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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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夜の華

14/11/30 コンテスト(テーマ):第七十回 時空モノガタリ文学賞【 別れ 】 コメント:6件 そらの珊瑚 閲覧数:1244

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 電話の相手は、故郷の高校の友人だった。卒業して二十八年。来年、母校が廃校になるのを機に同窓会があると言う。
「たまにゃ帰ってこいや」
「うーん、そうやなぁ」
 大学進学で上京して、故郷で過ごした時間より、東京で過ごした時間の方が既に長いというのに、故郷の訛りは忘れないものらしい。スイッチを押せば、正しく鳴り出すメロディみたいだ。
「結婚したんか?」「いや、まだや」「いいのう、花の独身かぁ。俺なんぞ、来年じじいだぞ。孫が生まれるんだ。あーあ、がっくりきちまう」
 そう言いながらも友人の声はどこか嬉しさがにじみ出ていて、軽く嫉妬した。同窓会など欠席しようか。
 大学卒業後、東京の商社に就職した俺は、十年前リストラで子会社にとばされた。小さな園芸店だった。給料は半分になる。けれど一番こたえたのは、当時付き合っていた彼女から別れを告げられた事だった。結婚まで考えていたのに、と当時は恨みもしたが、生活力の乏しくなった男と結婚しなかった彼女は、もしかしたら賢明だったのかもしれないと今なら納得できる。
 そうやって失くしたものへの執着が薄れていったのは、エプロンを付け、植物たちの世話に明け暮れる毎日がくれたものかもしれない。植物は裏切らない。ちゃんと世話をすれば花を咲かせる。いうなれば小さな幸せがそこにある。人は必ずしもそうではないけれど。

 同窓会といえば、近況報告をし合うことになるだろう。細々とした今の自分の境遇――人が聞いたら同情を買ってしまうような冴えない人生を今さら話すことも億劫だ。
「いいじゃねえか、若いじいちゃんで」
「若いっていってもよぉ、血圧は高いし、メタボリックだしなぁ」
「お互いに元気でいようぜ」
「そうだ、おまえ、知ってるか? 同じクラスだったシミズレイコ、亡くなったって」
「えっ……なんで?」
「自殺だったらしいぞ」
 頭の中でシミズレイコが清水玲子に変換されたと同時に、心臓の鼓動が早くなった。

 玲子と僕は高校卒業後、東京で偶然再会し、十九歳のひと夏を共に過ごした。
 初めての夜、目的は達せられなかった。今なら童貞の失敗だと、笑ってしまえるが、その時俺はひどく落ち込んだ。
「西君のせいじゃないよ。私がいけないの」
 玲子は自分の身の上を語りだした。
 玲子の両親はラブホテルをいくつも営んでいて、地元では「城」と侮蔑を含んだ意味合いで呼ばれていたそうだ。小学校高学年くらいになると、そこが何をする場所なのか、子供でもうすうすわかってくる。玲子には「姫」というあだ名が付き、そう呼ばれるたびに恥ずかしさでうつ向いたという。男女の営みを心底いやらしいと嫌悪して育ったと。
「だからダメなのは私なんだよ。西君は好きだけど、心が、身体が、そういうコトを拒否してしまうの」
 あの夜は満月だったのだろうか。カーテンのない窓から差し込んだ光が、玲子の端正な白い横顔を照らしていた。
 秋が来ても俺たちはキス止まりの恋人だった。次第に疎遠になり自然消滅した。正直なところ、玲子のことが重荷になったのだ。
 ――めんどうなことはごめんだ。
 冬になり俺は別の子と付き合い始め、玲子の事は忘れた。

 忘れたつもりでも、友人の電話であの時のことが蘇る。飲み込んだつもりでも、のどに小骨は刺さったままで、唾を飲むたびに痛むように。思いだしながら、心のどこかがズキンと痛むようだった。
 もしもあの時、玲子とちゃんと向き合っていたら玲子の人生は変わっていたのかも、などと思うのは俺の思い上がりだろうか。
 電話を切ったあと、それまで舐めるようにちびちび飲んでいたウイスキーを、ロックのまま一気にあおった。そうでもしなけりゃ今夜は酔えなそうだ。
 そのまま何時間眠っただろうか。目を覚ましてみれば、女物の香水のような甘い香りがする。
 部屋を見回す。窓際の机の上の上の鉢植えの植物が、花を咲かせようとしていた。
 月下美人。それはたった一夜だけ咲く花。数年前、店で売れ残り廃棄寸前だったそれを、自分が買取り育ててきたのだ。少し前に蕾が付いたので、今年こそ花が見られると期待していたのだが、それが今晩だとは。相変わらず俺の部屋にはカーテンがない。そのおかげで、月光が花を照らしている。

 玲子、なんで死んじまったんだよぉ。

 時間を経るにつれ、むせ返るような性愛の香りが満ち、それはどこか禍々しささえ感じさせ、いよいよ花は美しさを誇るように開いた。
 朝、目覚めてみれば花は無残に萎れ果て、その残骸が昨晩の事は夢でなかったと証明していた。
 それからしばらくして同窓会の葉書が届いた。出席に丸をしたのは何故だろうか。さよならも言わずに別れた、せめてもの罪滅ぼしのつもりか。二人が過ごした校舎に、そして煩わしいと思っていた友人達に会うのも、案外悪くないかもしれない。
 


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このストーリーに関するコメント

14/11/30 そらの珊瑚

画像は「GATAGフリー画像・写真素材集 4.0」サイトから、
Jonathan Kos-Readさまの作品をお借りしました。

14/11/30 光石七

拝読しました。
行間に漂う雰囲気がなんとも言えず、その雰囲気が読む人間にもまとわりついて取り込まれた、そんな感じです。
若き日の恋の思い出と月下美人がマッチした、魅力的なお話だと思います。

14/11/30 草愛やし美

そらの珊瑚さん、拝読しました。

とてもやりきれないことでしょうね。同窓生の自殺というだけでもショキングなことなのに、かかわったひとだったなんて。玲子さんは苦労したのでしょうね、それは私なんかには想像もつかない辛いものがあったのではないかと察します。
儚い女性を転写したような月下美人、美しいけれど一晩しか咲いていないという事実が悲しさをつのらせます。切ないけれど、不思議に魅力のある美しい話でした。

14/12/01 泡沫恋歌

そらの珊瑚 様、拝読しました。

これは青春の後悔と懺悔ですね。

死んでしまった玲子という女性が、まるで月下美人のように儚く美しく思えます。
彼女と向き合っていれば、お互いの運命がどう変わったかは神さまにしか分からない。

人生は巻き戻せないから切なさが募るのでしょうか。

14/12/07 鮎風 遊

蘇ってくる青春のほろ苦さ。
主人公も捨てきれない、いや、ますます膨張していくレイコとの思い出。
その切なさが、男なら誰でも共有できる物語でした。

不思議なものです。
記憶は失われていくものですが、青春のメモリーは増大するものなの、かも。

14/12/20 そらの珊瑚

>光石七さん、ありがとうございます。
このお話は月下美人という花に着想を得て書きました。
過ぎ去ってしまった恋というものは、何かのきっかけでありありと思い出されることもあるのかもしれません。

>草藍さん、ありがとうございます。
同級生の自殺というのは実際私の身近にあった事実でした。
卒業してから会うこともなかったので、詳しいことはわかりませんが
ある季節をともに過ごした仲間であったので、とても悲しかったです。

>泡沫恋歌さん、ありがとうございます。
青春ってもちろん素晴らしい季節だと思いますが、
後悔と懺悔がかなりの割合を占めるのも事実。未熟でしたから。
やり直すことは出来ないとわかっていても、時間をまき戻してみたくなるものかもしれません。

>鮎風 遊さん、ありがとうございます。
気持ちを共有していただいて、嬉しかったです。
ハッピーエンドにはならなかったからこそ、記憶のなかで、いつまでも生きていくのかもしれません。

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