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アイデンティティーの捜索

14/12/02 コンテスト(テーマ):第七十二回 時空モノガタリ文学賞【 喪失 】 コメント:5件 るうね 閲覧数:1073

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 朝起きると、僕のアイデンティティーがなくなっていた。
「アインデンティテイー?」
 呼びかけてみるが、何の応答もない。
 昨日までは、たしかに隣にいたはずなのに。
 僕は部屋中を探し回った。
 いない。
 どこにもいない。
 僕は不安で仕方なくなる。
 アイデンティティーの喪失。自分が何者であるかという確信が持てない。
 会社に行く時間になったが、こんな状態ではとても行けない。
 僕は会社に電話をかけ、当分の間休みます、と伝えた。
 当然、理由を問われる。
「僕のアイデンティティーが喪失したんです」
 そう言うと、ふざけるなと怒られた。もう来なくていいとも言われた。僕は職を失った。
 それでも、アイデンティティーを喪失したことに比べれば、何てことはない。
 僕はアイデンティティーを探す旅に出ることにした。
 旅支度を整える。意外と時間がかかり、夜になってしまった。
 チャイムが鳴る。
 出てみると、同僚で恋人の真紀だった。僕のことが心配で訪ねてきてくれたらしい。
 僕が旅に出ると言うと、真紀は驚いた顔をした。
「来月は、わたしたちの結婚式なのよ」
「分かってる。でも、アイデンティティーを喪失したこんな状態では、とうてい結婚なんてできない。自分が何者かであるという確信も持てない状態では」
「わたしとの結婚が嫌になったのね。だから、そんなことを言うんでしょう」
 真紀は泣き出した。
 僕は何度も説明したが、真紀は納得せず、悲嘆にくれて帰っていった。僕は恋人も失った。
 だが、アイデンティティーの喪失に比べれば、ちっぽけなことだった。
 僕は、その夜のうちに旅に出た。
 世界中を巡った。山に河に海、砂漠にも行った。それでもアイデンティティーは見つからない。
 何度か親から電話やメールが来たが、全て無視した。そのうち、それも来なくなる。僕は親をも失った。
 どうでもいいことだ。僕はアイデンティティーを見つけ出さねばならない。
 どこだ、どこにいるんだ、僕のアイデンティティーは。
 ついには、僕は宇宙へ飛び出し、星々を巡った。銀河を越え、アイデンティティーのいそうな場所をくまなく探したが、しかしアイデンティティーは見つからなかった。
 僕は消沈して、元の町に帰ってきた。
 あてもなくとぼとぼと歩いていると、見覚えのある後姿が目にとまった。
 あれは……。
「アイデンティティー!」
 ついに見つけた。僕のアイデンティティー。
 僕はアイデンティティーに駆け寄ろうとしたが、その隣を歩いている女性に気づき、足を止めた。
 真紀だった。
 幸せそうな表情で、ベビーカーを押している。左手の薬指に指輪が光っていた。よく見ると、アイデンティティーも左手の薬指に同じ指輪をしている。
 二人は幸福そのものといった表情で、僕から遠ざかっていく。僕はその背中を見ているしかできない。
 当然だ。
 僕はアイデンティティーを探すため、僕を何者たらしめている全てを捨て去ってきたのだから。
 僕は二人に背を向ける。
 そして、ゆっくりと闇の中へと消えていった。


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このストーリーに関するコメント

14/12/04 鹿児川 晴太朗

着想に強く惹きつけられました。

14/12/04 るうね

るうねです。
コメント、ありがとうございます。

アイデンティティーを擬人化、というか抽出して可視化してみようなどと思いつきまして。
そしたら、抽出した後の残りがいらなくなってしまいました。
拙い作品ではありましたが、読んだ後、少しでも心に残るものがあれば幸いです。

14/12/04 るうね

るうねです。
コメント、ありがとうございます。

アイデンティティーを擬人化、というか抽出して可視化してみようなどと思いつきまして。
そしたら、抽出した後の残りがいらなくなってしまいました。
拙い作品ではありましたが、読んだ後、少しでも心に残るものがあれば幸いです。

14/12/04 クナリ

面白かったのですが、主人公が一人芝居のようにして終わっていったのには、少し消化不良の感もありました。
中盤までの展開の面白さからして、もう一盛り欲しいなと思いました。

14/12/05 るうね

るうねです。
感想、ありがとうございます。

たしかに、読み返してみると、前半に比べて後半は盛り上がりに欠けるきらいがありますね。出オチ感が漂っているというか。
もう少し見せ方にも工夫が必要だったかなぁ、と反省しきりです。
アドバイスを今後に活かせるよう、精進します。

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