1. トップページ
  2. 群馬の虎

ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが最近になって、やっぱり小説家の夢を追い求めたい自分がいることに気づきました。久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説を書いてます。http://www.potetoykk.com

性別 男性
将来の夢 太宰治賞もしくは北日本文学賞で最終選考に残ることです。
座右の銘

投稿済みの作品

0

群馬の虎

12/07/04 コンテスト(テーマ):第九回 時空モノガタリ文学賞【 群馬 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:1974

時空モノガタリからの選評

最終選考

この作品を評価する

初夏の陽射しが乾いたアスファルトを照らし、遠くから吹いてくる微風には生暖かい空気に混じって、東京に住む勝ち誇った人間の咆哮や、反対に負けた人間の喚き悲しむ遠吠えが聞えてくるかのようだ。
三科亮一は腕時計に目をやった。
待ち合わせ時間を5分過ぎていたが、いつもの事だと諦め上野駅構内の売店の前で立って待った。
背負っている青のリュックには、3日分の衣服と洗面用具などが詰め込まれていて、今にもファスナーが弾け壊れそうなくらいパンパンだった。
三科の目の前を大勢の人が行き交い、それぞれの目的の場所に向かう為にこの上野駅に集まっている人の群れが少し面白く思い、ニヤッっとすると
「何1人でニヤケてるんだよ」
「うるせーな。ニヤケちゃ駄目なのか。オマエ、10分遅刻だぞ!」
木下源太が、欠伸をしながら「ごめん、ごめん」と言った。
「智也はまだか?」
「ああ、智也なら今、駅構内の便所に入ってるよ」
「また下痢してるのか?」
「しょうがないよ智也は腹が弱いんだから、いつもの事じゃんか」
それから10分程経ち、遅れて智也がやって来た。
「ごめん、みんな。腹の調子が悪くてさ」
源太も智也も、三科と同じようにリュックに衣服と洗面用具をパンパンに詰め込んでいた。
智也が「なあ、三科、一体これから何処に行くんだ?」と聞いてきた。
「電車の中で話すよ」

上野駅から高崎線に乗車し、群馬県の高崎駅に3人は向かった。
乗車時間は1時間とちょっとだ。
「え〜群馬の虎っていうおじさんを見つけたら300万円だって!」と、源太が鼻の穴を膨らませて言った。
「そうなんだ。見つけたら300万円を3人で山分けだ」
それを聞いた智也は、「あ〜ビックリして腹が…」と言って車内のトイレに向け席を立った。

つい3日前の事だ。大学の授業が終わった三科は、アルバイト先のレストランで夕方からバイトしていた。閉店近くになり客の数も少なくなったので、バイト仲間で無駄話をしていると、群馬出身のフリーターの先輩が「俺の田舎には、群馬の虎って言うおじさんがいるんだ」と言った。
「誰ですか、その群馬の虎って言うおじさんは?」と三科が聞くと
「俺も会った事はないんだけど、高校生の時に学校中で噂になったんだ。なんでも、群馬県の前橋市にその群馬の虎って言うおじさんはいるみたいで、赤いハットをいつも被っていて、背中に群馬の虎って書かれた柔道着を着ているみたいなんだ。そのおじさんを見つけたら、おじさんの右肩を2回叩いて『群馬の虎見つけた』って言うと、300万円くれるんだって。本当かどうかは知らないけどね」

車窓からの景色は、立ち並ぶ住宅街から田畑に変わった。
上野駅から高崎線に乗車して30分近くが経っていた。
智也は車内のトイレに向かってからまだ戻って来ていない。
「で、三科、その群馬の虎は前橋市のどの辺りにいるんだ?」
「それが分からないんだ。でも、なんとしても3日間で見つけだして300万円を手にするつもりだ」
三科と同じ大学に通う源太と智也もまた、アルバイトを3日間だけ休んで来ていた。
昨日、三科が源太と智也に理由を言わずに俺に付き合えと電話していたのだ。
高崎駅に着いたのは、正午を少し過ぎていた。そこから両毛線に乗り換え前橋駅に向かった。車窓からは、地方の中核都市の街並みが続いた。
10分くらいが経っただろうか、ついに群馬の虎のいる前橋市の前橋駅にたどり着いた。
駅前の立ち食い蕎麦屋で3人は腹ごしらえを兼ねながら作戦を練った。
「源太、オマエは前橋市中の柔道の道場を回って見てくれ」
「了解。確かにさっき、三科は群馬の虎は柔道着を着ているって言ってたもんな」
「智也、オマエは前橋市中をとにかく歩いて群馬の虎を探してくれ」
「うん、了解」
源太が「三科、オマエは何処を探すんだ?」
「俺は、街の人に聞き込みしながら探すつもりだ。いいか、俺達には3日間しか時間がないんだ。寝てる暇なんかないぞ。もし疲れて眠くなったら、各自の判断で漫画喫茶で仮眠をとれ。3日後の集合場所は、この立ち食い蕎麦屋に午後5時だ」
「了解っす!」
「うん、了解」

3日間はあっと言う間に過ぎた。
三科は、集合場所の立ち食い蕎麦屋に午後5時5分前に入ると、智也が先にいた。
相変わらず腹の調子でも悪いのか、顔色の悪い智也と目が合うと、お互いに顔を左右に力なく振った。
午後5時を少し過ぎ、店の自動ドアが開いた。
三科も智也も入り口に目を向けると、力なくうな垂れる源太が入ってきた。
3人は、店員に天ぷらそばを注文し、無言でズルズルと蕎麦を音をたて啜った。
左隣にいる源太が、三科の脇腹を箸で突付くので、三科は仕方なく半分食べた天ぷらを源太にあげた。
「違うよ! 後ろ! 後ろ見ろよ!」
三科と源太と智也は、3人同時にゆっくりと後ろを振り向いた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン