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クナリさん

小説が出版されることになりました。 『黒手毬珈琲館に灯はともる 〜優しい雨と、オレンジ・カプチーノ〜』 マイナビ出版ファン文庫より、平成28年5月20日発売です(表紙:六七質 様)。 http://www.amazon.co.jp/dp/4839958211

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将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

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ミッシング コントレイル

14/09/14 コンテスト(テーマ):第六十六回 時空モノガタリ文学賞【 舞い降りたものは 】 コメント:16件 クナリ 閲覧数:2028

時空モノガタリからの選評

短いセンテンスが重なった戦闘シーンが、張りつめたような緊張感がありました。ストーリー展開の面白さだけでなく、言葉の組み合わせや対比によって、説明ではなく“感じさせる”ような描写にドキッとさせられました。例えば「夾雑物ゼロの、無限の視界。地上で一番、純粋な青。ここで、殺し合う」「「窓の外で、僕が呑気に引いて来た飛行機雲がもうか霞んでいた。でも、人は誰も、あんな風には消えない」という部分。思わぬ方向、タイミングで飛んでくるパンチのように、シンプルな表現の組み合わせが、当たり前の情景をぐっと胸をつかまれるような鮮烈な風景に変えているように感じました。

時空モノガタリK

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空戦において、僕だけが敵を撃てる位置関係をAとする。
その逆をBとする。
互いに互いを撃ち落とせる位置取りをCとする。
射程外がD。

十五歳で戦闘機に乗り出してからの四年間、僕が空戦の際に守り続けたのは、Bは厳禁、Cは四秒以内に離脱して、Aに出来る限り留まる――というルールだった。
殆どの先輩が、机上の空論だと笑った。またその殆どが、この辺境基地の空に散った。
長い戦争の中、入れ替えを繰り返した僕ら二番隊も、今は僕を入れて三人。
スリーカード、などと呼ばれている。弱くは無いが、無敵でもない役。
先週まで、フォアカードだったのに。
次に一人欠けたら、もうワンペア。無くはない、というだけのお飾り。



早朝の出撃は、最近では珍しくなかった。
プロペラが回り出し、愛機のエンジンが大げさに唸る。
発進。強い負荷。加速。酷い圧迫。なお、加速。
解放。空へ。
僕ら三機は、基地へ向かって来る敵の迎撃に向かう。
キャノピ(コクピットの天蓋)越しの右手、高度が上がったお陰でいち早く現れた朝日を眺めながら、基地に通信を入れる。
「敵は何機?」
「布告通り、一機です」
辺境拠点とはいえ、こうまで舐められたことは無い。
「偵察のつもりかな」
「それにしても、無謀です。余程……」
「自信があるのかもね」
二番隊エースの僕が勝てなければ、後輩の二人も無理だ。僕は左右の二機に告げる。
「一騎討ちする。援護は、被弾後に」
即撃墜されなければ、だけど。ただ、敵の最寄りの基地に、僕よりも乗れる奴がいるとは聞かない。
僕が敵わない相手なら、エース格揃いの四番隊だって危ない。その位の自負はある。
空は、明るく晴れ上がった。
狭雑物ゼロの、無限の視界。
地上で一番、純粋な青。
ここで、殺し合う。

他の二機が充分離れた頃、敵影が肉眼で見えた。奴は右へロールしながら、両翼の機銃をパラパラと撃って来る。
まだ、Dだ。ただの威嚇。
こちらも旋回し、僕と敵機は二重螺旋のような軌道で接近して行く。
C。
四秒以内ならどうということは無い。
互いに一秒ずつ撃ち、両方無傷。三秒でDへ離脱。
その時には、僕は悟っていた。敵の正体。
散々見つめて来た飛び方。
先週欠けた、フォアカードの一角。戦死ではなく、脱走した、もう一人のエース。
既に敵に付いていたのか。
合点が行った。この特攻は、寝返りの証と、新しいボスへの手土産だ。
C。二秒間、互いに牽制の銃撃。
D。
奴とは、軍に入って三年目に出会った。
僕より早い操縦。僕より正確な銃撃。僕より深い飛行機の知識。僕より深い懊悩。いつも泣き顔。
何より、沢山の「初めて」を、僕に与えた人間。
――空で、人に援護されたのも初めて。
――他人と摂る食事を、美味しいと思ったのも初めて。
動揺が、僅かに操縦に出た。ロールしかけた僕の機体が、敵に背を晒す。
初めての、B。
死ぬのか。
だが、敵の機銃は僕の機体に掠りもせずに空を撃った。
そのまま、C。
Cのまま、四、五、六……九秒。これも初めて。
その間、苛烈な撃ち合い。僕の翼に被弾。タイムの大幅オーバーでこの程度なのは僥倖だけど、あっちは無傷。
我慢だ。
最小半径で舵を切り、上方にターン。
――僕が、女を尊敬したのも初めて。自分より優れた者に、嫉妬しないのも。
向こうが僕の真後ろに付き、今度こそ致命的なB。
だが、同時に、僕はエンジンを止める。急失速。彼女に僕を追い越させる。
――キスをしたのも初めて。あんなに悲しい、突然の別れも。
――こんな再会を望んだ理由は、何だ。貴女は、僕の知らない何を抱えている。
今度は彼女が、僕に背後を晒す。
知っている人を撃つのも、初めて。
でも、いつも通りの、A。
一秒で、充分。



基地の作戦室。
「裏切者に、とどめは刺したんだろうな?」
上官が僕をねめつける。
傍らの二番隊員が僕を指し、
「間違い無く先輩殿は、敵のキャノピへ撃ち込みました」
「なら良し。下がれ」
ドアから出ると、暗い廊下で、僕は後輩の脇腹を突く。
「偽証だぞ」
「嘘じゃないでしょう」
確かに、パラシュートの傘部もキャノピと言う。だが、
「僕はそんな物へ撃ち込んでない」
「視線を、ですよ」
この野郎。
「なぜ僕を庇う」
「先輩が、彼女が脱出するのを見てから撃墜したからですよ。充分な理由でしょう」
白いパラシュートは、山間に舞い降りて行った。これで彼女は、向こうでの居場所も失くしただろう。
またどこかで逢うだろうか。その時は、貴女のことをもっと教えてくれるだろうか。敵として再会したのに、一度機銃を外した理由も。
僕らは、食堂へ急いだ。零下の空から戻った後は、熱いコーヒーを飲むまでが職務だから。

窓の外で、僕が呑気に引いて来た飛行機雲がもう霞んでいた。
でも、人は誰も、あんな風には消えない。


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このストーリーに関するコメント

14/09/14 J-POP

凄い迫力ですね! 最後がまた切ない…
面白かったです!

14/09/15 夏日 純希

飛行機の戦闘っていいですよねぇ。あぁ、好きだ。
戦いの中にお互いの葛藤があるのが、また良かったです。

14/09/15 滝沢朱音

クナリさん、こんにちは。読ませていただきました。

めっちゃかっこいい。。。
こういう戦闘の話ってあんまりわからないほうなのですが、
そんな私にもスムーズに読めて、とても面白かったです。
後半で相手が女性だとサラッと明かすのも素敵でした。。。

「視線を、ですよ」
ですって。キャー(*ノェノ) 最高。。。

14/09/15 橘瞬華

かつての味方、今の敵。
かつての恋人、今の標的。
それでいて誰も死なない、とっても格好いいです!

14/09/16 クナリ

J-POPさん>
こういう、淡々とした主人公で、果たして空戦の迫力は出るのだろうか…と不安だったので、お言葉うれしいです、ありがとうございます。
最後はまあ一応彼女も生き延びたということで…今後に期待(?)ですね(^^;)。

夏日純希さん>
空戦って以前にも一度書いたことがあったのですが、こういうの書くのは楽しいですね。
ともすると、戦闘の描写だけで字数オーバーしますが(^^;)。
夏日さんもお疲れ様でした。
「事情は抱えた上で決断し、行動する」という登場人物が好きなので、こういう主人公を選びました。
楽しんでいただけて、うれしいです。

滝沢朱音さん>
もちろん、自分も飛行機のことなどよく分からず…部品とかの話はさっぱり分かりませんからね(^^;)。
一応読みやすくは書いているつもりなので、専門用語とかも使わないようにしています。キャノピは、必要上出しましたがッ。
脇役にも注目していただき、ありがとうございます。

橘瞬華さん>
書き始めた当初、てっきり相手のほうは死ぬと思っておりました…自分の書く話は、頻繁に人が死ぬので(^^;)。
「撃てない」という展開にしたくはなかったので、ちゃんと(?)「撃つ」主人公を選んだのですが、最終的にこのような展開になりました。
コメント、ありがとうございます!

14/09/17 草愛やし美

クナリさん、拝読しました。

読み進み、そういう事情があったのかと思いました。なぜなのか? 仔細は明かされないが、切ない何か切羽詰まったことでもあったのでしょう。

こういう空爆の様子は解説があっても女であるからか、理系じゃないからか、いや、脳みそがついていけないお粗末さからでしょう、私にはイマイチぴんとこなくて……展開図を描けないのは方向音痴だから? だいたいこういうA・B・C・Dの位置関係かなと思いながら読み終えました。

相手が意外な方でした、「視線を打ち込んだ」と先輩を擁護する後輩の配慮ある言葉がとても素敵で、グッときますね。

14/09/19 クナリ

草藍さん>
いえ、自分めも、空中戦のセオリとか、力学と空間把握とか、そうした才能は皆無でありますので、そんな奴が書いた話で具体的イメージが湧かないのはある意味では当然かと!
ただ、ABCDという記号で、単純に位置関係を表すことが出来れば、文字数も省けるし、分かりやすいかな…と思ったのです。
だいたい、戦闘機同士が戦うシーンで、「鉄器はミサイルを右にかわした」とか書いてあっても、「どこから見て右ぢゃい!?」とパニクってしまう奴の空戦など、元からちゃんちゃらおかしいのです!…いえまあそれでも、何とか書けないかなあ…と思って試みたのですが。
展開図なんて書いている者がそもそも明確にイメージしてなゲフンゲフン。
やはり掌編小説、として書く場合、自分は人間が主人公でないとノレない…というクセがあるものですから、人間同士の有言無言のやり取りを組み込みました(空戦だけで読みがいのあるものが書けないだろうな…という弱気も多分にありッ)。
作中の戦闘には役に立たなかった(←ひどい(^^;))後輩ですが、目を止めていただけて有難いです。

14/09/21 suggino

すてきでした!面白かったです。
映像が頭のなかにはっきりと浮かんで、ABCDの位置関係もわかりやすかったです。
視線をですよ、にニヤニヤしてしまいました。

14/09/22 クナリ

sugginoさん>
ありがとうございます、光栄です!
位置関係については、いちいち「右45度、300mの位置から左上方…」とか書くよりも分かりやすいかな、というのと、主人公の性格付けにもちょうどいいと思って(^^;)こんな表現にしてみました。あお字数節約ッ。
「視線をですよ」は書いてて恥ずかしかったですね、どないやねんこの後輩、みたいな…なめられてるよ、先輩ッ(^^;)。

OHIMEさん>
ヨックモックを分けて下さ(死)。
あれ大好(滅)。
以前は結構話の仕込みと言うかギミックと言うか、ビックリ箱を作る要領で書いていたのですが、最近は出来れば人間ドラマが書きたいなあ…と思うようになってきました。
そして悲しいことに(?)、人間ドラマと言うのはその人間に興味を持っていただけないと読んでもらえないものですから、勢い人物を魅力的に造形したいなあ…というのは常々思ってたりします。
限られた字数を何に割り振るか、毎回楽しく頭を悩ませておりますが、やはり読みごたえを感じて頂けるというのは嬉しいです。、
ありがとうございました!

14/09/26 そらの珊瑚

クナリさん、拝読しました。

昔読んだ漫画「ファントム無頼」とか「エリア88」とかを彷彿とさせるようで、わくわくしました!
A、B,C,Dの説明がものすごくわかりやすくて、状況が浮かびました。
面白かったです!!

14/10/02 クナリ

そらの珊瑚さん>
うれしいお褒めの言葉、ありがとうございます!
空戦の詳細な説明など自分にはできまい、ということでABCDの表現を使いましたが、うまくいっていれば何よりです。
絵で空戦を描くというのは難しいんでしょうねー…描いている方々を尊敬してしまいます。

14/10/06 光石七

あまりの迫力に、呼吸を忘れるところでした(苦笑)
ABCDで表される2機の位置関係、戦闘の描写の中ところどころに差し込まれる彼女との思い出の断片、非常に効果的だと思います。
互いに殺せなかったというのもいいですね。
後輩隊員もグッジョブですし。
ラストの一節がまた……ねえ。
素晴らしい作品でした!

14/10/06 クナリ

光石さん>
コメントありがとうございます。
自分は結構淡々とした文体が多いようなので、迫力が出ていたとは嬉しいです。
最後に来てタイトルのコントレイル=飛行機雲を入れてみました。
戦争で人が死なない話、というのは思うところもあるのですが、今作に関してはよい主人公を選べたと思っています(←自画自賛)。
本当は、戦闘機はのんきに飛行機雲なんか引いちゃいけないらしい…。

14/11/04 たま

クナリさま、拝読しました。
みごとな映像ですね。そう感じました。二千文字以内にまとめるためには映像化するという手もありますが、これはモチーフが空中戦ですから必然的ですね。しかも舞台は空です。
ストォリーは月並みです。でも、その表現方法においては素晴らしいと思います。仮に中編小説であってもABCDは使えますね。アイデアもすばらしい。作品が文体を生みます。この作品にこの文体が必然であったことがわかります。
詩人でもあるクナリさん、空中戦はさすがに強いですね^^

14/11/04 クナリ

たまさん>
ありがとうございます。
自分、読む力なんてないでありますよもったいない! とここでレス(^^;)。
理想は、「場面を映像化した上で見栄えと深みと驚きのあるお話を、掌編で実現する」ことなのですけども、これがなかなか…。
ABCDは詭弁でもあり、この世界の中で同じ考えを持った人物もいるのでしょうが、この主人公にはその空論を実現できる腕があったので、今作の主役になってもらいました。
短く区切る文体は文字数としても助かりますし(←本音ッ)、主人公の個性もつけられていればいいなと思います。
えせポエマですが、人様が楽しめるものが書き続けられればいいと思うのでありますッ。

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