1. トップページ
  2. かかあ天下

ポテトチップスさん

ブログで小説プロットを公開しております。 http://www.potetoykk.com

性別 男性
将来の夢 小説家や小説家の卵に、小説のプロットを提供することです。
座右の銘 我流の人生

投稿済みの作品

0

かかあ天下

14/09/23 コンテスト(テーマ):第六十七回 時空モノガタリ文学賞【 秘密 】  コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:771

この作品を評価する

時計の針が深夜0時を少し過ぎた。玄関のチャイムが鳴り、恭子はいつものようにドアを開けて主人である武彦を迎えた。
「おかえりなさい」
「ただいま」
洗面所で手を洗い終えた武彦がキッチンのテーブルの椅子に座ると同時に、いつもと同じように冷やした瓶ビールとグラスを武彦が座るテーブルの前に置いた。
冷やした瓶ビールを美味そうに喉に流し込み、空のグラスをテーブルに置くと、すかさず恭子は手料理を武彦の前に準備した。
「おう、サンマの塩焼きか。旨そうだな。どこでサンマを買ったんだ?」
「丸徳スーパーで買ってきました。産地直送の根室のサンマです」
「根室のサンマは最高級だから、いい値段しただろう」
「一尾、500円でした。私は先に夕飯で食しました。美味しかったです」
東京の田園調布に店がある丸徳スーパーは、セレブが食材をそろえる高級スーパーで、同じ田園調布に家を構える桑田家にとって、毎日食材を買いに行くスーパーだった。
「あなた、今日は給料日ですよね。今月分の生活費を頂けますか?」
「おう」武彦は隣の椅子の上に置いていた茶封筒を恭子に渡した。
「今月も生活費として50万円渡しておく。余ったら好きな物を買いなさい」
「いつもお仕事ご苦労様です」
一流大学を卒業した武彦は、大手電機メーカーに今から33年前に就職した。現在は人事部の管理職として部長を任され、年収は2000万円以上を稼いでいたが、結婚当初から武彦が家計の財布の紐を握っていた。
妻の恭子に渡す毎月の50万円は、食費と光熱費それに恭子が自由に使ってよいお金として渡されていた。

翌日、朝の7時にいつものように武彦は玄関を開けて会社に出勤した。
恭子は掃除、洗濯をこなし昼前に久しぶりに友人の竹内緑里とイタリアンレストランにランチを食べに出かけた。
竹内緑里とテーブルで向かい合うようにして座りながら、店のおススメである明太子パスタとシーザーサラダのセットを食べた。
食後、コーヒーを啜りながら緑里が言った。
「旦那さん、昨日は会社お休みだったの?」
「昨日は仕事に出かけたわよ」
「あっ、そう……」緑里は店の天井に目を向けながら「ふーん」と言った。
「どうして?」
「昨日の昼過ぎ、ジムの帰りに桑田さんの旦那さんを蒲田駅前で見かけたの」
「電車に乗るつもりだったのかしら?」
「うんん、駅前のベンチに考え事してるような表情でずっと座ってたわ。挨拶しようかと思ったんだけど、考え事の邪魔しちゃ悪いと思って声をかけなかった」
恭子は「仕事で蒲田駅前にいたのかしら……」と、自分に問いかけるようにつぶやいた。
「私、桑田さんの旦那さんを蒲田駅前のベンチで見かけたの一回だけじゃないの。私って、火曜日と金曜日がジムに通ってる日なんだけど、半年前から毎回、旦那さんを見かけるのよね」
竹内緑里と別れ自宅に帰り着くと、今日もポストに住宅ローン会社からのハガキが届いていた。このハガキが届くようになったのは6ヶ月前からで、武彦に中を見ずに渡すと、そのまま自分の書斎にいつも持って行ってしまうのであった。
恭子は武彦に怒られると思ったが、不意にハガキの中を開いて見てみようと思った。
中を開くと、支払の督促状だった。もう6カ月分が滞納していた。
血の気が一気に引き、その場にしゃがみこんだ。しばらくして気分が落ち着くと、蒲田駅に行ってみようと思った。
タクシーで行こうかと思ったが、なんとなく電車で向かった。蒲田駅の出口改札を抜け、旦那がいないことを願いながら駅前広場に顔を動かすと、丸まった武彦の角ばった背中が見えた。
「あなた……」後ろから声をかけた。
結婚して29年間、一度も見たことがない旦那の生気のない顔が恭子に向けられた。
「オマエ……」すぐにいつもの亭主関白の武彦の顔に戻った。
「あなた、仕事辞められたんですか?」
「いや……、仕事の用事で蒲田に来ていたんだ。これから会社に戻るところだ」
「あなた、嘘は止めてください」恭子の頬を涙がつたった。「住宅ローンの督促状が届いていました」
武彦は顔を歪めながら地面に顔を向け「リストラだよ。人事部の部長として使えない社員をリストラする立場だった俺が、逆に会社からリストラされてしまった。きっと、俺がリストラした元社員は、今ごろ、腹を抱えて笑ってるだろうな」
「あなた、次の仕事を探せばいいじゃないですか」
「もう40社近く面接を受けたが、すべて不採用だよ。俺は無能な人間だったことを、55歳になって今ごろようやく思いしった。もう、オマエに毎月の生活費として50万円は渡せないし、家も売却するしかない」
「第二の人生を、小さなアパートからやり直しましょう。今度は亭主関白ではなくて、かかあ天下がいいです。私が家計の財布を握りますから、いいですね」
武彦は声を殺して泣きながら、大きく頷いていた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン