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清野さん

 この場をお借りして、文体や展開の鍛錬ができたらな、と思っています。よろしければ矛盾や改善点等ご指摘いただけますと嬉しいです。また、一読者としても皆様の作品を拝読し、コメントを残すこともあるかと思いますので、よろしくお願いいたします。

性別
将来の夢
座右の銘 人間は書物のみでは悪魔に、労働のみでは獣になる。

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ガーディアン・アルゴリズム

14/09/18 コンテスト(テーマ):第六十五回 時空モノガタリ文学賞【 守る 】  コメント:2件 清野 閲覧数:740

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 おい、と見知らぬ男が隣に座る。俺は珈琲のマグを慎重に傾け、控えめに啜った。目の前の窓ガラスをじっと見つめるが、そこに映る顔には見覚えがない。
「人違いだ」
「いや」
 男が身を乗り出した。無精髭の目立つ、粗野な風貌だった。立ち去ろうとした俺の肩を、男は無遠慮に掴んで囁いた。
「おまえ、守護者に見張られているぞ」
 俺は冷ややかに告げた。
「今どき見張られていない人間がいるとしたら、そいつは無登録者だ。俺が監視されているのは、俺がちゃんと生きてるってことだ」
 我ながら鳥肌の立つようなセリフだ。男は目を細めた。
「本当はわかっているはずだ。うまく立ち回らないと施設送りになる。そうなる前に、俺たちの仲間にならないか、同志よ」
「寄るな、不審者」
 同志だと? 不快感を隠さず声音に乗せ、俺は今度こそ店を後にした。
 男は追ってこないようだ。通りでは無数の監視カメラが市民生活を見守っている。おいそれと出歩けないのなら、後ろ暗い男に違いない。
 俺は少し歩調を緩め、男の忠告と勧誘について考えた。心当たりがありすぎる。
 なんといってもこの社会は不気味すぎた。電子データなしには、物を買うことも、公共施設を利用することも、学校に通うこともできない。その上、データバンクに蓄積された生活パターンから、ネットワークに繋がるたびに「おススメのなんとか」を押しつけてくる。おススメのニュース、おススメの本、おススメのレストラン、おススメの仕事、おススメ、おススメ、おススメ。俺はおススメのつがいから産まれた、おススメのガキかもしれない。
 気持ち悪いと周囲に漏らせば、親ですらガーディアン・システムにどっぷり浸かった世代の友人たちは、そろって不思議な顔をする。
「だってコンピューターじゃん」
 アホか、機械だから気味悪いんじゃねぇか。
 羞恥心の問題ではない。心理的パーソナル・エリアの問題だ。独立自尊の精神だ。しかし、大学の教授ですらこう言った。――「きみはセンシティブな男だね。憂うのではない、うまく利用することが、高等教育を受けた人間のすることだ」と。
 実際、システムは便利だった。とりわけレポートを書くときには。評価の高い関連書籍をぽんと用意してくれる、優秀な助手だ。旅行の計画だって、こっちの好みを熟知した助手が、人間には到底できないような演算を一瞬で終わらせて、最高のプランを提示してくれる。
 犯罪も減った。自殺者も減った。失業者も減ったが、人口も減った。システムが導入されて半世紀、これが国家の生産力に見合った人口計画なのだとしても不思議はない。
 馬鹿正直にも思春期の俺は、この違和感を理解する人間が他にもいないかと、検索エンジンに不穏な単語を入力しまくった。おかげで、システムの破壊を目論む地下組織があることを知るに至ったが、その時にはすでに「俺」は目をつけられていたはずだ。
 俺が今更「見張られている」と忠告されるのは、もう一人の俺がばれたってことだ。「無登録者の俺」が。
 ほんの少し心の安寧を得るための、もう一人の俺。正規のルートでない、電子を介さないネットワークを使って手紙を遣り取りしたり、書物を手に入れたりするための、いわば別アカウントだ。
 苛々したまま書店に入り、新書の棚に立つと、棚に張りついた液晶に「あなたにおススメの新書ランキング」が映し出される。俺の識別IDはいつもオープンだ。登録された、まっとうな俺。おススメ3位の本を手にとってレジに向かい、ポケットの中の電子端末をまさぐった。覚えのない紙が指先に触れる。店内のカメラに背を向けて取り出すと、無登録者御用達の私書箱の番号とともに、メッセージが一言走り書きされていた。
『我々は常に同志を歓迎する』




 今日も熱い珈琲を慎重に啜る。電子端末の「おススメのニュース」では、地下活動家の一斉検挙があり、さらに危険犯罪予備者に対してはネットワークの規制・監視が強化されたことがトピックスに躍り出ていた。
「なにが見張られているぞ、だ。あんたが守護者なんじゃねぇか」
 俺は数日ぶりに接触をはかってきた隣の男を見もせずに詰る。窓ガラスのなかで男は苦笑を浮かべて肩をすくめた。あの時この男の誘いに応じていたら、俺も今頃、処分の対象者だ。
「釣れると思ったんだが。分析によると、おまえの好みは俺のような男らしい」
 俺は一瞬、言葉を失った。なるほど、こいつは「無登録者の俺」に対する「おススメの勧誘者」だったのか。
「真に受けたのか、そりゃダミーだ。どのルートからバレたのかわかるだろ」
「なるほど。本当に活動家になったらどうだ」
「どうせ釣り針にされるだけだ。ま、どんなにタイプの女が現れたって、運命なんか信じられねぇけどな」
「慣れてしまえば楽だがな」
 俺は盛大に鼻を鳴らした。それが俺の答えだった。


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このストーリーに関するコメント

14/09/18 そらの珊瑚

清野さん、はじめまして。拝読しました。

そうそう、オススメの○○は便利なときもあるけど、考えたらちょっとコワイです。
なんで私の嗜好とか履歴を知ってるのかって最初は思ったけれど、慣れてしまいました。ネット社会はどこまでいくのだろうって思います。

守られていると安心させておいて、ほんとのところは国家に管理されている社会システム、そんな未来がホントに来たら嫌だなあ……面白かったです。

14/09/25 清野

>そらの珊瑚さん
はじめまして、ありがとうございます!
ネットサーフィンをしていると、以前検索したものの広告が画面の端にしょっちゅう出てきたりしますよね。
あれが鬱陶しいなと思って(笑)、書いてみました。

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