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クナリさん

小説が出版されることになりました。 『黒手毬珈琲館に灯はともる 〜優しい雨と、オレンジ・カプチーノ〜』 マイナビ出版ファン文庫より、平成28年5月20日発売です(表紙:六七質 様)。 http://www.amazon.co.jp/dp/4839958211

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将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

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錯乱ウィッチズ・ライフ

14/11/28 コンテスト(テーマ):第七十一回 時空モノガタリ文学賞【 不条理 】 コメント:5件 クナリ 閲覧数:1168

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 やはり、学校では教えられないものもあると思う。
 だから夜遊びをしていいということには、ならないけれど。
 私は、優等生の妹の足を引っ張るなとよく親に言われた。その都度、妹は横で笑っていた。
 あの笑い声から逃がれられるのは、夜の中しかなかった。
 夜の時間は、あまりにも居心地が良かった。暗闇が、嫌なことを全て隠してくれた。
 大して葛藤もなく、高一の春には体も売った。
 でも、幼馴染の真面目っ子のフーカにこんこんと説教されたこともあり、すぐにやめた。

 高二の夏頃になると、フーカが顔を腫らして登校するのも見慣れて来てしまっていた。
「フーカさあ、いい加減やめさそうよ」
 フーカは、頷きながらうつむいた。
 彼女を殴っているのは、父親だった。
 その日の下校中、いきなりフーカが、
「ね。売春のやり方教えて」
 と言い出したので、コンビニで買ったコーヒーを吹いた。更に、
「お父さん、公認だから」
 と言われて鼻水も出た。
 フーカの父親は、ギャンブル狂だった。
 今回も八十万程借金を作り、自分ではどうにもならないのでフーカにお鉢が回って来たようだった。
 フーカは、父親に弱い。
 父親は十八歳でフーカを作り、周囲の猛反対をよそに母親と結婚した。
 最初の十年くらいは良かった。父親は、まさにフーカのために人生を捧げていたらしい。
 けれど、必死に働く生活の中でふと周りを見渡すと、同年代の男達はまだまだ人生を緩やかに楽しんでいる。
 母親は、自分の若さを子育てとパートに追われて消費して行くことに苛立ち、何かと父親に辛く当った。
 父親は、辛さのはけ口を賭け事に求めた。そこからの転落は、早かった。
 元々望んで子供を産んだわけではない母親は、そう言ってフーカの小学校卒業と同時に出て行った。
 父親は更に荒れ、後には家事全般を貼り付いたような笑顔でこなす真面目な子供が残った。
 確かに、父親の決断が無ければフーカは今この世にいない。感謝すべきだ。
 彼はこれから初婚でもそうおかしくない歳だし、フーカが人生の重荷なのは否めない。気の毒でもある。
 それでも私は、この父親には、出来れば消えて欲しかった。

 父親の人生を犠牲にしている罪悪感が、フーカの人間性に強い影響を与えているのは確かだった。
 フーカは、自分の価値というものをまるで認めていない。だからあっさりと、役に立つなら使えばいいのだと、洟をかんでまだ余白のあるティッシュくらいの感覚で、私にはやめさせたことをやろうとしている。
 馬鹿だ。これを、本物の馬鹿と言うのだ。
 フーカのために私の力で何かしてやれることはないかと、昔から思っていた。ウリをやめた時は、特に強く。
 何とか、フーカが体など使わずに大金を稼ぎ、父親にオラヨと叩きつけてやる方法は、ないものか。
 ――……ある。
 あるぞ。
 私が一稼ぎして、金をこっそり父親に渡せばいい。
 フーカと違い、私は一応慣れている。ほんの数日だけ、稼ぎに稼ぐのだ。
 回転に回転を重ねて。トチ狂った洗濯機のごとく。
 どうせ客などガキ好きの変態。遠慮無用で、むしり取ってやる。
 私も、本物の馬鹿だった。

 夜、ホテルに入ると同時に客のオヤジは服を脱ぎ始めた。
「シャワー、浴びますよねー」
「いや、いいよ。どうせ僕、病気だし」
 客選びは、慎重にやったつもりだったのに。久し振りで、嗅覚が鈍ったらしい。
 裸の男が、私の頬を強く叩いた。それだけで気力が萎えて、好きなようにさせてやろうかという気になる。
 フーカはこんなのに耐えて来たのか。偉いなあ。
 私はスカートの中の防犯ブザーを鳴らして、男に投げつけた。
 男が音を止めようとまごつく間に、部屋を飛び出す。
 間違っていると分かって突っ走るからミスをして、そのせいで、間違ってでも手に入れようとしたはずのものが真っ先に消えて行く。
 何度もあった、こんなことは。
 どうして、今なら出来ると思ってしまうんだろ。
 ホテルの外へ出ると、ちょうど、息を切らしたフーカに出くわした。
「こんなことだと思った。こんなの、ちっとも嬉しくない!」
「じゃあ、フーカもやめなよ。てか、逃げるよ」
 二人で、暗闇へ駆け出して行く。
「私が体張って仕事しても、全然良いことないなあ。世の中おかしいよねえ」
「仕事じゃないからでしょ」
 いやお前。
「お父さん、自分でお金作らせるからって、さっき知らない人達に連れて行かれちゃったの。大丈夫かな……」
「……あ、そお」
 帰って来なくても、良いなあ。

 夜が好きだ。夜が楽だ。
 でも、早く昇れよ太陽。
 悪くない奴が悪い目に遭わないように、暗闇を消し飛ばしてくれ。
 逃げ込める暗がりが消えてしまっても、それと引き換えなら構わない。

 ああ、明日も学校だよ。


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このストーリーに関するコメント

14/12/02 そらの珊瑚

クナリさん、拝読しました。

子供は親を選べないって考えたらかなり不条理かもって思いました。
でもフーカには私がいるし、私にフーカがいることが
せめてもの救いのような気がします。。
もろもろを乗り越えて、大人になった時、二人で笑い話みたいに
なったらいいなあと思います。

14/12/03 草愛やし美

クナリさん、拝読しました。

お父さん帰ってこなくていいですから。怒 こういう辛い思いをしている子供達もリアルでいると思います。
お互い傷を持つにしても、友がいて良かったです、周りにこういう人がいれば、救いはあると思います。高校生ではやれることは制限されるでしょうが、頑張って生き抜けとエール贈りたいです。

14/12/04 クナリ

そらの珊瑚さん>
近年、若年層の犯罪発生率はどんどん減少し続けているとも聞きますが、親世代の問題はむしろ目立つようになっている昨今。
選べぬからこその人生であり、人生の全ては自分の責任であるという理屈はもちろんわかるのですが、それは一定以上の条件を得た人間だからこそ言えることでもある…ような気がします。
親に訊けば親なりの事情はあるわけですけど、それどころじゃない人達だっているわけで。
その中で、自分でつかみ取った縁というものは、とても大切ですよね…。
コメント、ありがとうございました!

草藍さん>
一方的に悪者を作ることで自分の方針を決定したり、生きるためのストレスを軽減する…という手段が時に有効であってしまう切なさですが、その対象が親であれば、幸福への道は狭くいびつなものになるのでしょう。
かと言って親も憎めないまま成長することで、やり場のない感情に擦り減ってしまうこともまた、人生を著しく束縛するものですよね。
人生は自分次第ですが、「一人」と「一人ではない」ことの違いは大きいと思います。
嬉しいお言葉、ありがとう御座いました。

14/12/06 滝沢朱音

クナリさん、こんばんは。読ませていただきました。

ダーク&ヘビーなテーマを、主人公の若さとともにからりと描いてて、
それだけに凄みが増しますね。うまくいえないけど、ハードボイルドのような?
最後の「ああ、明日も学校だよ」の悲哀とか、特にそんな感じを受けました。
あと、
「間違っていると分かって突っ走るからミスをして、そのせいで、間違ってでも手に入れようとしたはずのものが真っ先に消えて行く。」
ここがなんだかすごく印象的で、好きだと思いました。

それと星の砂のこと、コメントありがとうございます!
クナリさんこそ、なんと2年連続受賞だったのですね〜!!!
おめでとうございます!!! 電子書籍、ドキドキしますね(〃∇〃)

14/12/07 クナリ

滝沢朱音さん>
コメントありがとうございます。
学校という日常のありがたさと悲しさというのはあると思うんですよね…後になってみると、ああいう居場所って有難いものなんだなって思うんですけど。
「間違っていると分かって〜」のところは、自分でも思い入れのある箇所です。こういう形で傷つきながらも突っ走ってくれるので、今回の主人公にこの人を
選んだのかもしれません。
星の砂、自分は審査員特別賞なので栃木県産物をいただきましたッ。
電子書籍化、楽しみですね。挿絵と朗読がつくっていうのは、大変光栄ですし嬉しいですよね。

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