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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

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Is he foolish?

14/10/20 コンテスト(テーマ):第六十七回 時空モノガタリ文学賞【 秘密 】  コメント:11件 光石七 閲覧数:997

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 朝、実津の目に最初に映るのは孫の秀也の寝顔だ。秀也は高校生になった今でも実津の隣の布団で休む。
(ゆうべはだいぶ遅かったけど……)
実津はいつも夜九時頃に床に就くが、秀也が部屋に入ってくる気配で一度目が覚める。昨夜は三時半を回っていた。秀也が遅くまで勉強することは時々あるが、さすがに遅すぎだ。
(夜はちゃんと寝ないと)
成績優秀なのは喜ばしいが、実津には孫の健康が第一であった。
 足音に水音。嫁の祥子が起きたようだ。実津は秀也を起こさないよう、そっと部屋を出た。洗面を済ませ、リビングで新聞を読む。息子の浩司が起きてきたら新聞を譲り、テレビをつける。祥子は朝食と弁当の準備。いつもの朝だ。
(そろそろ秀ちゃんを起こさないと)
実津が腰を上げかけると、浩司と祥子の携帯が鳴った。二人がメールを開く。
「臨時休校?」
「ウソ、爆発って……」
秀也が通う高校からの連絡メールだった。

 P高校の職員室はドアが吹き飛び、ガラスも割れ、中は滅茶苦茶だった。奥の金庫までひしゃげ、爆発の威力がうかがえた。爆発が起きたのは明け方で、幸い誰も巻き込まれずに済んだ。警備員が午前二時に見回りをした時には異常は無かったという。分析の結果、使用されたのは手製の時限爆弾と判明した。犯人は見回り後に侵入し爆弾を設置したとみられる。生徒たちの安全と心理的影響を考え、学校側は当面の休校を決めた。
(早く犯人が捕まるといいけど……)
庭いじりをしながらも実津は不安に思う。事件自体も怖いが、平日に秀也が家にいるとあの日々を思い出してしまう。
 小五の時の林間学校を境に秀也はいじめられるようになった。親しかったはずの友達も態度が変わり、孤立した秀也は毎日泣いていた。そのうち学校に行けなくなった。実津は秀也が不憫でならなかった。卒業と同時に引っ越さなければ、秀也は引きこもったままだったかもしれない。
「こんにちは、秀也君いますか?」
実津が振り向くと、秀也の高校の友達が門の外に立っていた。
「ちょっと待ってね」
慌てて秀也を呼びに行ったが、少し不安が和らいだ。新天地の中学で新しい友達ができ、明るさを取り戻した秀也。勉強もすぐに追いつき、学年トップを争うまでになった。高校でも成績は上位、友達も多い。
(あの頃とは違うわ。いじめには遭ってないし、秀ちゃんも成長してる)
実津は一人頷く。
(秀ちゃんのペースで進めばいいのよ)
秀也は友達と出かけるようだ。
「秀也、今夜俺んち泊まんない? 一緒にセズニーランド完全攻略プラン立てようぜ」
「ゴメン、今夜はちょっと……。それに、この状況だと修学旅行中止かもね」
「マジか? せっかく空いてる平日に行けるのに。授業はともかく、修学旅行だけは予定通りやってほしいわ」
「潤、学生の本分忘れてない?」
友達とじゃれ合う秀也を実津は優しく見送った。

「――P高校爆破事件の犯人として逮捕されたのは、同校に通う男子生徒でした。男子生徒は成績優秀で友達も多く、素行も良かったということです。男子生徒は取り調べに対し黙秘を続けています……」
実津はテレビを消した。
(秀ちゃんは嫌がったのに、浩司も祥子さんも無理に行かせようとするから……)
実津は心の中で息子と嫁を非難する。
(私の隣で寝るのも甘えだってなじって……。周りが焦っても秀ちゃんが不安定になるだけじゃない)
あの夜秀也の就寝が遅かった理由を、警察が来たことでようやく悟った実津。さすがに驚いたが、秀也の気持ちもわかる気がした。
(やっぱり修学旅行に行きたくなかったのね。あの癖がばれるって)
 林間学校の時、秀也は夜に隣の児童の耳たぶを触っていたことをからかわれた。昔から秀也は寝る時に人の耳たぶに触れる癖があった。そうしないと眠れず、眠くなると無意識に耳たぶを求めてしまう。「赤ちゃんみたい」「キモい」とクラス中に笑われた。それがいじめと不登校につながったのだ。
 秀也も直そうと努力した。だが、どうしても耳たぶ無しでは眠れない。自分のでは駄目だし、ぬいぐるみは感触が違う。秀也が毎晩実津の隣で寝ていたのは、怒らずに耳たぶに触らせてくれるのが実津だけだからだ。
 秀也のトラウマは大きく、中学でも高校でも泊りがけの行事は仮病を使って休んだ。合宿や遠征があるため部活にも入らない。嫌われるのを恐れて友達にも癖のことは隠していた。高校の修学旅行も休むつもりだったが、両親は今回許さなかった。息子の将来を考えてのことだった。しかし、追い詰められた秀也は修学旅行が中止になる方法を必死に考えた。――積立金が無くなれば。修学旅行どころではない事態になれば。だから金庫がある職員室に爆弾を……。
 秀也は黙秘しているという。余程あの癖を知られるのが嫌なのだ。
(秀ちゃん、眠れてるかしら……)
今、実津の一番の心配はそこだった。


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このストーリーに関するコメント

14/10/20 夏日 純希

耳たぶフェチかぁ・・・自分ので我慢できるといいんですけどね。

そう言えばあの年頃って、どうしても知られたくないことってありますよね。
今となると、別にどうってことないんですけど・・・。
なんだか小中の頃のことを思い出しました。ありがとうございました。

14/10/21 草愛やし美

光石七さん、拝読しました。

実は私も幼い頃、秀ちゃんと同じ癖?がありました。いつの間にか治りましたが、特に暑い夏場、昔はクーラーもなかったので、ひんやりしている母の耳たぶを求めました。そのうち、店が忙しく母が床にこない時は目覚まし時計を持ち込んで、それに触れて寝るようになりました。

癖はなかなか治りません、秘密にしたかった彼の気持ちはよくわかります。修学旅行に行かない方向を親御さんが選ぶべきだったのでしょうか……考えておられたかもですが、遅かったのですね。残念な結果ですが、賢いお子さんですから、計画性や実行力を違うことに使えばと作品ながら切に願わずにはいられません。

14/10/22 光石七

>夏日 純希さん
コメントありがとうございます。
人の耳を触るのは、実は私の子供の頃の癖でございました(苦笑) 自分のでも我慢できたし、大きくなるにつれて治りましたが。
振り返ってみれば些細なことなのに当時は深刻だったことってありますよね。
なんであんなことで悩んでたんだろう……的な。
特に思春期はいろんなことに敏感ですしね。

>OHIMEさん
コメントありがとうございます。
秀ちゃん、追い詰められて思考がまともじゃなかったようです。
実は「他人に言えない秘密は時に人を愚かにする」というナーナ・レイザーストーンの迷言を作中に入れる案もあったんですよ(笑)
最近「そんな理由で事件を起こしたの?」と呆れるような悲しいようなニュースが結構ありますね。
本当はコメディにしたかったんですけど、いじめも秀ちゃんの行動もシャレにならない気がして。結果、中途半端なんですけどね(苦笑)

>草藍さん
コメントありがとうございます。
私の子供の頃の癖をもとに書いたのですが、草藍さんも同じ癖がおありでしたか。
私の場合はひんやり感ではなく、隣に誰かいるという安心感が欲しくて触っていたように思います。小学校高学年の頃には治っていましたね。でも、大人になった今、愛猫の耳をフニフニしてしまう……(苦笑)
秀ちゃん、勉強はできる子なんですけどね。知識を仕入れて爆弾まで作れる。なのにどこか欠けてて稚拙で……
家族の理解と弱さをさらけ出す勇気、そしてそれを受け止めてくれる友達が秀也には必要だったようです。

14/10/22 泡沫恋歌

光石 様、拝読いたしました。

思春期の男の子にはそういう癖は恥ずかしいと思います。
誰かにバレたら、死にたいくらいツライと思うけど・・・ちょっとやり過ぎちゃったのね。

うちの甥は小学校の低学年まで、キツネの襟まきがないと寝れない子でした。
どこに行くのでも、キツネの襟まきを持って出掛けてましたが、いつの間にか治ったみたい。

14/10/22 そらの珊瑚

光石さん、拝読いたしました。

耳たぶが彼にとっての「ライナスの毛布」だったのですね。
自分のではだめだってことが辛いですね。
傍から見ればそんなことって思うことでも
本人にしたら切実なことって、特に思春期はありそうです。
最後のおばあちゃんの心配のセリフ、そこ?って突っ込んでしまいました。

14/10/23 光石七

>泡沫恋歌さん
コメントありがとうございます。
元は私の子供の頃の癖ですが、これを男子高校生がやってたら恥ずかしいだろうなというところからできた話です。
秀ちゃん、バレたくない一心でとんでもないことをしでかしちゃいました。
子供の頃って心が落ち着くアイテムがそれぞれありますよね。ほとんどの人は成長する中で手放していくのでしょうが。

>そらの珊瑚さん
コメントありがとうございます。
まさに「ライナスの毛布」ですが、秀ちゃんは高校生になっても手放せなかったという……
思春期は特に感受性が強く繊細ですよね。些細なことで傷つき、悩む。でも、だからこそかけがえのない時期でもあり……
最後の実津の台詞にツッコんでくださり、うれしいです。私も書きながら自分でツッコミを入れましたので(苦笑) でも、孫の健康が第一なのですよ、実津にとっては。

14/10/23 黒糖ロール

ばあちゃんの隣で寝る高校生という冒頭部で、ぐいっとひきこまれました。
また、動機の奇っ怪さと事件の大きさのギャップが、この作品の肝なのかも、と。
おもしろかったです。

14/10/23 光石七

>黒糖ロールさん
コメントありがとうございます。
男子高校生がおばあちゃんの隣で……というのは、やはり「ん?」と思われるでしょうか。
私自身、進学で一人暮らしをするまで祖母の隣で寝ていました。まあ、女子ですし、耳を触る癖は小学生まででしたけど。
楽しんでいただけて、うれしいです。

14/10/26 シンオカコウ

作品を拝読致しました。
登場人物さんほどではありませんが、自分はちょっとしたときに耳を触る癖があり、
読みながらまさに耳に触れていたので若干ぎくっとしました。
少年の行動にはうなずけずとも動機に共感ができ、少年の祖母の心配で締められているラストに、作者さんの組み立ての技を見た気がします。

14/10/27 光石七

>シンオカコウさん
コメントありがとうございます。
ご自分の耳を触る分には、特に問題ないかと。
秀也の行動は突飛ですし、動機も見方によってはくだらないのですが、当人にとっては重大で切実であったことをわかってくださり、うれしいです。
過分なお褒めの言葉、恐縮です。

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