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yoshikiさん

面白い作品を知り、自分でも書いて見たくなって何年も経ちました。よろしくお願いします。 2010年 小説現代S&Sコーナーに初めて送った作品が掲載されました。作品名『幽霊の見える眼鏡』 とにかく面白いものが書いていけるといいなと思っています。 イラストはエアブラシと面相筆で昔描いたものです。

性別 男性
将来の夢 楽隠居
座右の銘 不可思議はつねに美しい、どのような不可思議も美しい、それどころか不可思議のほかに美しいものはない。アンドレブルトン

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宇宙人にされた男 3

14/10/21 コンテスト(テーマ):第四十二回【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 yoshiki 閲覧数:895

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「何をしているんだ!?」
 その時不意に俺の頭の中で不気味な声がした。振り向くと二メーター近い宇宙人がひとり、手に光線銃のような武器をもって立っていた。そいつは随分と不機嫌そうな顔をしていた……。その宇宙人は広瀬曹長をじろじろと見ながら言った。
「こいつは何者だ。たしか地球人じゃないのか…… あーっ?」
「そうです。良くご存知で。俺はアプラック。こいつは捕虜だ」
 俺は弁解するようにそう言った。
「アプラック…… あのエルザークさんの……。 こいつはお初です。あなたの武勇伝は聞いております。それにしても捕虜は拘束しないと危険ですよ。アプラックさん」
 そいつはちょっと首を傾げて続けた。
「しかし、アプラックさん。なんでまたこんな夜にこんな所にお出でなんです? あなたの家はこことは随分離れている。なんだか妙ですねえ。それにその捕虜とかが持っているその得体の知れない物はいったい何なのです? 詳しい説明を訊きたいものです」
「それは……」
 俺は固まってしまっていた。うまくこの場を切り抜けなければならない。
「どうも腑に落ちない。それに捕虜があなたと親しそうにしていましたねえ。なぜです?」
 広瀬曹長はただ黙って立ち尽くしていた。
「実はこの地球人はスパイなのです。我々の下部ですよ。地球に侵入させ情報を送らせる。だから拘束なんて要らない」
「さっきは捕虜だといい、今度はスパイですか? どっちなんです。ちょっとそこのパトロールセンターまで来ていただきたい。ゆっくり事情をお聞かせ願いましょうか」
 パトロールセンター? こいつは宇宙人警察官か… とにかくまずいことになってきたと思った。
「ついてきなさい」
 大きな宇宙人がそう言い、俺達はその宇宙人に光線銃をむけられたまま、歩き出した。しかし広瀬曹長はおとなしくしていなかった。曹長は血気盛んな男なのだった。
「どええええええええーいっ!」
 俺の背後で広瀬曹長が奇声を発した。そして助走をつけての跳び膝蹴りを宇宙人にめがけてはなったのだ。一瞬宇宙人が前にのけぞったがすぐに体勢を立て直し、長い腕で曹長の体を払った。もんどりうって曹長が倒れた。
 曹長も負けてはいなかったが、しかし結論から言って曹長の格闘技は宇宙人には無力だった。まったく宇宙人はダメージを受けなかったのだ。そればかりか広瀬曹長は逆に宇宙人にこっぴどく打ちのめされ、その場にぐったりと倒れこんでしまった。宇宙人は光線銃を構え、倒れた曹長に向けた。このままでは撃たれると思った俺は無謀にも全力で宇宙人に突進していた……。

 はっとして気がつくと俺は立っていて、宇宙人は無様に倒れていた。俺のタックルはそんなに凄いのかと思った。とにかく俺は意識不明の広瀬曹長を肩に担ぎ、一目散に宇宙船に走った。もちろん宇宙人の持っていた光線銃は足で踏んずけて壊した。宇宙人の脚力は馬並みらしい。
 宇宙人はいざとなると火事場の馬鹿力を発揮できるようだ。宇宙船に戻ると俺は床に曹長を投げ出した。宇宙人の俺にはなぜかデリケートな真似はできなかった。その衝撃で曹長が意識を回復した。
「ど、どうした?」
「どうしたも、こうしたもありません。とにかく一刻も早くこの星を脱出しましょう」
「装置はどうした?スイッチは入れたのか」
 夢遊病者のように曹長が言った。
「あのままです」
「スイッチを入れなければ装置は作動しない」
「今更、あの場所には戻れません」
「その為にこの星に来たんだぞ。どの面さげて地球に戻れる!?」
 曹長が顔を紅潮させてそう叫んだ。
「自分には任務より、命の方が大切です。広瀬曹長だって死なせるわけに行きません」
 俺は宇宙船の覗き窓から見える宇宙人達を指差していた。奴らはいつのまにか宇宙船の周りに集まってきていた。おおかた宇宙パトロールとか言うとぼけた名の奴らだろう。それを見てさすがに広瀬曹長ももうどうしようもないと思ったみたいだった。
「しかたない、悔しいがここは一端逃げよう」
 広瀬曹長はそう言うと直ちに宇宙船の発進に取り掛かった。といってもボタンとレバーを数回押したり引いたりしただけだが。凄まじい轟音がした。宇宙人たちが必死で光線銃を発射したけれども、宇宙船の頑丈なボディはそれを跳ね返した。
 宇宙船はいきなり垂直に飛び上がった。そして瞬く間に緑色の星が小さくなった。ほっとしたのは俺も広瀬曹長も一緒だったとは思うが、広瀬曹長は「ちくしょう」などと何回も言って悔しそうだった。さすが軍人だと思った。俺は安心したがあまり悔しいとは思わなかった。
「ここは地球に帰り、正直に報告するしかなかろう。任務は失敗だ。大失敗だよ」
 曹長が肩を落としたが俺にすれば成功に近かった。出来れば爆弾なんて使いたくなかったし、生きて帰還できればそれでいいと思った。だいぶ飛行すると緑の星が視界から消え去り、暗黒の宇宙が窓の外に広がっていた。広瀬曹長はめっきり寡黙になり静かに星々を眺めていた。
「ありがとう飯塚。おまえがいなかったら俺は死んでたな、きっと」
 広瀬曹長が俺の眼を見ないでぽつりとそう言った……。俺たちは再び銀色の鈍い光沢を放つ楕円形のカプセル、人工冬眠装置の中で眠った。もちろん個々に眠れるように出来ている。曹長と添い寝なんてぞっとしない。5年も眠るのかと思うと気が重かったが、五歳も歳を取るのはもっと嫌だった。あっと、実際には歳はとらないのだが。


 9

 ――やがて俺は眼を覚ました。やはりめまいに襲われた俺は装置からふらりと起き上がった。そしてまた妙な感覚に襲われた。俺は元々宇宙人ではなかったのかという実に奇妙な心持ちだ。例えればデジャブのような夢みたいな錯覚だった。このまま宇宙人でい続けたら仕舞いには身も心も宇宙人になっちまうかもしれない。
 目前には青い天体、地球の神々しい姿が視界に映っていた。ついに帰ってきたのだ。宇宙人の追っ手は我々を捕らえられなかったのだ。隣のカプセルで曹長も薄目を開けていた。
「やりましたよ! 曹長! 地球に帰ってきた」
 俺は心の中で叫んでいた。曹長もさすがにちょっと嬉しそうな表情をしていた。しかし、時間計を見て俺は首をかしげた。時間経過が十二時間なのだ。ありえない話だった。行きは五年で帰りは十二時間なんて……。曹長も計器を覗きこんで怪訝な表情を浮かべていた。
「おかしいですね。きっと時計の故障ですよ、広瀬曹長」
 俺はテレパシーでそう言った。
「そんな訳はない」
 広瀬曹長が言った。
「まあ、そんな事はこの際どうでもいいですよ。こうして地球に帰ったんだから」
「おかしい…」
 広瀬曹長はそういったが目の前の現実を受け入れないわけには行かなかった。
「とにかく基地に帰ろう、交信して着陸するんだ」
「はい」
 しかし奇妙な事がおこった。地球と交信できないのだ。電波を飛ばしても、何も返ってこないし、実に不思議な沈黙が宇宙空間を支配していた。宇宙船は降りるに降りられず、地球の軌道を回る羽目になっていた。
「何処でもいいから降りましょう。曹長、自分は前田博士に会いたいのです。自分は人間に戻りたい。金も名誉も自分にはもうどうでもいいんです。それより早く家族に会いたい」
「ああ、わかってるさ。仕方がないから海にでも落ちるか」
 広瀬曹長が諦めたようにそう言った時だった。後方の覗き窓から、なにか煌くようなものが見え、それがグングンと大きくなって行った。星のようにも見えたが輪郭がはっきりしてくると、それが宇宙船だとわかった。残念ながらそれは地球の物ではなかった。
「やあ、兄弟こんなところで何をしてんだい?」
 その強力なテレパシーは俺の頭の中でやかましいほど鮮烈に響き渡った。
「兄弟?」
 俺は驚いて広瀬曹長の顔を覗きこんでいた。
「今の聞きました?」
 俺は曹長にテレパシーを飛ばしていた。
「今のってなんだ」
 曹長が不思議そうな顔をした。どうやら声は俺にしか聞こえないらしい。
「よう、兄弟。随分旧式な船に乗りやがって! さてはあんた金持ちのクラシックシップの収集家なんだろう。きっとそうだろうな。でなかったら今時そんな船に乗っているわけがない。しかも新品みたいにぴかぴかじゃないか」
「……」
 俺は無闇に返答せず、相手が何者なのか確かめようと思った。
「それに、人間を連れてる。そいつぁ奴隷かい? モルモットかな、まさか親友じゃあるまいな」
 そいつは話の内容から言って宇宙人に違いなかった。しかしどうしてここに宇宙人がいて、しかも訳のわからない事を話しかけてくるのか、俺には皆目見当もつかなかった。ずっと無言でいると怪しまれると思った俺はこうテレパシーを送り返した。
「やあ兄弟、あんたこそ良くここまで来れたじゃないか、この人間は俺のペットさ、従順でよく働くから飼ってるんだ」
「まったく物好きな奴だぜ、そんなもんがペットなのかい。どうせ仕舞いには殺して喰っちまうんだろうけどな」
「ところでここは地球なんだろ、地球だよな」
 俺はコミカルに言ったつもりだったが相手の反応が怖かった。
「なにを言ってる? あんたは随分冗談の好きな奴なんだな、当たりだよ。ここは地球でした」
 相手の口調も冗談みたいで、俺には何がどうなっているのかさっぱりわからなかった。
「地球に降りたいんだ。どこに降りたらいいか、教えてくれないか」
 俺はそう言った。
「何処に? 笑わせるやつだなあ。だが好きだよ、そういう冗談は」
「長い間、俺は宇宙にいたんだ。久しぶりなんだよ、地球は」
「どこでも降りられるさ。その宇宙船は故障してる訳じゃないんだろ」
「ああ、別に」
「だったら好きな場所に降りればいい。悪いが俺はこれからちょっと星に帰るところなんだ。縁があったら又会おうじゃないか、兄弟」
「わかった、ありがとう兄弟」
 そういうとその宇宙船は急加速して宇宙の果てに消えていった。
「どうした? どういう話だ、飯塚」
 俺のテレパシーは曹長に無論聞こえていたが、宇宙人のテレパシーは曹長には届かなかったらしい。 
「とにかく降りましょう曹長、降りればたぶん事情がわかります」
 俺は心にへんてこな予感を覚えながら、そう言った……。


 10

 宇宙船は大気圏に突入した時、爆発したような轟音を四方に放ったが、急速に減速するのに成功した。そして丸焦げになったかと思われた船体も、かすり傷一つ、焼け痕一つ残ってはいなかった。やはり宇宙人のテクノロジーは凄いと俺は改めて思った。降りたところはもちろん日本で、富士の裾野に違いなかった。
 俺と曹長はその辺りの林に中に降り立っていた。やはりここは地球なのだという安堵感が俺に胸の内にあった。林の中に宇宙船を隠し、俺たちは彷徨うように自衛隊の秘密基地を探した。
 しかしそれらしい物がなかなか見つからなかった。俺は辺りにテレパシーを飛ばしたりしながら、記憶を辿ってようやく基地の入り口を見つけた。小さなトンネルのようなアーチ状の入り口だ。恐る恐る俺たちはその中に足を踏み入れた。途端に焦げ臭いが鼻をついた。
「なにか妙だな。なんだろうこの臭いは」
 広瀬曹長がそう言った。なおも奥に進んで行き、俺たちは心臓が引きちぎれるほどのショックを味わう羽目となった。薄暗い迷路のような洞窟の先に人骨を発見したのだ。それも無残に散乱している。焼け焦げた軍服を着た人間の死体があちこちに無造作に転がっていた。
「こりゃ、酷い。ここで爆発があったんだ。しかしなぜ死体がそのままなんだ」
 曹長は険しい軍人のような顔をして俺にそう言った。
「こりゃ、事故じゃないぞ。やられたんだ。攻撃されたんだよ」
「ま、まさか宇宙人に…… ですか?」
「ああ、そうらしい」
「基地の人は死んだんですか。全部?」
「さあ、わからん」
 俺は前田博士になんとしても会いたかった。
「確かめましょう。曹長、基地の中を確かめましょう」
「そうだな。おまえなら宇宙人に遭遇しても大丈夫だ。もし宇宙人が現れたら、俺は捕虜だと言ってとぼけろ」
「はい」
 俺は答えて道を進んだ。重い分厚い鋼鉄のドアがひしゃげていた。壊れたドアを通過して中に入る。まるでお化け屋敷に入る心境だった。ひっそりと静まり返った通路を通り、俺たちは会議室の前で立ち止まった。見おぼえが少しある場所だ。心臓は早鐘を打ち鳴らす一方で少しも落ち着けなかった。会議室から明かりが射していた。誰かいるみたいだ。曹長が銃を取り出しが、まずいと思って俺は曹長に銃を仕舞わせた。
 ノックもせず中に入ると宇宙人が数人いた、すくなくともは七、八人はいただろう。会議室の円卓をかこんで座っている、
「よう、どうした? 見慣れない面だな」
 宇宙人のひとりがそう言った……。

「やあ…」
 俺は咄嗟にそう言ったがその後が続かなかった。
「なんだ。人間なんか連れやがって。どういうつもりだ?」
「こいつは、俺の奴隷だよ、召使いといったところだ」
 宇宙人達が顔を見合わせると俺は心臓がズキンとした。まずかったのか。
「皆殺しにしろという命令だったろ」
「だが、こいつは特別だ。なにかと役に立つんだ」
「どんな風に?」
 俺は困った。俺はつっこみに弱いんだ。どう答えていいかわからない。その時曹長が口を開いた。
「自分は、人間の世界の事情を良く知ってるし、スパイなんだ。今度この基地の攻撃だって自分が裏で糸を引いたんだ。だから上手く事が運んだのさ」
「……」
 宇宙人たちが又、顔を見合わせた。
「そうとも、こいつの情報でこの基地がわかったんだ。そんな事も君たちは知らないのか」
 俺は本当に怖かったがお芝居をした。三流芝居だったに違いない。
「そうかい。そりゃ知らなかったぜ。人間にもこんなずる賢い奴がいたか。自分の仲間を売って命拾いをしたって訳か」
 リーダーらしい宇宙人がそう言った。俺は内心ほっとしていた。とりあえず、広瀬曹長は殺されずに済みそうだ。
「まあ座れ、どこの部隊の者か知らないが、もうすぐ人類はおしまいだ。白旗を振って降参するだろう」
 またまた俺は心臓にズキンときた。いやズキズキンーンとズキンの二乗だった。今こいつら何といった? 人類はおしまい? もしかしてもう地球を征服してしまった? のような口ぶりじゃないか。俺は暫らく白痴のような宇宙人なっていたかもしれない。もしそうなら夢も希望もないじゃないか。あんまりだ。命辛々宇宙人の星から脱出して来たというのに地球はもう宇宙人の手におちたとでも言うのか? 酷い、酷いわ。(俺はおねえか)
 俺は暫らく呆然としていたが博士の事を思い出した。
「ところで、この基地に前田博士という天才博士はいなかったかな。そいつを俺は探しているんだ」
 宇宙人たちが前田博士と言う名に微妙に反応したみたいだった。
「ああ、たしかそんな奴がいたな。老いぼれだ」
「そ、そうか。そいつはどうした?」
「むろん殺した。肺の中に圧縮空気を送り込み続けたら爆発したよ。風船みたいに膨らんで爆死だ。見ものだったぜ」
 俺はもう開いた口が塞がらなかった。いや、今の俺の口は開かない。吸うだけ(チュー・チュー)なんという残酷なやつらだろう。俺はバッタリ倒れこみたかった。ああ、俺はこのままずっと宇宙人なのか。すねてやる。死んでやる。泣きたくても涙が出なかった……。


 11

 俺は何とかその場で気絶したくなるのを抑え、深呼吸をした。そして何とか冷静さを取り戻すと、家族の事が心配で堪らなくなった。それに亜紀子のこともだ。それを思うと居ても立ってもいられなくなった。もしかしたら、もう死んでしまったのかもしれない。そう思うと心が破裂しそうになった。とにかく安否を確かめなければ気がすまない。俺は考えた末、こうきり出した。
「俺は現時点での都心の状況を知りたいんだ。言い遅れたが俺はエルザークの弟だ。俺はエルザークに直々の命を受けて地球の状況探索に来たんだ」
 俺はもう開き直りに近い心境でそう言った。ばれたらばれた時の話だと思った。いや元々俺ってエルザークの弟に化けているんだし。俺にも少しは度胸がついたらしい。
「エルザークって総司令官のエルザークか、あの方の弟さん」
「そうだ」
 俺はきっぱり言った。
「あの方に、弟さんがいるのは知っている。あなたはアプラックさんですか?」
「そうだ。よく名を知っているな」
 俺は多少大きな態度の芝居をしていた。
「では、副司令官殿ではありませんか」
「そういうことだ」
「これは失礼しました。まさか単身でこのような場所においで願えるなんて思ってもみませんでした」
「これは秘密だ」
「はい。わかりました」
 リーダーがかしこまって答えた。なんだか変な気持ちだった。こうも簡単に俺のことを信じてしまう宇宙人達が不可解でならなかった。まあでもラッキーだと思った。
「東京を視察したい。協力を頼む」
 俺はそう言った。
「わかりました。探索艇を出しましょう。小型のものがあります。護衛もお付けいたします」
「よし。艇を出してくれ」
「はっ」
 暫らくすると妙な音がして探索艇が俺の目の前に現れた。外からそれが宇宙人を乗せて部屋の中に入ってきたのだ。ちょうどそれはタイヤなしの大型スクーターのような乗り物だった。ホバークラフトのように地上から一メーターばかり浮上していた。前に一人、後ろに二人乗れる白色の乗り物だった。
「これをお使い下さいませ、後に護衛の艇もつけますので」
 宇宙人がそれから降りて俺を乗るように促した。
「よし、でも護衛はいらない。この地球人と俺とで行く」
「し、しかし…」
「これは命令だ!」
 俺は強くそう言った。
「はいっ。仰せの通りに」
 宇宙人がそう言った。

 その小型探索艇の操縦は意外なほどに簡単だった。考えるだけで操縦が出来てしまう。たぶん操縦者の思考を読み取るのだろう。富士風穴から飛び出た探索艇は富士原始林を潜り抜け、まっすぐに東京に向かった。中央自動車道を行き、調布インター辺りで麻布飛行場を横に見た。言い忘れていたが俺の家は吉祥寺にある。一刻も早く家の様子を確かめたかった。
 ああ、しかし地球上の光景は見るも無残だった。殆どの建物が崩壊し、焼かれ、黒煙が至る所に昇っていた。高速道路はひび割れ欠損し、破壊されていた。広瀬曹長はもう殆ど無言だったし、顔面蒼白だった。俺とて同じだった。もう身体が震えて悲しいとか、悔しいとかそんなもの通り越していたのかもしれない。井の頭公園がもう荒地でしかなかった。カップルが別れるという不吉な公園だが、何度も亜紀子とデートした思い出深い公園だ。
 そして家はなかった。というか何処が家だったのかもわからなかった。あたり一帯は焼き尽くされ、道さえもわからなかった。俺はその辺で艇を止めた。俺は泣いた。わーわーと狂ったような泣き声をあげた。もしかしたら初めて泣いた宇宙人なのかもしれない。
 そのとき初めて俺の胸に言い知れぬ復讐心が湧き上がってきた。許せないと思った。こんなばかな事って、到底許せないと俺は思った。
「――これはもう絶望だな」
 そう曹長が低い声で言った。
「ええ、あまりに酷い。悪夢をみるようです」
 俺はすっかり意気消沈してそう言った。
「こうなったら、自爆テロでもして死んでしまおうか」
 ぼそっと広瀬曹長が恐ろしい事を言った。
「待ってください。まだ人間がどこかにいるかも知れません。なんとか探しましょう」
「もう少し、様子を見ようか」
 曹長がそう言ったので俺は艇を再び発信させた。そして俺は東京の中心部向かった。六本木ヒルズはまるで大きな刀で切られたように真っ二つに切断されていたし、何より驚いたのは東京タワーが飴細工のようにねじ曲がり、見るも情けない姿を晒していた事だ。
 まさに屈辱的で人間をあざ笑うかの光景であった。しかし東京タワーをじっと見つめていた曹長が俺にこんな事を質問してきた。
「飯塚、ところで今何年だ?」
「はっ? 今年ですか」
「ああ、そうだ」
「えーっと、宇宙に五年いたとしたら今は2017年ですか」
「だよなあ、あれを見ろ」
 曹長が指差す先にビルがあり、そこに架けられた横断幕に『こんにちは2030年』と描かれてあった……。

 熱で焦げたその文字を見たが俺は最初何も感じなかった。しかし広瀬曹長はなぜか不思議そうにそれを見つめていた。
「おかしいな、なぜ2030年なんだ。我々が地球を出発したのは2012年だから、仮に往復10年かかったとしても、今は2022年でなければならない。それに帰りの時間は十二時間しか経っていないと計器が示している。どういうことだろう」
「でもあれは何かの広告か宣伝の類で今年の年号だかはっきりわかりませんよ」
「いや、周りに初日の出と松飾りのイラスト付きだ。あれは今年の年号だ」
 俺は暫らく、ぽかーんと口をあけていた。
「そうかもしれません。そうなるとおかしいですねえ。片道5年なはずだから、ここへの帰りがもし十二時間だったとしたら、今は2017年ですねえ」
 俺もその時初めておかしいと思った。
「時間計が狂ったのでしょうか?」
「そんなわけはない。精密機器の時間計はそんなに簡単には狂わないし、壊れない」
「じゃあ、どういう事ですか?」
 曹長はちょっと蒼ざめた顔をしていた。
「ここは十二時間で帰れる地球ということさ」
「意味がわかりません。曹長」
 俺はきき直した。
「ここは十二時間で帰れてしまった地球で、我々の来た片道五年かかる地球ではないという事だ。つまりここは2030年の地球なんだ。そういう可能性がある。どういうわけでそうなったかはさっぱりわからんが」
 曹長の言う事は益々難解で俺には理解できなかった。
「この地球をもっとよく調べよう。それしかない」
「という事は曹長…… ここは地球に似ているけど、似て非なる地球なんですか?」
「そういうことだ、異次元の地球かも知れない」
「まるでSFみたい?」
 俺はとぼけた顔でそう言った。

                     つづく


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