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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが最近になって、やっぱり小説家の夢を追い求めたい自分がいることに気づきました。久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説を書いてます。http://www.potetoykk.com

性別 男性
将来の夢 太宰治賞もしくは北日本文学賞で最終選考に残ることです。
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暗い海底で貝のように生きる

14/10/07 コンテスト(テーマ):第六十八回 時空モノガタリ文学賞【猛スピードで】 コメント:2件 ポテトチップス 閲覧数:1160

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「チクショ、やっちまった!」
顔を横に向けると横断歩道の青信号が、ちょうど点滅を始めたところだった。
前方10メートル程先に横たわる男の姿。
俺は車から降りようとして止めた。深夜11時の時間帯のおかげで人影はない。それに田園風景ばかりで民家もない。
俺は、先月に納車したばかりのトヨタ ランドクルーザーのギアをドライブに入れ、急発進で横たわる男の横をすり抜けた。
心臓が高鳴っていた。轢いてしまった男に生きていてくれと心の中で念じながらも、スピードをどんどん加速していった。
「なんで、あんな時間に歩いてるんだよ!」男の安否を気遣う気持ちから、しだいにあんな夜更けにあんな所を歩いていた男に対しての怒りが、沸々と心の底から湧いてきた。
「アイツが悪いんだよ。そうだアイツが悪いんだ」車内で独り呟きながら、なおもアクセルを強く踏み続けた。スピードメーターの針は130キロを超えていた。
顔を上に向けた瞬間『やばい!』と思った。
赤い光が一瞬発光した。いつもならスピードに気をつけながら通る場所なのに、冷静さを失っていた。まさかオービスに感知されてしまうとは……。
「チクショ、なんて日だ! ついてねーよ」
俺は抑えられない怒りを感じながら、右前方に現れたコンビニの駐車場にランドクルーザーを停めた。俺の他には、黒の軽自動車が一台だけ停まっていた。
車内でタバコに火を点け吸った。いつもなら旨いと思えるタバコが苦く感じ、タバコを窓から駐車場に火が点いたまま放り投げた。
「そうだ、東京に逃げて人混みに紛れれば、警察の手から逃れられるかもしれない」そう呟き、エンジンをかけようとキーに触れ、まてよと考えた。
「この車はオービスで撮影されている……」横の軽自動車に人は乗っていなかった。まだコンビニの店内にいるのだろう。俺は、ランドクルーザーの運転席から降り、素早く軽自動車の運転席ドアまで行き手をかけると、ドアが開いた。それにキーがつけっぱなしだった。
狭い車内でエンジンをかけ、急いでコンビニの駐車場を出た。スピードの加速の悪い軽自動車に苛立ちながら、スピードを80キロまで上げで走行した。俺は酷く喉が渇いていた。自販機が道路脇にないか探しながら運転したが、いっこうに見当たらない。
前方に赤い赤色灯が見えた。「やばっ!」俺は焦った。
ここでUターンしたら怪しまれると思い、素知らぬ顔で行くことに決めた。
『検問』と書かれた看板の後ろに、警察車両が4台と複数の警察官が道に立って検問をしていた。
「ごめんなさい、検問をやってます」
「はい、何でしょうか?」
「ここから10キロ程後方で、死亡ひき逃げ事件が先ほど発生しました。車に衝突跡が無いかの確認と免許書を拝見させてもらえますか?」
一人の警察官が免許書の住所などを用紙に記入している間、別の3人の警察官が車体をライトで照らしながら隅々まで確認していた。
「ご協力、ありがとうございました」
俺は車のアクセルをゆっくりと踏み出し、この場を離れた。
八戸ICから八戸自動車道にのり、さらにそこから東北自動車道で東京を目指した。
長者原サービスエリアで軽自動車を乗り捨て、無人の鍵がつけっぱなしの車に乗り換えて先を急いだ。
「警察の目をくらますには、電車も使おう」高速道路をスピードを上げ走行しながら思いつき、仙台宮城ICで降りると、少し行ったところの小川の近くに車を乗り捨て、歩いて仙台駅に向かった。途中、タクシーが通りかかり乗車した。
「お客さん、こんな早朝にこんな場所を歩いていて、何か用でもあったんですか?」タクシー運転手の質問に無言でいると、運転手はそれから一言も発しなくなった。
仙台駅につき、そこから始発の東北新幹線マックス200に乗車した。
俺はウトウトし始め、長い緊張感から一時の間、解放された。
午前7時20分に東京駅に到着した。
そこから山の手線で新宿駅に着いた。ものすごい人の数だ。これなら雲隠れできると安堵した。
人生で初めて降り立った東京の地は、まさか警察の手から逃れるための場所になるとは、昨日までの自分には想像もできなかった。
これからの俺の人生は、この東京の人がごった返す地で密かに名前と年齢を変えて生きることになる。
死亡ひき逃げ事件を起こしたのは悔やまれるが、もう吹っ切ろうと思った。
「いいや別に」施設で育った親兄弟のいない俺は、身軽でよかったと今になって有難く思った。
『斎藤要』という名を捨て、学生時代に読みふけった聖闘士聖矢から名を拝借して『望月聖矢』にしようと決めた。
とりあえず、腹が減ったから牛丼屋に入った。
財布の中には10万円が入っていた。銀行で金を引き出したら足が付くだろうと思い、銀行の金は諦めようと決めた。
「すぐにでも仕事を探すか。それにしても、疲れた……」


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このストーリーに関するコメント

14/10/08 あいっち

ひき逃げだめ、絶対。

14/10/08 ポテトチップス

あいっち様へ

コメントありがとうございます。
車を運転する人なら、誰もが加害者になる可能性はありますよね。

私の職業はトラックドライバーですが、自分が安全運転をしていても、他の運転手の荒い運転や歩行者の信号無視によって、ヒヤリとすることがよくあります。

作中の登場人物である斎藤要(望月聖矢)には、自首してもらいたいと思ってしまいます。
一生、罪を隠して生きることは、重い石を引きずって歩くようなものではないでしょうか。

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