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みやさん

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どんぐりの一番美味しい食べ方

14/12/01 コンテスト(テーマ):第七十二回 時空モノガタリ文学賞【 喪失 】 コメント:2件 みや 閲覧数:1337

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夫が持ち帰った大量のどんぐりを妻は一日目、携帯コンロのガスを使いカレーのルーでコトコト煮込んだ。幼い息子は喜び、どんぐりカレーだ!とはしゃいだ。
二日目はミートソースで和えた。麺がないとさみしいね、と息子が呟いた。
三日目はバターで和えた。ビールに合いそうだな、と夫が喜んだ。
四日目は調味料が底を尽き、塩を振りかけた。これが一番シンプルで一番美味しい、と夫は笑った。

放射能漏れの恐れがあるので外に出ないように。

一週間前の休日にお昼ご飯を家族三人で食べていると、そんな警報がテレビから流れてきた。夫婦が眉を潜めて窓を見ると、そのニュースを見る前から外にいた人々や、慌てて外に出た人々がバタバタと苦しみ、倒れ始めた。夫婦は混乱し、とりあえずカーテンを閉め、放射能が入ってこないように、ありとあらゆるものを窓やドアの隙間に詰め込んだ。

電気、ガス、水道はその日のうちに止まり、電池式のラジオのスイッチを入れても、ガーガーというノイズ音しか聞こえてこなかった。灯りは懐中電灯。キャンプみたい、と息子は興奮してなかなか眠らなかった。

次の日夫婦が恐る恐るカーテンを開けて外を見ると、空も街も灰色に覆われていた。心配そうに覗き込む息子を、今日はパパお仕事お休みだから、何して遊ぼうか?と夫は優しく抱きしめた。

買い置きの食料品は三日で底をついた。サーバーのミネラルウォーターも残り僅か。
警報が出て四日目の朝に、食料品を探しに外に出る為に夫は独身の時に趣味だったスキューバダイビングのウェットスーツに着替えた。目にはゴーグル、口にはマスクを何枚もかけたその姿に妻と息子は泥棒みたいだ、と笑った。

夫は三時間程で帰って来た。スーパーやコンビニには食料品は思った通りに何も無くて、近くの公園で拾ってきた、とどんぐりを大量に持って帰って来た。息子は大喜びで、ぼくも行きたい、と駄々をこね、夫は、今度一緒に行こうな、と微笑んだ。

夫が持ち帰ったどんぐりも放射能で汚染されているはずなので、食べる事を躊躇う妻を夫は、これを食べてとにかく生き延びよう、と諭した。


夫が持ち帰ったどんぐりも、もうすぐ底をつく。夫は警報が出た一週間目の朝に再び、食料品を探しに外に出て行った。一度目はすぐに帰って来たのに、その日は夕方になっても夫は帰って来なかった。
夜になり暗くなる前に、と妻は残っているどんぐりの皮を剥き始めた。息子も手伝い、じょうずにむけたよ、ママ見て、とはしゃいでいる。

塩を振りかけた、どんぐりの一番美味しい食べ方。これを食べてとにかく生き延びよう。


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このストーリーに関するコメント

15/01/02 みや

志水考敏 様

コメントありがとうございます☺︎

どんぐりの殻と防護服のイメージは意識していなかったので、そう言えばそう思う事が出来るなと自分の作品ながら新たな発見が出来ました。
感情描写をすると自分でもかなりキツかったので思い切って排除しました。息子の無邪気さで母の悲しみの表現をしている事を見抜いて頂いて本当にありがとうございます。深くこの作品を読んでくれているととても嬉しく思いました!

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