1. トップページ
  2. Moon La Mort 月の女神

むあさん

ほっこりする短編を書くのを常に目標にしてます 小説家になろうにて主に執筆していますが、何か思いつくとこっちにも投稿します。未熟者ですが、書くことは人一倍好きで人一倍時間を費やします。

性別 女性
将来の夢 大切な何かを見つけて、のんびりゆったりモノガタリをかきながらの暮らすこと。誰かを救える人になりたいです。
座右の銘

投稿済みの作品

1

Moon La Mort 月の女神

14/09/09 コンテスト(テーマ):第六十六回 時空モノガタリ文学賞【 舞い降りたものは 】 コメント:1件 むあ 閲覧数:946

この作品を評価する


「月が、きれいですね」

 今日は何年かに一度しか見ることのできないスーパームーンとやらが空から顔を見せる日だと男は知っていたからか、残業中のオフィスから抜け出し、屋上の上で独り煙草を吹かした。ちなみに、男が屋上に向かえば、既に先客がいた。会社内に残っているのは自分だけだと思っていた男は少しだけ驚いたが、女がそう呟いた時男はそうですねと頷き、月が綺麗だと答える。

 そういえばかつての有名な文豪が愛の言葉として用いた表現も、この言葉であったと、男はふと気づいて闇夜に灰色の煙スモークを吐き出す。男の人生は、いたって平凡なもので。何か特別に大きなイベントがあったようなことはない。
 中流階級だと思っている両親の間に生まれ、親との喧嘩、兄弟姉妹との喧嘩を繰り返しながら育った青年期。愛を育んだ妻との間に3人の男児を授かった。会社では業績No.1になった直属の部下をねぎらいつつも、自らは世代交代が近づいていることは知っているので、会社のことにはあまり口を出さないようになってきている。そんな彼も、明日、大規模なプロジェクトの運営を任されているため、今の時期は多忙だ。老い衰えを感じるようになってきた今日この頃に、彼は体に悪いとは知りつつも、高い税金を払い、白い紙にくるまれたシガレットを咥えているのだ。

「あなたはどうしてこんなところで?」

 ふと気になって、女のほうを向くと。彼女は少しだけ伏せ目がちに目をこちらに向けた。目があった瞬間、彼女の”赤い”瞳の中に見え隠れする、何か得体のしれないものを見た気がして、彼は慄いた。人工的な色をつけるカラーコンタクトとは思えない、本物の赤なのだと、瞬時に男は気がついた。

「やり遂げなければならないことがありまして」

 女は落ち着いた声色でそう答えた。

「そうですか……」
「あの、私を見た正直な感想を教えていただけませんか」

 質問の意図が分からず聞きなおすと、彼女は自身の姿を見たときに感じたことを正直に教えて欲しいと、再度言いなおした。彼はしばらく腕を組んで考えこんでいたが、気づけば煙草の火が唇を今でも燃やさんとしていたため、あわてて口から吐き捨てて、アスファルトの地面にこすりつけて消火した。危なかった。

「天から舞い降りた天使かと思ったと、いえばなんだか安っぽく聞こえるものだね」
「天使?」
「でもあなたの背後には、闇があるような気がしますね」

 男はそう言って、自分も背負っているものがあるのだと過去に思いをはせている。女はそんな彼の様子をしばらく見つめて、静かにその色の白い肌を紅潮させて、美しく微笑んだ。初めて人間らしい表情を見せたものだと、男はひゅーっと煙草の煙を吐きながら口笛を吹いてみせた。赤い瞳の光は今も残るが、幾分、初めて彼女の瞳を見たときより心は穏やかだ。

「月も闇の中だからこそ輝ける、貴女はどうなのでしょうね」
「そうですね、きっと私もそうなのでしょう」

 彼女のほほ笑みは、次第に消え、その陶器のような純白の肌を滑り落ちたのは、月光に輝く、数滴の滴なみだだった。

「月が今日は、本当にきれいです」
「そうだね」
「思い残したことは、ありますか?」
「そうだね。結婚記念日記念日きょう、妻に花束を渡すことが、できないことくらいかな」
「残業、ですか」
「中間管理職的な立場を任されつつ、次の世代の社員を育てる立場は、のしかかる重圧が大きすぎるがね」


 男の言葉に闇で輝くその女は手に光り輝く銀色を持ち、彼の前でこう言った。


「あなたはこれを見ても、私を天使だといえますか」
「君は、月の女神だったか」
「え」

 最期なら、妻には常に吸いすぎだと怒られるがもう一本くらい許されるだろう。死の宣告をされているのにも関わらず、男の心は穏やかなままだ。


「私は死神です」
「あぁ、そのようだね」
「私を天使と呼んだのは、あなたが2人目でした」
「……そうかい。それは良かった。私も死神が貴女のように美しい女性だったと知ることができて光栄だったよ」



 死神と名乗った女は、大きく光輝く月を背負い、人思いに一閃、その彼女の武器かまを彼に向ってふるった。



「貴方の次の人生に、幸あらんことを」
「月は綺麗だ、貴女も―――綺麗だ」




 死ぬ間際の男の声は、空気にまじって夜空に消えた。












「早く私も、愛する彼に会いに行きたいものだわ」

 
 闇夜に溶け込むように消えていく死神の女の囁き声は、誰にも届くことなく、月の光を前に、消えてしまった。






コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

14/09/10 亜子

とても神秘的です。詩のように美しい世界が文章によってこの世にあらわれました。夜がさらに神秘的に思えるような作品でした。いくつもの世界をご自分の中に持っておられる想像力が素晴らしいと思いました。

ログイン