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黒糖ロールさん

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性別 男性
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ひいらぎさん(とゲームセンター)

14/09/23 コンテスト(テーマ):第六十六回 時空モノガタリ文学賞【 舞い降りたものは 】 コメント:11件 黒糖ロール 閲覧数:866

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 古本屋で暇を潰していたところ、柊さんに出くわした。彼の服装はいつもと同じ、白ポロシャツにジーンズだった。
 しばらく雑談した後、つきあってくださいと誘われ、昼飯をごちそうしてくれるのか、と淡い期待を胸についていくと、商店街の寂れたゲームセンターに着いていた。客はほとんどいない。薄暗い店内に、レトロなものから新しいものまで、所狭しと筐体が並んでいる。
 柊さんは先ほどから、熱心に「飲兵衛ダーゲーム」をプレイしていた。昔流行ったシューティングゲームだ。
 画面上方から酔っぱらいが近づいてくる。プレイヤーはOLとなって、ビール瓶の形状をした弾を酔っぱらいに撃ちこむ。酔っぱらいはビール瓶にあたると、酔い潰れて画面から消える。
「しまった」
 柊さんの言葉ともに、『イヤーン』というOLの悲鳴らしき電子音の声がした。OLが酔っぱらいに接触されたらアウトである。わかりやすい。
「これ、よくフェミニストが騒ぎませんでしたね」
 まっとうな疑問を僕が口にすると、
「なぜかこのゲームはセーフでした」
 柊さんはなぜか得意気にそう言った。
 塗装の剥がれたアーケード機を前に、僕はこれからどうしようと考えた。帰ってカップラーメンでも食べるか、そう決めたときだった。
「あ、またあのおっさんいる。キモキニナル―」
「チョーウケル。ほんとキモキニナルー」
 女子高生たちが、柊さんを指さして笑っている。馬鹿にされた当の本人は、なぜか微笑みを浮かべていた。理解不能である。
 最近の若者は、哲学、中国の歴史、さまざまなものに興味があって感心ですね、としきりに柊さんがうなずいている。
「え、どういうことですか」
「木も木になる。……なんと哲学的な言葉でしょうか」
 ああ。それたぶん、「キモい、気になる」の略だと思います。
「ただ、三国志の趙雲は槍の使い手だったような。趙雲蹴る、とはまたなんぞや」
 もういいや、と僕が投げ出すような気持ちで天井を見上げたら、良い香りが鼻のあたりをかすめ、背後から声がした。
「柊さん、来てたの。いつもありがとう」
 振り返ると美人がいた。そう表現する他ない、紛うことなき美人だった。おそらく三十代だろう。店内の抑えた照明を受けた、端正な顔立ちと肩までの黒髪に目を奪われてしまう。
 聡美さんこんにちは、という柊さんのかしこまった声色を聞いて、吹き出しそうになった。女性は聡美さんというらしい。服装を見ると、ここの店員なのだろう。
「また飲兵衛ダー? 好きねほんと」
 お酒弱いくせに、と聡美さん。はは、そうですね、と柊さん。年上同士の親しげなやりとりの外で、僕は所在なげに店内を見回した。
「この方は?」
 来るだろうと待ち構えていた聡美さんの質問に、僕は即答した。
「ただの知り合いです」「あ、同志です」
 僕と柊さんの言葉が、ほぼ同時に聡美さんに届いたのだろう。きょとんと聡美さんはしている。
 僕の回答を押しのけるように、柊さんは一気に説明を始めた。止める間もなく、結局、僕と柊さんは詩人同士ということになった。訂正するのも面倒だった。詩人って素敵ね、という聡美さんの言葉が面映い。
「私もね、短歌をときどき詠むの」
 もしやこの人も変人……。
 僕の向ける疑いの眼差しをどう解釈したのか、聡美さんが言った。
「そうだ。これから皆で一首ずつ短歌を詠みましょう」
 絶対に嫌だ、という僕の叫びは年上二人に無視されて、暗いゲームセンターのなかで、なぜか短歌を作るはめになった。



「はい、舞い降りました」
 そう高らかに宣言した後、聡美さんは自作を披露した。

 電子音うずまく仮想の世界とて握る手の汗現(うつつ)なるかな

 いいですね、と柊さんがもっともらしい表情で言った。
 この状況が滑稽で仕方なかった。ゲームのBGMやエフェクト音がうるさいなか、いい大人三人が密になって短歌を作っている。
「はい、舞い降りました」
 今度は柊さんが元気よく手をあげた。
 舞い降りましたというセリフが、どうやら大喜利でいうところの挙手にあたるらしい。

 彩りの画面の背後の暗中のかの人の香りに吸い込まれゆく

 柊さんの短歌は、完全に聡美さんを口説く内容だった。詠みながら、視線を彼女に固定しているのが何よりの証拠だ。聡美さんもまんざらではないのか、しばらく柊さんの視線を受け止めた後、恥じらうように顔を背けた。
 なんなんだこの二人。
「舞い降りました?」
「舞い降りました?」
 先ほどと打って変わり、息を合わせて迫ってくる二人から逃げるように、僕は頭をひねった。
 なんとか言葉を紡ぎだす。

 秋風の吹きこむ店内落つ言葉拾い集める私なりけり

 僕としては、満足のいく出来栄えとなった。


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このストーリーに関するコメント

14/09/23 夏日 純希

柊さん再びですね。ねずっちの「整いました」的な、「舞い降りました」ですか。
大の大人が、ゲーセンで何を言っとるんですか(笑)
想像すると面白かったです。

14/09/23 草愛やし美

黒糖ロールさん、拝読しました。

おおおお、うううう、思わず叫んで唸ってしまいました。苦笑 どう表現していいやら、この面白さ。それこそ、「チョーウケー」です。私の場合蹴らずに毛です。意味不 

「飲兵衛ダーゲーム」OLさんの出るこのゲームを強く発売希望します。面白そう、やりたいやりたい、チョーヤリーです。はい、長い槍でお願いします。ああ、これも意味不か。

あまりに受けまくる再々登場の柊さんの作品に笑いが抑えられず、お腹が痛いです。滅茶苦茶面白かったです。

「舞い降りました」私的に流行らせようかしら。爆 変なコメントになってしまい申し訳ありません。大汗 冷や汗 タラリー

14/09/23 黒糖ロール

夏日 純希さん

柊さんの話は、くだらないことを大人が真剣にしてるものになりそうです(汗)
そいえば、めずっちみたいといわれれば、そうですね(笑)
変な人たちを書くのは楽しいです、はい。


草藍さん

飲兵衛ダーゲーム、僕もあったらしてみたいです(笑)
コメディ全開は今回だけかもしれませんが、楽しんでいただけたようで嬉しいですっ。お言葉ありがたいです。
舞い降りました、と私も書いて、テーマもへったくれもないなと思いましたが、まあ、いいかなと(笑)
いちおう、言葉が舞い降りた、ということで…。

14/09/24 泡沫恋歌

黒糖ロール 様、拝読しました。

なんだか、レトロな雰囲気のゲームセンターで短歌を詠むという、非日常的な情景が
面白いです。

ひいらぎさんという印象的なキャラのゲーセン以外での生活もっと観てみたい。

短歌、上手いですね。

14/09/25 黒糖ロール

泡沫恋歌様

短歌に注目していただけるとは思ってもみませんでした(笑) 面映いです…。
また柊さんのシーンがぽわんと浮かびましたら書きますので、よろしくおねがいします。


14/09/27 そらの珊瑚

黒糖ロールさん、拝読しました。

やっぱりひいらぎさんっていいキャラクターですね。
読み終わると温かい気持ちになります。
言葉が舞い降りるなんて実はタダ者じゃないのでは?
僕の短歌もなかなかじゃないですか。
インベーダーゲーム、懐かしいです(年バレますね)

14/09/29 黒糖ロール

そらの珊瑚さん

楽しんでいただけたようで嬉しいです。
ひいらぎさんの潜在能力に期待したいところです…。
短歌を嗜まれているお方に、なかなかと言われるなんて(ぽ)。
初期のゲームといえばインベーダーですよねー。

14/10/05 suggino

「舞い降りました」笑
柊さんさいこうです!すっかりファンになっちゃいました。そして短歌、すごい!好きだけど才能がないので読む専門のわたしです。
ひじょうに面白かったです。

14/10/06 黒糖ロール

sugginoさん

気に入っていただけたようで嬉しさ半分、胸をなでおろす半分です(笑)
短歌ほめられるとは思ってなくて照れちゃいますね(汗)
sugginoさんも気が向いたら、短歌ぜひ:-)

14/10/06 光石七

拝読しました。
今作で柊さんの魅力にどハマりしそうです。
ゲーセンでいい大人が短歌、なんとも言えない光景ですが、三首ともすごく上手で、黒糖ロールさんの歌才に拍手です。
楽しませていただきました。

14/10/07 黒糖ロール

光石七さん

楽しんでいただけたら書いた甲斐がありますっ。
短歌お褒めいただいて冷や汗ものです(汗)
ありがとうございます。

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