1. トップページ
  2. 宇宙人にされた男 1

yoshikiさん

面白い作品を知り、自分でも書いて見たくなって何年も経ちました。よろしくお願いします。 2010年 小説現代S&Sコーナーに初めて送った作品が掲載されました。作品名『幽霊の見える眼鏡』 とにかく面白いものが書いていけるといいなと思っています。 イラストはエアブラシと面相筆で昔描いたものです。

性別 男性
将来の夢 楽隠居
座右の銘 不可思議はつねに美しい、どのような不可思議も美しい、それどころか不可思議のほかに美しいものはない。アンドレブルトン

投稿済みの作品

0

宇宙人にされた男 1

14/10/12 コンテスト(テーマ):第四十一回【自由投稿スペース】 コメント:0件 yoshiki 閲覧数:813

この作品を評価する

 プロローグ

 変身! 俺の大好きな言葉だ。普段はか弱い男がこの言葉を唱えると超人に変身する。パワーと気力に溢れ、敢然と悪に挑戦しそれを倒す。寛大で慈悲に溢れ、周りからも慕われる絶大な人気者だ。○○ライダーとか、○○○○マンとかそういう変身ものが俺は子供の時から大好きだった。変身すればまったく別の自分に瞬時に変われる。それはまた肉体だけの変化を言うのではなく、心もまた変身するのだ。心はウキウキと前向きになり、人の明の部分だけが強調されて、時には悪人にさえ情をかけ、改心させ善人にしたりする。
 しかし変身後の彼らのやっていることは極めて残酷だ。相手をとことんやっつける。ある変身して巨大化したヒーローなどは、頭にあるカッターのような武器を相手の怪獣に投げつけ、大流血の果てに首をちょん切ったことがある。それを見た良識ある大人たちからあまりに残酷すぎると番組にクレームが殺到したらしい。人間の心の深部には恐ろしい怪物が居るのかも知れない。それが時として正義という名で正当化されると檻から出ていきなり暴れ回るのだ。

 ――やることもない雨の休日に俺はぼんやりとそんな事を考えていた。

 1

 俺の前にそいつはもの凄く不細工な顔で寝ていた。あんまり見ていると反吐が出そうだった。おまけに嫌な臭いが俺の鼻を刺激していた。腋臭の強い宇宙人だ。
「これが、宇宙人ですか?」
「そうよ」
 俺がきくと、禿げ爺… いや博士が頷いて見せた。俺の前にいる前田博士は生物学の権威で優秀な人物であるのにもかかわらず、なぜか「そうよ」とか「そうなのねえ」とか「あらいやん」とか実に変なおねえ言葉を使う癖があった。これで博士なのだから驚く。年配で頭が禿げ上がった親父博士だ。
「この宇宙人に俺はなるんですか?」
 俺はすっかりびびりまくり、神妙な顔をしてそう訊いた。
「その通りよ」
 博士が大きな声で答えて、にやけた顔をつくった。俺の前で寝ているのは、いや本当は死んでいるのは宇宙人なのだ。この宇宙人について説明をするのはむずかしい。いや容姿や形体を説明するのは比較的簡単かもしれないが、その説明をしているうちに、俺自身が気絶する恐れがあるという意味で難しいんだ。でも、ちょっとだけ宇宙人の説明をする。まず眼がでかい。透明なゴムまりを両目に押し込んだような感じだ。巨大な出目金である。鼻はない。失礼、ほんとはあるんだが顔の中央に穴が三個。それが鼻だ。口は……
「お、おおおおえーっ」(失礼。吐き気です)
 髪の毛? それもない。口はセミみたいだ。そう。昆虫の蝉だ。人間の顔で例えればちょうど口のあたりにチューブみたいな管が出ていてそれが下に折れている。なんというか蟹の腹みたいに顔の中央に管がうずまっているのだ。奇抜すぎるし、グロテスクだ。
 身体は青みがかった銀色の鱗で覆われている。えげつない。俺は逃げ出したい心境だったが今更そうもいかなかった。なぜって此処は自衛隊の秘密基地の中なのだ。
 なぜ俺が宇宙人になる羽目になったのかというと、色々と事情がある。まず俺が自衛隊に入隊したのがそもそも悪かった。幹部候補生として入隊したのならいざ知らず……。
 そもそも俺は高卒なので任期制の二等陸士として入隊した。いや入隊の仕方の問題じゃない。今思うと入隊した事自体が間違っていたんだ。俺は折角入った大手電機メーカーを上司とそりが合わなくてたったの二年で辞めた。そして若干二十歳の俺はハローワークに通いつつ、その壁に貼られた自衛官募集のポスターを見て、こういう手もあるかと思ったのが運のつきだった。そうだ。俺は小さい時から戦車に乗りたかったんだ。そんな衝動的な思いになぜか囚われてしまった。俺は早速家に帰りその事を家族に話した。
「いいんじゃない」
 母が軽く言った。高一の妹は
「にいちゃんかっこいい」
 と言った。親父は侍みたいに
「でかした」
 と言った。ばあちゃんはせんべいをかじりながら
「おやりな」
 と言った。家族全員が反対しなかった。親父が気持ちの悪いほど俺のそばに接近した。何を言い出すのかと思った。
「健二なあ。いいボーナスもらえるぞ」
 金かい、と俺は思った。親父は尚も、給料が全部預金できるだとか、三十代でマンションが買えるだとか、戦車に乗れるだとか、いい事ばかりを俺に言って聞かせたが大半は忘れた。俺の親父は自営業をしていた。だから給料とか賞与とか退職金とかに縁が無い。だからでかしたと言ったらしい。
 俺はちょっとだけ悲しかった。俺のメンタルの部分を誰も気づかってはくれないのかい、とそう思った。たとえばお前に出来るのかとか、身体がきついぞ。とか、お前の気持ちはどうなんだとか。そういうものを通り越しての『でかした』だった。
「お兄ちゃん公務員になれるの、よかったね」
 妹が言った。
「そうよ。不景気でも会社じゃないからつぶれない」
 母が百貨店の福引きにでも当たったような顔をした。親父は小さな町工場を経営している。螺子をつくる工場だ。ここのところめっきり受注が減って厳しいらしい。だから町工場を継ぐ気は俺にはまったくなかった。親父も自分の代で終わらせるつもりらしい。となると俺を頼りにしているのか。
「それでいつから行くんじゃい」
 と、ばあちゃんが訊いた。気が早い。俺はまだ決めたわけじゃなかった。しかし家族全員の自衛隊の勧めにあい なぜその前に学問を勧めなかった!? 俺は抵抗できなかった。
 もともと俺って主体性がちょっとだけない。親父がいきなり日本はもともと神の国である。とかなんとか語り始めた。「天皇陛下万歳!」取ってつけたような言い草だったが、なんだか知らないうちに俺はそういう気になっていた。俺は一次試験になんとか合格し、二次試験の体力測定にもぎりぎりで合格した。
 さあ、陸上自衛隊でお国の為に働くのだ。あの気力も今は懐かしい。勝つまでは戻りません。という意味不明な言葉を残して俺は家を出た。そして俺は丸坊主にされ、とにかく体育系の訓練に明け暮れた。すぐ辞めたくなったが、妹に弱虫と言われたくなかったし、二年間という事だったので辛かったが何とか我慢をした。いつしか俺の心身は人体改造されたみたいに強くなった。
 そして…… 運命の日が来た。
 
 2

 あれは入隊して一年半ぐらいした時だった。突然内田陸将から呼び出しがあり、俺はある駐屯地で自衛隊の幹部達と対面していた。
「飯塚健二君。君に折り入って頼みたいことがある」
 と内田陸将は俺に言った。俺はまた勲章でもくれるのかとポジティブに考えていたので、頼みときいてなんだろうと思った。他の幹部や防衛庁のお偉方までもが同席していた。
「国の為、世界の為に一肌脱いでくれるか」
 幹部の一人が言った。きたーっ。きたきたきたーっ。と俺は思った。なんかわからなたっけど、とにかくそう俺はそう思った。
「頼みとはなんでしょう」
 俺はわくわくしてそう訊いた。なんか俺も幹部になったような気さえしていた。極秘事項だから誰にも洩らさない。と確約させられた上、俺は宇宙人の事を知った。なんでも陸将の話によると、今から三ヶ月前に富士の樹海に小型宇宙船が墜落したと言うのだ。衰弱してはいるものの、つい先週までその宇宙人は生きていたという。しかし身体が衰弱してついに死んだらしい。宇宙人の目的は地球の偵察らしかった。かなり宇宙人は凶暴で戦闘的だったという。宇宙人は死ぬ間際に意味不明な言葉を残したそうだ。
 それで俺の任務と言うのがその宇宙人に化けて、敵の星の情報をつかむという途方もない話だった。俺は最初宇宙人に化けると言う意味がよくわからなかった。変装でもするのかと思ったがそうではなかった。よく訊くと時代の最先端の医療技術で俺を宇宙人に改造すると言うのだ。飯塚健二の意識は残したままで。俺は人間の心を持つ宇宙人として宇宙人のスパイになるらしいのだ。
 これは極めて重大な意義のある任務だと繰り返し内田陸将が俺を説得した。なぜ俺なのです? と訊くとなんでも俺の血液型と人体の素質が極めて宇宙人向きにできているらしいのだ。知らなかった。他の人間では宇宙人の血を輸血したと同時に死んでしまうと言うのだ。本当かいな? なんか怪しい。
 勿論俺には荷が重過ぎると思ったので辞退するつもりだった。でも内田陸将は卑劣にも俺の家族を既に巻き込んでいたのだ。
「ご家族の方には喜んで承諾していただいた」内田陸将がそう言った。
(ええっーっ!うっそー)俺はそう言いそうになったが堪えた。
(まずいっしょ。危険でしょ、それ 俺は心の中でそう繰り返していた。
「任務を無事遂行した暁には君を将校にまで昇格させてあげよう」
 笑いながらも眼は真剣で、内田陸将がそう言った。俺は即答しなかった。家族とよく相談したいとそこは曖昧に済ませた。
 俺は時間を貰って家に帰った。玄関を開けると母がもの凄く明るい顔で俺を出迎えてくれた。親父はいつも不機嫌な顔をしているはずなのに薄気味悪いほどの笑い顔だった。妹はデート中だった。
「健二。でかした」
 親父が開口一番そういった。夕方だったので既に食事の用意がしてあった。家族との食事は久しぶりだった。それにしても豪勢な夕食だった。家でこんなもの食べるのは初めてだった。寿司とステーキが同時に出てきた。なんか妙な感覚だった。
「ご苦労様でしたねえ。良かったわねえ」
 母が言った。ご苦労様はわかるけど良かったねえってどういう意味? 俺は思った。
「健二。この前、自衛隊の人が家まで来てくれたぞ。おまえやるな」
 親父が言った。
「優秀な自衛隊員ですよって。お前のことを言ってたわよ」
 母が嬉しそうに言った。優秀もなにも内田陸将に俺はこの前初めて会ったんだ。
「健二、それでどんな任務なんだ」
 親父が確信をつく質問をいきなりしたが本当のことは言えない。家族と言えども国家機密を洩らすわけには行かなかった。
「どんな任務って、なんにもきいてないの?」
 俺は逆に親父に訊いた。
「なんでも海外勤務だとか聞いたぞ」
 でたらめ言いやがってと俺は思った。親父が酒を飲み始めて俺にも勧めてきた。
「健二、お前逞しくなったな。俺に似て男前になったぞ」
 親父が言った。俺は自分が凄く苦しい立場にあることが段々わかってきた。家族に相談といったって、宇宙人になって敵の星まで行くって言えないじゃん(横浜弁)。
「いつから行くの? 行く前に二週間も有給を楽しめるそうじゃないか。それに前金で特別賞与が出るんだってねえ」
 母が言った。金か……。 俺の家族は金にめっぽう弱い。
「いくらくれるって?」
 俺は他人事みたいに母に訊いていた。
「結構な金額だろう。健二」
 なんかはぐらかされた。
「健二。よくやった」
 酒を飲んでいた親父が急に泣き笑いの妙な顔になったので俺は驚いた。
「健二。この町工場維持していくのに父さん。借金したんだ。銀行が金貸さないから、結構高利なところから回転資金を借りたんだよ」
 母が親父を見ながらそう言った。親父は俯いていた。
「えーっ。そんなに借金したの」
 俺がいない間に螺子工場は大変な事になっていたのだ。
「健二。お前は心配しなくていい」
 親父が言った。心配なんかするもんか。俺には関係ない事だと思った。
「健二」
 親父が真剣に俺の顔を見つめた。
「健二。お前の上官が世界の為の任務だと言ったぞ」
「……」  親父が泣きそうな顔をした。
「俺はうれしいぞ。健二。おまえ成長したんだなあ。俺は鼻が高い」
 親父がついに泣き出していた。親父のこんな顔を見るのは始めてかも知れなかった。そこに妹が帰ってきた。高校三年生だ。めっきり色っぽくなっていたので俺は驚いた。あの頃から妹は毎月彼氏を変えていたから、今じゃ女の風格まで出てきたじゃないか。なんか食事がまずくなった。結局俺の家族は金の為に内容もわからないまま俺の任務を承諾してしまったんだ。なんという家族だ。金の亡者め。俺はそう思った。
「でも俺は気が進まないんだ」
「えっ、まさかおまえ断るつもりかい」
 母が言った。
「危険が伴うかもしれない」
「かっこいい。兄ちゃん国のために命を賭けるの」
 俺が真剣に言ったが妹が能天気な言葉を吐いた。
「ばか。こっちは大変なんだぞ」
 妹は俺の言う事など気にせず寿司をつまみ食いした。
「健二。やる気がないんなら止めればいいじゃないか」
 予想外の言葉が泣き止んだ親父の口から出た。同時に咳き込んだ。

 3

 俺はその夜久しぶりに家の二階の自分の部屋で寝た。自衛隊に入隊したのと、俺の任務が夢みたいで嘘のように思えた。しかし家族の顔を見て俺はなんか安心した。いろんな考えがとりとめもなく俺の脳裏に浮かんできた。
 宇宙人が地球を征服すると言ったと、内田陸将は俺に言ったけど、いったい何語でそういったんだろう。宇宙人って日本語が喋れるの? そんなばかな。 英語? それとも宇宙語? なんだかわけわかんないじゃ……。
 今度内田陸将に会ったら訊いてみるしかなさそうだ。そんなことを思ううち、なぜか昔のことが思い出されてきた。小学生の時自転車を買ってと母にせがむと買えませんと言いつつ、翌日俺が学校から帰ると新品の自転車が俺の部屋に置いてあった事。俺が始めて就職した時、生まれて始めて正式に給料というものを貰った時、いつも怒ってばかりいる親父が
「おまえも一人前に稼げるようになったか」
 そういって俺の肩を軽くたたいてくれて、自分のことのように喜んでくれた事。あの時は俺は心底嬉しかったんだ。なぜかそんな事が思い出された。本当は俺は最初から任務をやる気でいた。なんでだか実は俺にもよく分からない。どちらかというと臆病な俺がなぜかやる気だった。たまらなく将校になりたかった訳でも無い。金が凄く欲しかった訳でもない。
 なのに……。もしかして家族の為……。わからない。
 
 翌日俺は亜紀子に会いに行った。俺は亜紀子と言う女性と二年ぐらい付き合っていた。俺が電機メーカーにいた時、受付をしていた何処にでもいそうなタイプの女性だ。彼女も電機メーカーを辞め、今はデパートの婦人服売り場で販売員をしていた。
 なぜか俺たちはカラオケ好きデートでカラオケ店に入り浸っていたことがある。自衛隊に入ってから毎週会えなくなったがメールの交換だけは頻繁にしていた。
 近所のファミレスで彼女と会った。彼女は綺麗だった。おめかしをしていた。化粧の仕方も上手くなったように俺は感じた。
「暫らく見ないうちに逞しくなったねえ」
 と彼女が言った。
「そうかい」
 なんて言いながら俺は任務の話を彼女に切り出した。だいたいの話を聞くと彼女は嬉しそうな顔をした。
「凄いじゃない」
 と彼女が言った。任務の内容は海外遠征としか言わなかったから。特別ボーナスが出るとか、昇格するとかいいことばかり俺は言った。実はなんとなく彼女との仲が怪しくなっていたから、俺は見栄を張ったのかもしれない。俺の弱さが出たのかもしれない。心にはその言葉と裏腹に妙な寂しさだけが残っていた。
 実は……。と切り出せたらどんなに楽だったろう。しかし本当のことは言えなかったし、言うわけにはいかなかった。
「当分会えないから」
 俺は言った。
「向こうで写真をとって手紙と一緒に送って」
 と彼女が言った。
「ああ」
 と俺は答えたが心の中じゃ、むりだと思った。宇宙人の写真を送ったら任務がばれちゃうし、辛いところだった。だいたい宇宙から写真送れるの?
 夕方になり、夜になった。恐ろしく長い時間俺たちはファミレスにいた。ファミレスから出て俺は彼女をホテルに誘った。
「だめ。ごめんね。今日は生理なの」
 と彼女が言った……。


 4

「この宇宙人に俺はなるんですか? 元に戻れるんでしょうね」
 俺は血の気の引いた顔で博士にそう聞いた。
「契約書には、身体を元に戻す事とする)という一文があったでしょ」
 そう博士が言った。そうじゃなくて俺の知りたいのは技術的に元に戻れますか。ということだったが、博士はまるでひとごとのような返答をした。だが博士からすれば確かにひとごとだ。
「君の名は歴史に残るかもね」
 博士が俺を見てウインクした。だけじゃなく舌も出した。どういう意味なんだ。理解に苦しむ。胃が痛い。 ――閃いた。この人はきっとアインシュタインの真似をしたんだ。寒気がした。俺は歴史になんか名を残したくなかった。早く家に帰りたい心境だった。ここの場所と状況を説明しよう。ここは地下だ。ここは富士中腹から地下300メートルの場所だ。国防省の秘密基地みたいな施設の中に俺は今いる。こんなところに大規模な施設があるなんて本当に驚く。まるでナサ(NASA)みたいだ。
 現にここには白人が大勢いる。ここは確かに日本の自衛隊の基地なのだが、NASAが加担しているのか、NASAに日本が加担しているのか、その辺の事情は俺にもよくわからなかった。 俺の前には大きな手術台が二台並んでいた。その一つにゲテモノが寝ている。もう死んでいるが。そしてもう一つの手術台に俺が寝る事になるんだ。俺はあの本郷剛みたいに人体改造されるのか。と、突然俺の頭にアイデアがひらめいた。
「博士名案が浮かびました。この宇宙人の精巧な着ぐるみをつくり、それを着て宇宙人になりすますと言うのはどうでしょう?」
 俺は極上の笑みを湛えて博士にそう提案した。返事がなかった。俺はシカトされたらしい。俺の周りには博士と白衣にマスクをし、手術用のゴム手袋をはめた連中が数人いた。そして透明なスクリーンが壁半分に張ってあり、その向こうに自衛隊の幹部のお歴々が俺たちを見ていた。その中に内田陸将の顔もあった。
「さあ用意は出来ているんだ。優秀な外科医が揃っている、心配はいらないかも」
 かも? なんで、かもなんだ。はったりでもいいから「いらない」と言い切ってほしかった。油断をした瞬間、俺の腕を注射針が襲った。さほど痛くは無かったが、まもなく頭がぼーっとしてきた。
 さよなら……。 俺は心の中でそう呟いていた。それは自分自身へのお別れの言葉だった。

 俺は静かに眼を開けた。頭が痛かった。頭だけじゃなく身体の節々が痛かった。長い間寝ていたのかもしれない。学校へ行かなきゃと思った。寝ぼけていた。俺の視線のさきに禿げがいた。周りにも医者みたいな助手みたいな奴がいた。
「気分はどうかいな」
 俺を見下ろして禿げ博士が言った。思い出した。前田博士だ。
「頭が痛いです」
 俺はそう言ったつもりだった。でも口が思うように動かなかった。まるで口の中にセメントでも入れられて固められたような感覚があった。なにか口に違和感があった。次第に俺は今までの俺がどう状況下にいたのかが解ってきた。そうだ。俺は宇宙人に改造されかけていたのだ。ショックで心臓がズキンとした。
 俺は立ち上がろうとした。妙な感触だった。手足の感覚が麻痺でもしてしまったような気分だ。とにかく必死で俺は立ち上がった。周りの白衣の連中が驚いて俺の周りに集まってきた。好奇心丸出しの顔で俺を観察している。俺は動物園の熊じゃないぞ。俺はそう言いたかった。嫌な予感がした。不気味な予感といってもいい。俺はふらつきながらも立ち上がった。そして大きな鏡の前に立った。
 ――夢かと思った。死ぬかと思った。まさかと思った。目が変なんだと思った。拗ねてやると思った。はっきり言って俺は気絶寸前だった。
 そこにはあの出目金宇宙人が立っていた。一瞬着ぐるみかと思って背中にジッパーを探したがどこにもそれらしいものは無かった。ジョークでもギャグでも悪ふざけでもなかった。誰一人「ドッキリです」とは言ってくれなかった。
「完璧だねさ」
 博士がそう言うと周りの連中が嬉しそうに目を細めて、また俺に注目した。俺はなんだか悲しくなった。俺は化け物にされたと思った。悲しさが怒りに変わってきた。俺は壁を叩き手術台を蹴った。俺の手の指は四本だった。親指が二本に、人さし指と中指一本づつの計四本だ。身長は160センチ位だろう。傴僂(せむし)のように背骨が曲がり、腕は細く床に付くほど長い。脚は頑丈で昆虫みたいだった。
 俺はまじまじと手術台の上の宇宙人をみた。俺はそいつだった。そいつそっくりの化け物だった。心が痛かった。剣で心臓を突かれたような心持ちだ。理屈で割り切れる気持ちなんかじゃなかった。
「飯塚君。わしがわかるかいな?」
 前田博士が言った。その言葉は俺の耳でなく、こころにダイレクトに伝わってきた。俺には耳がないらしい。テレパシーだった。意識から意識への無線の通信だ。
「わかりますよ。博士」
 俺が心の中でそう言うと前田博士が頷いた。テレパシーが通じたのだ。俺は頭の中が混乱してパニックでも起こしかけたが、なんとか自分を抑えた。大きく息を吸い込む。宇宙人の肺は大きい。いくらでも空気を吸える気がした。あんまり吸い込んだらかえって気分が悪くなった。
 この俺はああ、とんでもない事になった。

                        つづく


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン
アドセンス