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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

性別 女性
将来の夢 可愛いおばあちゃん
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共白髪

14/10/31 コンテスト(テーマ):第六十八回 時空モノガタリ文学賞【猛スピードで】 コメント:13件 光石七 閲覧数:1575

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 ジン博士は困惑していた。
「お願いです、薬を分けてください!」
土下座を繰り返す若い男。
「お金は払いますから」
「……あの薬はまだ試作段階だ。そもそも人間用ではない」
「牛や豚が大丈夫なら、人間も大丈夫なはずです」
「しかし……」
「お願いします!」
男は再び頭を床にこすり付ける。ジン博士は思案に暮れた。

 リエはパソコンの電源を落とした。
(やっと終わった……)
大きく伸びをする。リエは自宅で翻訳の仕事をしている。今回の小説は専門用語が多く手こずった。
(もうこんな時間?)
外の暗さにようやく気付いた。一人暮らしだし、集中していると時間を忘れてしまう。
 カーテンを閉めようとして、手が止まった。
(おばちゃんだ……)
自分の姿がガラスに映っている。小皺にほうれい線、張りと潤いを失った肌。髪には白いものが見え隠れする。
(一年半でこんなに変わるなんて)
リエは今二十七歳だ。しかし、遺伝子の異常で二十代半ばから急速に老いる病だった。老化の速度は一年で二十年分と言われている。症例は少なく治療法も無い。病の事は子供の頃から知っていたが、実際に老い始めるとその速さに驚いてしまう。
「一緒に年を、なんて無理なのよ……」
リエの目に涙が滲む。

「君と一緒に年を取りたい。僕と結婚してください」
「……ごめんなさい」
二年前、ガクのプロポーズをリエは断った。
「私、元々そんなつもりなかったから。――いい加減終わりにしたかったのよね。ちょうどいいわ、別れましょ」
リエはガクの元を去った。
 ガクとは五年前、ある出版社のパーティーで出会った。リエは雰囲気に馴染めず、会場の隅でため息ばかり吐いていた。
「退屈ですよね。僕もこういうの苦手なんです」
話しかけてきた青年がガクだった。
「よかったら一緒に抜けませんか?」
リエはガクの誘いに乗った。これがきっかけで二人は付き合うようになった。
(おばあちゃんになる前に、少しくらい恋を楽しんでもいいじゃない?)
発症前の小さな思い出作りのつもりだった。しかし、いつしかガクはリエにとってかけがえのない存在になっていた。
(もし病気の事を知ったら……)
ガクは離れていくだろうか? ガクを失うのが怖かった。
「ガク、私が今とは違う姿になったらどうする?」
「違う姿って?」
「例えば、化け物みたいに醜くなったら?」
交際を始めて二年になる頃、リエは世間話を装って尋ねた。
「そりゃ、急に変わったら驚くかな。でも、リエはリエだろ? 中身がリエなら構わないよ。慣れるのにちょっと時間がかかるかもしれないけど」
ガクは笑顔で答えた。――そうだ、ガクはそういう人だ。相手の外見や肩書に左右されたりしない。彼なら変わらずそばにいてくれるかもしれない。でも……
(私はすぐおばあちゃんになって死んでいく。ガクを私に縛りつけていいの?)
リエの胸に別の不安が生まれる。
(それに、年の差がどんどん広がるのを毎日感じながら暮らすなんて……)
実際は年上であるガクの若さを羨み、妬み、自らの老いを嘆く日々。その苦痛に耐えられるのか?
(今のうちに別れなきゃ)
そう思いながらもガクを手放せない。結局何も言えないまま、ガクがプロポーズしてくるまで付き合っていた。別れから三か月後、リエの老化が始まった。
(別れて……よかったのよ。ガクのためにも、私のためにも……)
リエは頭を振り、カーテンを閉めた。

 極力人を避けて生活しているリエだが、宅配便はやむを得ない。リエが玄関のドアを開けると「失礼します」と荷物を抱えた男が入ってきた。
「サインをお願いします」
帽子を深く被った男は荷物を廊下に置き、ペンを差し出した。リエが受け取ろうとした瞬間、男はリエの腕を掴んだ。男が帽子を脱ぐ。
「ガク……!」
ガクは切なげにリエをみつめる。
「嫌、見ないで! 離して!」
「……離さない」
ガクはリエを引き寄せ抱きしめた。
「なんで病気の事を隠してた? 一方的に別れを決めて、勝手に引っ越して、連絡先まで変えて……。こうでもしないと会えないと思った」
「……ミユが全部話したのね」
「僕が無理矢理白状させたんだ。……黙って消えるなんてひどいよ」
「だって……私だけ先に……こんな……」
「言っただろ? 一緒に年を取りたいって」
ガクはリエを解放すると、ポケットから小瓶を取り出し中身を飲んだ。あっという間にガクの髪に白髪が混じり、顔も老けていく。
「嘘……」
「ある研究者にもらった薬だよ。本来は野菜や家畜の成長を速めるためのものなんだけどね」
ガクは小皺のできた顔で微笑んだ。
「これで僕もオジサンだ。リエがばあさんになったら僕もじいさんになるよ。――もう一度プロポーズする。リエ、僕と結婚してください」
二年前と変わらないガクの眼差し。リエはガクにしがみついて嗚咽した。


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このストーリーに関するコメント

14/11/01 夏日 純希

若返る薬を手に入れてきたのかと思ったら、反対でした^^;
猛スピードで年をとりましたか。その発想はなかったです・・・。

布石がきちんとあるので、話が滑らかに流れますね。
字数もぎりぎりですが、全然長く感じず、
すっと最後まで読むことができました。

彼氏がすごくいい人であるのが、物語をロマンチックに仕上げている反面、評価の分かれ目になる可能性があるかなぁと思いました。

14/11/01 黒糖ロール

掌編として、とても面白かったです。
また、リクさんが老いを選択したという点。夏日さんとかぶってる気がしますが、ポイントだと思いました。個人的には、SFの悲恋物語として読むとしっくりきました。

14/11/02 光石七

>夏日 純希さん
コメントありがとうございます。
今回は「“猛スピードで”ときたら“老いる”だろう」と、何故か妙な執着とこだわりがありました(苦笑)
布石……ですか。計算したというより、2000字に収めるのに必死で……
読みやすいと感じてくださったのならうれしいです。
再会までのガクの行動や心情まで盛り込むことができたら、ラストの説得力も増したかもしれませんね。

>黒糖ロールさん
コメントありがとうございます。
面白かったとのお言葉、うれしいです。
ガクが何故老いることを決意したのか、やはり根拠が乏しいですよね。そこまで書けたらよかったのですが。
このラスト、実は赤川次郎さんの『死が二人を分つまで』の夫婦の姿からイメージしたものでもあります。

14/11/02 そらの珊瑚

光石七さん、拝読しました。

「猛スピードで」そうきましたか!
本物の愛って言葉にすれば嘘ぽいけれど、
人生がちょっとくらい短くとも一緒に共白髪を選ぶのは
やっぱり究極の本物だと思いました。

14/11/03 草愛やし美

光石七さん、拝読しました。

なるほど、誰もが老いることを否定する世にあって、それをあえて望むなどとはとんでもないことです、でも、これこそ、愛がなせる業なのですね、素晴らしいオチだと思いました。拍手

愛する人と共に老いてゆくことがやはり一番ですものねえ、わかります。これは、今流行りの年の差婚をされる方々にぜひ読んでいただきたい良作ではないかと思いました。笑顔

14/11/04 光石七

>そらの珊瑚さん
コメントありがとうございます。
何故か“猛スピードで老いる”とことにこだわりました(苦笑)
本物と呼べる愛の形の一つを描ければ、と思っていたので、珊瑚さんのコメントはとてもうれしいです。

>志水孝敏さん
コメントありがとうございます。
お褒めの言葉、恐縮です。

>草藍さん
コメントありがとうございます。
ええ、愛ゆえにガクは老いを選択しました。もうちょっとそこに説得力を持たせられれば良かったのですが。
人は外見ではなく中身だとよく言われますが、本当に芯から実践できる人ってなかなかいないのではないでしょうか。
私の願望をガクに託した部分もありますね。

14/11/05 滝沢朱音

光石さん、こんにちはー(・ω<)☆

愛する人の生きるスピードにあわせるって、勇気のいることでしょうね。
無理してでも共に生きる道を選んだ、その愛の深さがせつないです。

老化って、女性にはやはり恐怖で切実ですよね、男性よりも。
最後のリエの嗚咽とその嬉しさがしみじみと伝わってきました。

14/11/05 光石七

>朱音さん
コメントありがとうございます。
ガクの行動に愛を感じてくださり、うれしいです。
私も女性は男性よりも老化を恐れると思います。若く美しい盛りから一気に変わるとなると、更に切実ではないかと。
ガクが共に老いる決意をしてくれて、リエは救われたことでしょう。

14/11/07 たま

光石七さま、拝読しました♪
モチーフはおもしろいですね。お話が一方通行的に進行してしまったので、読後感が痩せてしまいます。2000文字だからと言うのではなく、ストーリーで勝負するのであればそれなりに入り組んだものにしたいですね。ジン博士をもっと使って、リエとガクとジン博士ががっちりつながれば、ストーリーが成立します。一方通行でなくなるのです。
この作品は三人称ですが、もし、これを一人称で書くとなると難しいですよ。例えば、冒頭のガクとジン博士の場面は書けなくなりますからね。三人称はラクして小説を書く方法だと思ってください。ですから、小説を学びたいのであれば、一人称で書く力も身につけてください。課題はいっぱいありますが、楽しみながら消化してくださいね。応援してますから〜^^

14/11/08 光石七

>たまさん
コメントありがとうございます。
仰る通り、一方通行感がありますね。薬をガクに渡した後のジン博士の独り言をラスト付近に入れようかとも思ったのですが、ラストに水を差すのも嫌だな、と控えました。
初めに書いたものは3000字を越えており、入れるべき情報を取捨選択して修正する作業を繰り返したのですが、これが精一杯でした。
やはり私には客観性が足りないようです。一番書きたかったのはラストなんですけど、もう一捻りしてもよかったかもしれません。
書きながら途中で「リエの一人称でもいけるかな」とも思ったのですが、それだと薬の登場が唐突過ぎる気がしたため、冒頭は残して三人称で通しました。でも、感情の掘り下げが中途半端になってしまった感もあり…… まだまだ未熟者ですね。
ただ、一つ生意気なことを言わせていただくと、三人称はラクして書く方法だとは思いません。一人称か三人称かは、話に合わせて使い分けるものではないしょうか。もちろん、「この話を別の人称で書いたらどうなるか?」という視点は大切だと思います。
私はどちらが書きやすいというのは無く(どちらも未熟なだけですが)、大抵話の一場面と一フレーズが浮かんで書き始めるので、その時点で何人称にするか決まっています。
……未熟なくせに、本当に生意気ですね。お気を悪くされたらすみません。
でも、たまさんのように足りない部分を指摘してアドバイスしてくださる方はとてもありがたいです。

14/11/10 たま

光石七さま、
小説家は生意気がいいです。気にしないように^^
情報の取捨選択ですが、例えば登場人物を、ガクとリエのふたりだけにしてしまうという手もあります。ガクは医学生であって、薬の研究をしている・・とかであれば、ジン博士はいらないし、医学生であるガクが、リエの病名を知ってしまうとか、であれば、ミユもいらない。2000字であればそこまで思い切ってもいいでしょう。
情報の取捨選択は大事な作業です。ときとして、プロットにさえ影響します。でも、そこに小説を書く醍醐味のひとつがあります。自由自在にプロットを操ることができるのは作者だけなんですからね。まずは実験的意欲が必要です。
果敢にチャレンジしましょう。もちろん、ぼくもです^^

14/11/10 光石七

>たまさん
小生意気なペンギン(←よく「似てる」と言われます)の遠吠えを寛大に受け止めてくださり、感謝です。
まだ小説家とは名乗れない、自称妄想家の素人物書きです。
取捨選択の提案もありがとうございます。自分では思いつきませんでしたね。書いてる時って、書きたいことにこだわるあまり視野が狭くなっているようです。
足りない部分は多いですが、頑張って挑戦的に書いていこうと思います。

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