゃんは、おそとが何よりも好きなんだ。
 歩くとピコピコと音が鳴る小さなサンダルを履いて、お母さんと散歩するのが大好きなんだ。
 最初は転んでばかりで、泣いていたサラちゃんだったが、そのうち上手に転べるようになった。泣きたいのを我慢して自分で立つことを覚えるようになる。えらいわね、と、お母さんが褒めてくれるから。
 私は誇らしかった。サラちゃんの膝は多少赤くなっていても、血が出るほどの怪我をさせなかったことが。私は誰も傷つけてはいないのだと。
 そう、私も、私を取り巻くもの全てのものが、幸せだったのに、「或る日」を境にして、その幸せは失われてしまった。幸せとは、なんと儚いものなのか。失われてみて、初めて幸せだったと私は気づいた。

 舗装された私の上を、人々は、昨日と同じように歩いていく。
「雨が降ってもぬかるみは出来ないから、もう靴がドロドロに汚れることはなくて助かるね」
「車が走っても、砂埃は立たないし、道が綺麗になって、いいことづくめだ」
 なんということだ。私の気持ちなんて、誰ひとり気づく人なんかいやしない。それどころか、喜んでいる。
 種が永遠に芽を出すことは叶わないのか。
 蝉が永遠に飛ぶことは叶わないのか。
 誰か、答えてくれ。
 光の一筋さえない世界の中で、私は永遠に空を見ることは叶わないのか。
 誰か、教えてくれ!
 私はなんのために犠牲になったのか。

 不毛だ、私は不毛な道になった。

 そんな絶望の中でも、音が聴こえるのが唯一の救いだった。

 サラちゃんのサンダルがピコピコ鳴るのも聴こえる。きっと世界は晴れているに違いない。空が懐かしい。
――エーン、エーン、いたいよう。
――あら、あら、大変、膝から血が出てるわ。

 どうやらコンクリートは転んだ人に優しくはないようだ。

 それから私は様々な音を聴いた。
 戦車のキャタピラーが通る音。
 人々の嘆きの歌。
 爆弾が炸裂する轟音。
 サラちゃんは足を失った。

 希望であると思った音さえ、絶望を奏でた。
 もう何も聴きたくない。
 私は耳を塞ぎ、深い眠りに落ちた。
 ◇
 そんな私の眠りを覚ましたのは、ひとしずくの水だった。

 コンクリートに出来たひび割れから、雨が染み込んだものだろう。もう何十年も、水を飲んでいなかった私は、夢中になってそれを飲んだ。乾き切った私にとって、それは甘露の水だった。
 そしてそれは種を目覚めさせる。
 種は、ひとすじの光に向かって芽を出し、小さな紫色の花を咲かせた。

――見て、サラおばあちゃん、花が咲いているわ。

――おや、まあ、懐かしい。スミレじゃないか。コンクリートの道が出来る前は、この道は土の道だったんだよ。それはもうたくさんの花が咲いていたものよ。ずいぶん昔のことだがね。あたしゃ、長生きしすぎちまった。

――コンクリートのわずかな隙間から、花を咲かせるなんて、すごいわね。

――ああ、死ぬ前に故郷が見られて良かった。

――もう、おばあちゃんたら、死ぬなんて、また言って。お医者さんも言ってたでしょう、あなたの病気は治りましたって。

――どうせ医者の戯言だって思ってたけど……信じてみようかね。こんな小さな花が頑張って生きているんだしね。

 サラちゃんを乗せた車椅子の車輪がたてる、ひどくかしいだ音が遠ざかっていった。

 私は、私の預かりしらないところで、誰かを傷つけてしまったのだろう。

 けれどどんなに世界が悲惨であろうとも、一輪のスミレを私は咲かせることが出来たらしい。花を求めて蝶も戻ってくるだろう。
 夏になれば、一匹の蝉を羽化させることも出来るかもしれない。人間や犬や猫も戻ってくるかもしれない。

 あっひび割れの隙間から空が見えた! 美しい青空が。

 私の本質は、命を育む土だったではないか。どんなに不条理な世界のなかであっても、奇跡を信じてみたいと思う。


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このストーリーに関するコメント

14/12/04 そらの珊瑚

画像は「GATAGフリー画像・写真素材集 3.0」サイトの
gogoloopieさまの作品をお借りしました。

14/12/04 霜月秋介

自然の大切さを改めて感じました。

14/12/05 シンオカコウ

お話、拝読しました。
寓話のような、大人向けの童話のような、読む側に何か提示するような雰囲気も持ちつつ、
最後には優しい締めとなっていて、ほっとしました。

14/12/07 鮎風 遊

なにか不思議に平家物語を思い浮かべました。
車椅子の音は諸行無常の響きであり、
スミレは沙羅双樹の花の色のような。

やっぱり時が経てば、
青空が戻ってくるものだと確信させてもらいました。

14/12/07 夏日 純希

コンクリートの隙間から生える草花って、生命力みたいなものを感じてなんだかそのままにしておきたくなりますよね。
なんだか頑張らないとって思ってしまいます。
まぁ、そもそも勝手に舗装したの人間やん、っていうのは置いといての話ですが(汗

14/12/09 草愛やし美

そらの珊瑚さん、拝読しました。

土であったはずの大地にコンクリートを流し人の世界は良くなったのでしょうか? 暮らしは便利になったのかもしれませんが、何かを失くしたかもしれませんね。公園に砂場が必要なように、人には土が必要なはずです。スミレはそのことにちゃんと気づいているのでしょう。

一輪のスミレを咲かせることができる土の可能性、青空の見える世界であってほしいと読後、思いました。

14/12/09 泡沫恋歌

そらの珊瑚 様、拝読しました。

どこもかしこも道という道は舗装されて、土を覆ってしまい、きっと土は息が詰まりそうだと思う。
道路の隙間に小さな花が咲いてるのをみると、植物たちはいかに土を欲しているのか分かる。
ピコピコサンダルの音から、車椅子の車輪の音へと変っていく辺りが感動的でした。
これは良い話だとしみじみ思いました。

14/12/15 光石七

拝読しました。
私の住んでいるところは結構田舎なのですが、舗装されていない道がだいぶ減りましたね。車は通りやすくなりましたが、寂しい気持ちもあります。
便利さと引き換えに大切なものを失っていないか? 改めて考えさせられるお話でした。

14/12/17 滝沢朱音

そらのさん、こんばんは。読ませていただきました。

土の中のセミが7年後に地上に出られず、光を浴びることなく息絶えてしまう。
アスファルトの下の世界をいろいろと想像して、不条理さを切なく思いました。
それでも、雑草のようになんとか這い出そうとする存在があるのですよね。

そういえばアスファルトに雨が染みこんでいくあの匂いって、なんともいえないですね。
下の世界、土の世界に続いているのかと思うと、、、

14/12/18 ドーナツ

拝読しました。

ハイテクハイテク、世の中あっ緒もこっちも綺麗になって道路もアスファルトで整備されて、、快適な世の中になった。。と素直に喜べないものがありますね、

土のぬくもりって生きものには大事ですよね。
進歩も大事ですが、そぼくな土のぬくもりの大切さに気が付かないとね。

14/12/20 そらの珊瑚

>霜月 秋介さん、ありがとうございます。
自然が失われつつある現代、残っている自然だけでも大切にしたいです。

>シンオカコウさん、ありがとうございます。
土の気持ちになって書いてみました(笑い)

>鮎風 遊さん、ありがとうございます。
全ては無情、なのでしょうね。
土は人間よりはるかに長生きですから、いつかきっと青空は取り戻せます。

>夏日 純希さん、ありがとうございます。
時々すごいところから咲いてるなあと感心してしまうような草花って見かけますよね。
どこでも咲こうという意思さえあったら咲けるんだと妙に励まされます。

>草藍さん、ありがとうございます。
昔はどこにでも咲いていたスミレは、今や絶滅危惧種になっているそうです。
便利な生活と引換にして、人はいろいろなものを失ってしまったのではないかと考えます。


14/12/20 そらの珊瑚

>泡沫恋歌さん、ありがとうございます。
今はあんまりピコピコサンダルを履いている子を見ないような。
土にとってみれば、コンクリートなんか迷惑な話なんでしょうね。

>光石七さん、ありがとうございます。
私も田舎に住んでますが、車が通れるような道は
ほとんどといっていいほど舗装されてます。

>滝沢 朱音さん、ありがとうございます。
出られたくても出口がないなんて、そんな蝉は哀れですね。
アスファルトもとをたどれば石とかでしょうから、水が透過するのでしょうか。

>ドーナツさん、ありがとうございます。
幼児は土いじりが大好きですよね、おもちゃなんかよりも魅力があるのだと思います。
外遊びが減ったといわれる現代、そんな体験さえしない子供も
もしかしたら珍しくないのでしょうか。

14/12/20 坂井K

一本のいい映画を観た後のような充足感を得られました。
最後が希望で終わるのが良いですね。
ふと、『ライフ・イズ・ビューティフル』を思い出しました。

14/12/23 そらの珊瑚

坂井Kさん、ありがとうございます。

「ライフ イズ ビューティフル」好きな映画です。
お父さん役のロベルトベニーニのラストのおどけたような笑顔の切なさといったら。
あんな素晴らしい映画を思い出していただいて、とっても光栄です。

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