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となさん

性別 女性
将来の夢 毎日ハッピーに過ごすこと
座右の銘 Day by day in everyway,Im getting better and better. 毎日毎日、あらゆる面で、僕はどんどん良くなっている。 12番目の天使という小説から。 落ち込んだ時、辛い時、この言葉を思い出して頑張っています。

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画家の作品

14/11/10 コンテスト(テーマ):第六十九回 時空モノガタリ文学賞【 無題 】 コメント:4件 とな 閲覧数:951

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「これは、何という絵ですか?」
アトリエの片隅に立てかけた絵を指して、男が尋ねました。
「これですか?名前はありませんよ。」
画家が答えました。
「名前がない?」
「ええ。これはただの落描きですから。」
「でも……こんなに、素晴らしいのに。」
「素晴らしい、ですか?」
画家は不思議そうに首を傾げました。
「はい。大胆な構図、ダイナミックな筆遣い、鮮やかな彩り……。こんなに素晴らしい絵は見たことがありません。」
「では、差し上げますよ。」
「いいのですか!?」
男はきらきらと目を輝かせました。
「ええ。どうせ捨てるつもりでしたから。」
「そうですか。それでは、遠慮なく。」
男は白い布で絵を包むと、大切そうにそれを抱えました。そして、何度も何度も頭を下げ、アトリエを出て行きました。画家はにこやかに男を見送っていましたが、男の姿が見えなくなるとその顔から笑みを消し、その場に崩れ落ちました。
「あの男は私の“作品”に目もくれなかった!」
こぶしを床にたたきつけ、大粒の涙をこぼしながら唸るように叫びました。
「あの落描きはめちゃくちゃだ!パースも、筆の遣い方も、色の構成も、何もかも!」
壁に規則的に並んだ作品が、画家を見下ろしているようでした。画家はそれらの作品を睨みつけるとふらふらと立ちあがり、棚の引き出しから絵の具と大きな筆を取り出しました。
「こんなもの、こんなもの……!」
画家は大きな筆を掴むと、絵の具を力任せに作品にぶちまけました。髪を振り乱し、奇声を発し、涙をこぼしながら、作品を塗りつぶしました。絵の具は作品だけでなく、壁や照明や、センス良く配置された家具までも汚しました。
どれくらい暴れていたのでしょうか。彼の渾身の作品は、もう見る影もありません。アトリエには絵の具や筆などが散乱し、いたるところに絵の具が飛び散り、カーテンや壁紙が破れ、とてもひどい有様でした。
暴れ疲れた画家は、部屋の真ん中で大の字になり、ぼんやりと電球を見つめました。そしていつしか、画家は眠りにつきました。

〜*〜*〜*〜*〜*〜

翌朝、アトリエのドアを叩く音で、画家は目を覚ましました。眠たい目をこすりながらドアを開けると、そこには落描きを嬉しそうに持ち帰った男が立っていました。画家はたいそう驚きましたが、すぐに笑みを作り、男に問いかけました。
「おはようございます。今日はどういったご用件で?」
「昨日いただいた絵が好評でね。他の絵も見せてほしいんだ。」
邪魔するよ、と言うと男は画家の横をすり抜け、アトリエに入って行きました。画家は青ざめました。作品どころか部屋中がひどい有様で、とても男に見せられる状態ではありません。
画家が慌てて男の後を追いかけると、男は部屋の入り口で立ち止まり、呆けていました
「この部屋は、君が……?」
男が問いかけます。
「ええと、そうですね……。」
画家は何と言えば良いか分からず、男の後ろ姿を見つめていました。男はぐるりと首を回し、余すところなく部屋を見ると、大きな声で叫びました。
「なんて素晴らしい!」
画家の手を取り、男は興奮気味に問いかけます。
「この部屋は、君がデザインしたのかい?」
「いえ、デザインと言うほどのものでは……。」
画家は目を泳がせながら言葉を濁しましたが、男はそんなこと気にも留めません。部屋中を見渡し、顎に手を当ててしきりに頷いています。
「そんなに謙遜しなくても良いじゃないか。本当に素晴らしい。」
「素晴らしい、ですか?」
「ああ、そうとも。どんなに著名なインテリアデザイナーに内装を任せても、こんな部屋にはならないはずさ!」
男はその後もアトリエを褒めちぎりましたが、画家は何も言いませんでした。何も言えませんでした。ひとしきりの賛辞を呈し終わったところで、男は画家に向き直りました。
「ぜひ、このアトリエを譲ってほしい。」
そして男は、画家がむこう10年は遊んで暮らせるほどの金額を提示しました。画家は呆気にとられながらも、男の勢いに押されて首を縦に振りました。

〜*〜*〜*〜*〜*〜

「では、準備をして1時間後に来るよ!あ、部屋は出来るだけこのままにしておいてくれ!」
男はそう言うと、軽やかにアトリエを後にしました。ドアが閉まって静かになったところで、画家はもう一度じっくりと部屋を見渡しました。壁、床、天井、家具、そして塗りつぶされた“作品”たち。それらを眺め、画家は首を傾げます。
「僕には分からないな。」
そうつぶやくと、画家は部屋を明け渡すため、引っ越しの準備を始めました。


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このストーリーに関するコメント

14/11/15 クナリ

こういうことって、よくありますよね…せっかく褒めていただいてるのに、
「(ああ違う、それはそんなに気合入れて作ったわけじゃなくて)…こっちはいかがですか? 力作なんですが」
と言っても
「それも悪くないけど、やっぱりこっち(自信作でない方)がいいねえ」
となってしまうというのは。
主人公は自覚なき天才なのかもしれませんが、果たしてそれは幸福なのか不幸なのか…と考えさせられますね。

14/11/18 光石七

拝読しました。
この主人公の感覚、わかる気がしますね。作者の思い入れの強さと周りの評価は必ずしも一致しないようです。

14/11/18 とな

クナリさん
コメントありがとうございます!
自己評価と他人の評価が一致しないこと、ありますよね。
画家が天才なのか男がおかしいのか…どちらにせよ、画家は複雑な気持ちですね。笑

14/11/18 とな

光石七さん
コメントありがとうございます!
作者の思い入れの強さって、必ずしも評価してもらえないのですよね…笑
自己評価と周りの評価のギャップを表現出来ていたら嬉しいです^ ^

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