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村咲アリミエさん

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青い空の中 黄色の僕を信じて 君は雷と共に

14/11/16 コンテスト(テーマ):第六十九回 時空モノガタリ文学賞【 無題 】 コメント:0件 村咲アリミエ 閲覧数:882

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 彼女は不思議な人だった。
 目を合わせて話をしてくれない。こちらを向いてはくれるが、いつもどこか遠くを見ている。代わりに人の心を見ることができる。誰よりも繊細に、人の心を理解しているのだ。
 ある秋の、ある昼休み。僕は「話がある」と彼女に呼び出された。全校生徒四十人弱の小さな中学校では、個人の呼び出しは珍しくない。雑用の手伝いか何かだろうと思って、彼女について行った。
 彼女は、階段を駆け足で降り、小さな校庭に出た。靴も履きかえず、校庭の真ん中で、彼女は空を見上げていた。僕も見上げるが、そこには澄渡るような青空しかない。どうしたの、と声をかけようと彼女に視線を移して、僕はその言葉を呑みこむ。いつも人と目を合わせず、ぼんやりとしている彼女が、空を睨みつけるように、じっと見上げていたからだ。
「君は優しい人だって、私知ってる。それと、私のことを信じてくれると確信している」
 彼女に君、と言われたことなどなかった僕は驚いた。とても静かで、まるで独り言のようだったが、なんだか大人びた口調に、僕はうまく返事ができなかった。
 彼女は僕の返事を待たず、空を見上げながら言った。
「頼みがあるの。私は今から大きな嘘をつく。君はそこにいて、そして騙されてほしい。私を止めて、その場所で、やめろって言ってね。あと、私は絶対に大丈夫だから、信じて受け止めてほしい。皆で受け止めてね。上を見てて」
 意味が分からない、という前にもう、彼女は駆けだしていた。僕は彼女に従った。あんな彼女、見たことが無かったからだ。
 すぐに、彼女は屋上に姿を現した。
「飛び降りる!」
 彼女の叫び声は、きっと校舎中に響き渡ったに違いない。
「だめだよ!」
 とっさに叫んだ僕の言葉は嘘じゃない。彼女は屋上のフェンスをまたぎ、ぎりぎりのところでジャンプをしていたのだから。心臓が飛び出すかと思った。なんだあ、と先生の一人が屋上を見上げてぎょっとした表情を浮かべる。
「先生!」
 彼女はすぐに先生に声をかけた。やめなさいと先生が言うより前に「こっちに来たら一人で落ちるから、そこで私を受け止めてください! 学校の人達、全員外に出して! じゃないと飛び降りる意味が無いの!」と叫んだ。その言葉に繋げるように、気がつくと僕も叫んでいた。
「先生! 本気ですよ彼女! 皆を呼んできてください! 皆、皆、外に出て!」
 無我夢中で叫んだ。彼女の指示に従わなければならないと本能が告げていた。ざわつきに悲鳴が混じり、次々と生徒が出てくる中、僕は必死に「皆、外に! 受け止めなきゃ!」と叫んでいた。木下さんも、「皆、外に! こっちには来ないでよ!」と叫んでいる。やがて、校舎から全員が出たところで、確かに木下さんは微笑んで、空を見上げた。
 そして、飛んだ。
 瞬間、辺りが光り、直後、割れるような音が僕の鼓膜を震わした。
 それでも僕は手を伸ばした。彼女を受け止めるために。

 青天の中、突如現れた雷は、校舎の真ん中を貫いた。

 彼女は、僕に手を伸ばし、風のように僕の首にふわりと触れた。
「ありがとう。裏庭でばいばいしよう」
 そうして、ふっと消えた。
 え、と訊き返す僕の横で、先生が言った。なんで皆外に出ているんだっけ?

 裏庭に行くと、大きな木の下に彼女はいた。僕が駆け寄ると、彼女は意地悪な笑みを浮かべた。
「君、気がついてたでしょう。私が目を見て話していないこと」
 彼女は透けていた。僕はもう何が何だか分からず、ただこくこくと頷くだけだ。
「私はね、遠いところから来たんだ。皆みたいな姿をしているけど、この目は違うんだ。君たちみたいな物の見え方をしていない。もっとぼんやりとしている。だから、君の本当の姿を私は知らない」
 彼女がどんどん薄くなっていく。
「その代わり、君たちには見えていない物が見える。青空の中、雷が落ちるのが分かった。私は、それを知らせたくて、あんな無茶をした。突き合わせて、ごめんね」
「――消えるの?」
 言うと、彼女は肩をすくませ「帰るの」と笑った。
「遠くから来たって」
「そうだよ、でも今日で終わり」
「皆忘れるの」
「君が覚えている」
 ふわり、と彼女は笑った。もう、ほぼ消えた彼女に、僕は訊いた。
 僕は、どんなふうに見えていたの。
 彼女は答えてくれた。
「君は、黄色と黒い線の塊だ。複雑で、暖かくて、太陽みたいだった。今は少し青も見える。寂しいの? 寂しがらないで。ここで出会った、誰よりも綺麗な色をしている。信じられる色をしていた。ありがとう、楽しかった、来てよかった」

 彼女に訊きたいことがたくさんあった。
 わんわんと耳鳴りがする中、僕は大好きだったよと言った。ありがとうと言った。

 返事をするように、流れた風は青かった。


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