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三条杏樹さん

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男verの自分がやってきた

14/11/25 コンテスト(テーマ):第四十五回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 三条杏樹 閲覧数:894

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「俺は君なんだ」

大学の教室でそう話しかけられた。咄嗟に思ったことは「この人やばい」。
早足でその横を通り過ぎようとすると、腕を掴まれた。ぎょっとして振り払おうにも力が入らない。
「ごめん、そんなに警戒しないで」
講義終わりで教室から出て行く学生たちの流れに乗り、ずんずん私の手を引いていく。逃げようともがいても、その男は笑顔で私を押さえた。

「なんなの?」
人のいない教室に連れ込まれ、叫ぶように言った。
その時、睨みつけて初めて気がついた。この男、私と同じところにほくろがある。顎の真ん中。私のコンプレックス。

「俺はね、君が『男として生まれた』世界からきたんだ」

真顔で言うものだから、ますます体を強ばらせた。逃げようにも、教室の出口はこの男が塞いでいる。

「どいて。通報しようか?」

「なんで信じてくれないの?同じところにほくろあるじゃん。他にも天パなのも一緒だし、よく見ると顔が似てるんだけど。顔が大きいのも一緒だし。あと・・・」

新手のストーカーだ。全速力で走れば、逃げ切れるだろうか。いや、警察に電話するか?

「ふとももに生まれつき痣があるし、母親の名前は美代子、父親は連太郎。ええっとそれから・・・」

携帯をそうっと取り出す。どこまで私の個人情報が漏れてるんだ。最悪。

「子供の頃、この顎のほくろを『顔にゴミがついてる』って馬鹿にされてた。だからコンプレックスなんだよね」

「そんなことまで調べたの?」

「調べたも何も実体験だからなあ。全然信じてくれないね」

「信じると思うの?」

「通報するの?自分を?」

完全にいかれた奴。怖いを通り越して呆れた。それにしても、誰にも言ったことのない私のコンプレックスまで知ってるなんて。

「俺はね、君を助けにきたんだ」

「え?」

男は笑顔で近づいてくる。笑ったとき、眉がハの字になるのが私と一緒だ。それに確かに顔が似ている。いや、ほぼ一緒?

「来ないでよ」

「君が死にたいって思ってるから、助けに来たんだよ」

手をとられる。それは紛れもなく大きな男性の手。長い指が絡まった。

「誰だって自分が一番可愛いからね。俺は『女として生まれた自分』が病んでぽっくり死なないように助けに来たんだ」

昔から爪を噛むくせがあるせいで、常に深爪状態だった。そのせいで爪の形もおかしい。そんなところまでこの男と一緒だなんて。

「このまま自殺されちゃ困るんだ」

私が死にたいと思ってることを、どうして知っているんだろう。

「俺も死んじゃうから。俺ね、まだ死にたくないし」

背に腕を回され、優しく抱きしめられた。頭一つ分の身長差が密着する。
私の男版だと言う変人。その変人に抱きしめられて、本来なら叫んで通報するところだが、彼の鼓動を聞いていると体の力が抜ける。安心する。

「可愛い『俺』。愛してるよ。もう泣かないでね」

どこまで本当なのか、それとも全部嘘で、この男は私のストーカーで変態なのか。それでも、自分のことを「大嫌いだ」と思い続けてきた私にとって、この男の「愛してる」が妙に心地よかった。


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