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アシタバさん

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君にお別れを

14/11/10 コンテスト(テーマ):第七十回 時空モノガタリ文学賞【 別れ 】 コメント:0件 アシタバ 閲覧数:915

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 えっと、頭の中を整理しよう。

 先日、交際中の彼女に別れを告げられた。久しぶりに一緒に映画を見てから立ち寄った喫茶店でのことだ。「一体、どうして」と聞くと「他に好きな人が出来たの、ごめんなさい」とありきたりのことを言って、飲みかけのコーヒーと僕を残して去っていった。当然、僕は納得ができないので、その後の数日間、彼女に電話をかけてみる、がことごとく無視されて、家まで行くと頑なに居留守を使われた。しつこく食い下がってみると彼女はなんと警察を呼んで僕をストーカー呼ばわりした。最悪だ。こんな人だとは思わなかった。ずっと、一緒にいて、恐らくは結婚するだろうという相手だったのに。考えたくは無かったが、彼女のことを初めて憎いと思い『復讐』の文字が頭に浮かんだ。
 別れの悲しみから大学生の頃みたいに浴びるほど酒を飲んだのは雪が舞う程の凍てつく夜だった。雪を目にすると、とても切ない気分になる。その帰宅途中、千鳥足で歩道橋を歩いていると、橋下を行き交う車の光が目に入ってきた。いっそのこと飛び降りてしまおうか、と思った。いやいや、馬鹿なことを考えてしまった。愚考はすぐさま頭から追い出すことにしよう。大丈夫だ。そんなことしなくても数十秒後に雪で湿った橋の階段から足を滑らせて、体が何回転かした後に頭を思い切り打ちつけて、顔中血まみれで右足が変な方向に折れ曲がって、駆けつけてくれた誰かが呼んだ救急車で僕は運ばれていくのだから。
 そんなことを思い返しながら、救急車で運ばれていく自分を眺めていた。見慣れた自分の顔は真っ赤に染まりホラー映画に出てくるような有様だった。ふと、手を見てみた。ぼんやりと透けている。ここまで冷静に考えると、僕は恐らく死んでいた。
 それじゃあ、ここに居るのは一体、誰? 


 ああ、消えてしまいたい。

 先日、恋人に別れを告げた。結婚も考えていたほどに大切な人だった。仕事帰りに買ったスーパーの惣菜の夕食もあまり喉を通らない。ひとりぼっちのマンションの自室は静まり返っている。彼は今頃どうしているのだろうか? それを知りたかったが、彼を突き放さなくてはならない。一通の手紙を鞄から取り出した。何度も目を通したその内容は田舎の母が脳卒中で倒れたので面倒を見てくれという親戚からの手紙だった。一命は取り留めたものの、父はすでに他界しており、家に一人だった母は今や寝たきりの状態らしい。身辺整理をして母の元に帰ることに決めたのだが、恋人には心配や迷惑を掛けたくないために適当な理由で別れを伝えたつもりだった。こうもしないと優しい彼は私の為に苦労をすることになるだろう。これでいい。でも、やっぱり傷ついているだろうか。
 ぼんやりしていると急に部屋の温度が下がったような気がした。寒気が全身を覆う。そして、何者かに鋭い視線を突き立てられているような嫌な感じもした。何だろう? まるで、テレビで見た心霊現象みたい。まさかね。きっと、疲れているせいだと思った。手紙をテーブルに置いてキャビネットの引き出しから一枚の写真を取り出した。付き合って間もない頃に彼と写したツーショットの写真で二人ともその中で笑っていた。それを眺めていると思わず笑みがこぼれる。突然、バサバサと音が聞こえて、振り向くとテーブルから手紙が床に落っこちていた。写真をキャビネットの上に置いて拾いに行く。手紙を拾っていると気が付いた。寒気が無くなっている。どうしてだろう、写真を見て元気が出たからだろうか? すると今度はキャビネットの上の写真が無くなっていた。おかしいな、さっきまでここにあったはずなのに、そう思い部屋を見回してみると何故かベッドの上に置いてあった。手に取ると、一部に小さく水でぬれたようなシミが出来ていた。何だろう、コレ? 訝しげに思っていると今度は風の吹き込む音がした。窓が少し空いている。なんだ、寒いのも手紙や写真が移動したのもこのせいだったのか。ちゃんと閉めていたつもりだったのだけど。そのまま窓を開けてベランダに出ると雪が降っていた。白い羽のような雪が夜空から次から次へと舞い落ちてくる。そういえば、あの人に告白されたのも雪の降る夜だった、と思い出した。
 雪を見ていると切ないけど、あたたかく幸せな気持ちになった。そして、今、不思議なことだけど、誰かに「頑張って」と言われたような気がした。


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