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草愛やし美さん

時空文学コンテスト開催100回、おめでとうございます。思えば、初めて私が、こちらに投稿したのは2012年5月のこと、もう4年近く経ったのですね。時空モノガタリさまが、創作の場を与えてくださったお陰で楽しい時間を過ごすことができました。感謝の気持ちでいっぱいです。 また、拙い私の作品を読んでくださった方々に感謝しております。 やし美というのは本名です、母がつけてくれた名前、生まれた時にラジオから流れていた、島崎藤村作詞の「椰子の実」にちなんで……大好きな名前です。ツイッター:草藍やし美、https://twitter.com/cocosouai 

性別 女性
将来の夢 いっぱい食べて飲んでも痩せているっての、いいだろうなあ〜〜
座右の銘 今を生きる  

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詩人の本能

14/09/08 コンテスト(テーマ):第六十四回 時空モノガタリ文学賞【 詩人 】 コメント:16件 草愛やし美 閲覧数:1738

時空モノガタリからの選評

柔らかく親しみやすくい語り口が落ち着いた雰囲気で、とても詠みやすかったです。「息」することを否定することが無意味なように、自らの「本能」を否定することが、不幸の始まりなのかもしれないな、と感じました。息を吐くように無意識に言葉を紡ぐだけでは、本当の「詩人」とはいえない、ということでしょうか。少年は蜘蛛に生まれ変わり、受け入れたがたい自分の美しさに気づくことで、「詩人」となったのかもしれないですね。

時空モノガタリK

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 嬉しい時も、悲しく辛い時も、それでも蜘蛛は巣を編み続けます。詩人がそうであるように、息をするかのように糸を編み続けるのです。 
 ◇ 
 山奥の、とある橋の欄干に蜘蛛は巣を張るため草叢から這い出してきました。生まれて初めて巣を張るのです。蜘蛛の本能は生きるために、この橋の欄干に巣を張ることがよいと申しています。生まれ出る前から、その能力は備わったもの、人は本能と呼びますが、それは、どの蜘蛛も持っているものです。ただ、この蜘蛛は他の仲間と違った能力を持っていました。詩を詠むことです、そう、蜘蛛は詩人の生まれ変わりでした。生き物は全て生まれいずる折に、生前の記憶はどこか彼方に置き忘れて生まれてくるものなのですが、どうしたわけか、この蜘蛛は生前、自分が人間だったことを覚えたまま生まれてきたのです。人間だった彼は、十六歳で詩を書き始めました。きっかけは自らの病でした。病と闘いながら、彼はその辛さをノートに書き始めました。書くことは悲しみや辛さを暫し、忘れさせてくれたからです。初めは、言葉の殴り書きに過ぎませんでしたが、院内の休憩室で詩集に出会ったのを機に詩作をするようになりました。心情を言葉に変えることはやがて彼の生きがいになりました。ですが、詩人になりたいという彼の望みは、数十冊の詩を綴ったノートを残しただけで、志し半ばで絶たれました。
 ふっと蜘蛛の彼は笑いました。詩人など蜘蛛になった今は何の役にもたたないからです。蜘蛛として生きていくために必要なもの、それは獲物を捉えることだけなのです。
「どうして、僕は人間に生まれ変われなかったのだろう? あんなに詩人になりたかったというのに、蜘蛛だなんて」
 蜘蛛は自らの体を醜いと思いました。頭と胴の二つは真黒で、そこから細長い足が八本生えています。スラリとした足は一見綺麗そうに見えますが、足の先には棘のような爪があり、胴体だけが太くバランスの崩れた体系は、無様な姿としか映りません。
「こんな醜い姿で綺麗な詩なんて詠めない。もう無理だ、僕は美しい詩を作りたかったのに。もう言葉を編むことはできないんだ、再び生まれ変われたというのに蜘蛛ではどうしようもできない……。病の苦しみからは解放されたが、蜘蛛なんて余計惨めだ。こんな不幸なことないだろう、神様などいないということか……」
「神様って、私も信じてないわ」
 傍から聞こえた声に初めて蜘蛛は、自分の編んだ巣に蝶がかかっていることに気づきました。声はその蝶のものでした。
「どうして、僕は蜘蛛などに生まれてきてしまったのだろう? 僕は生前、詩人だったこと覚えたまま生まれ変わってきた、悲しすぎる、辛いよ。忘れていたほうがよかった……」
「いいじゃない。他の蜘蛛より優れているものをひとつ多く持っているって思えばどう? 素晴らしいことでしょ、詩人の蜘蛛というのも素敵よ」
 蜘蛛の巣にかかれば命の終わる時と心得ている蝶は、助かりたい一心で必死に蜘蛛と話しますが、やがて、まとわりつく糸に絡まり蝶は苦しさにもがき出しました。すると、何ということでしょう、蜘蛛が近寄り糸を外してくれたのです。
「君を食べるなんてとてもできない、お願い逃げて」
 蝶は喜び逃げていき、辺りにはまた静寂が戻ってきました。獲物などいらないと思っているのに、蜘蛛はまた壊れた巣をかけ始めました。蜘蛛の本能がそうさせていたのでしょう。蜘蛛が節足動物としての本能に落胆しながら懸命に巣を張っていますと、ガサリという音と共に、大きな黒い物体が自分に向けられているのに気付きました。それがカメラレンズだとその蜘蛛にはすぐにわかりました。人間だった頃、病院で写真を撮ったことを思い出しました。優しい父母が彼の姿を写真に残そうとしたのでしょう。カメラを持った女性は全く知らない人でしたが、蜘蛛は懐かしい気がしました。シャッターを押した女性は、その場に佇んだまま放心状態で巣を見つめ、嗚呼と溜息を洩らし囁きました。
「何て美しい編み目、こんな美しい蜘蛛の巣を見たのは初めて、何て詩的な糸模様なの。私の目指す抒情詩的画像の被写体として最高なものになるわ、ありがとう」
 蜘蛛は嬉しくなりました。彼は本能の赴くまま巣を張っていましたが、自然と詩を口にして糸を編んでいたのです──朝日が終わる、橋に何があるというのか、かの糸は我が身の愚かさよりいずるものか、醜い身なれどこの細く煌めくものも吾身の一部。ならば、命のひとつと思うままに──それは詩人の本能のなせることでした。
「生まれてきて良かった」
 そう呟く蜘蛛は、今ようやく万物に感謝し、自分を愛せると感じています。幾度、巣が壊されようと、蜘蛛はその度に糸を編み直します。詩人の本能で編まれた巣は美しい一篇の詩、とりわけ、お日様の光で虹色に染め上げられる様はそれは見事なものです。


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このストーリーに関するコメント

14/09/08 夏日 純希

この詩人さんはどうなっちゃうんだろうと少し心配しながら、
読ませていただきました。

毎回どこからこの発想が出てくるのかなぁと関心しております。
草藍さんは色々なものに触れながら、
着想を得るのがきっと上手なんでしょうね。

ちゃんとご飯食べられるのかが心配ですが、
せっかく生まれ変わったんだから、生きがいをもって生きてほしいですね。
僕も創作できることにもう少し感謝しながら生きようかな、と思いました。
ありがとうございました。

14/09/08 草愛やし美

夏日純希さん、コメントありがとうございます。

詩人ですから、草食の蜘蛛といして生きる決意をしています。花の蜜を吸い、彼は死ぬことは恐れません。詩人の本能は人のものですから、きっと、人が食せる草なども食べるということで書いています。自分のなかではそう考えていましたが、説明不足でした。ある意味ファンタジーの中の蜘蛛と考えていただけたらと、思っています。わがままお許しください。大汗 苦しい言い訳かもですね、苦笑

ただ、人は当たり前にできていることができないとなると、そのありがたみを想うのではないかと。幸せの鳥がすぐそばにいるように、創作できることありがたいです。真摯な夏日さんの素敵なコメント、感謝しております、ありがとうございました。

14/09/09 光石七

拝読しました。
詩人の生まれ変わりの蜘蛛、すごい発想ですね。
言葉の代わりに蜘蛛の巣で詩を編む、生きがいをみつけられてよかったです。
虹色に輝く蜘蛛の巣の中に詩を感じる感性、私には無いなあ……(苦笑)

14/09/09 泡沫恋歌

草藍 様、拝読しました。

詩人の心をもった蜘蛛が編む巣はきっと森羅万象を映すような、幾何学模様かも知れませんね。

蜘蛛が詩人の生まれ変わりという発想がユニークです。

今度は人間に生まれ変わって、元気な身体でいっぱい詩を書けたらいいのにね。

14/09/09 タック

拝読しました。

世界のどこにでも「詩」は溢れているのかもしれない、そう思わせていただける作品でした。観察眼、発想力に脱帽です。

14/09/09 そらの珊瑚

草藍さん、拝読しました。

つい最近、とても美しい雨上がりの蜘蛛の巣を見たことを思い出しました。
なるほど詩を編む、糸を編む、なのですね。
もしかしたら全ての蜘蛛は言葉を持たない詩人なのかもしれないって思いました。
詩人は食えないといいますし、この蜘蛛がちゃんと食べていけるか心配です(笑い)

14/09/13 kotonoha

美しい蜘蛛の巣ですね。
壊れても直ぐ繕う、綺麗な編み方は詩である。
本当に素敵で奇麗な網目です。

私夕方散歩するのですが毎回と言っていいほど顔に蜘蛛の巣がかかるんです。1時間ほどで帰りますがまた頬にかかります。

あんなレース網のようなこと特急で修理するのですね。
蜘蛛は優秀な芸術家ですね。

あの橋を渡ってみたいです。

14/09/14 鮎風 遊

蜘蛛、神秘なものがあり、不思議な虫ですね。
その蜘蛛と詩が繋がり、余計神秘性が上がったようで、
物語でもありますが、詩のような感覚を覚えました。

今度蜘蛛に会った時、お前は人間だったのかと訊いてやります。

14/09/19 草愛やし美

>光石七さん、お読みいただき嬉しいです。コメントありがとうございます。
蜘蛛そのものは苦手です、それに蜘蛛の巣のあるところも通りたくないですが……、公園などで日を浴びる巣は綺麗ですよ。見るだけで綺麗だなと思う、詩も読んでもああだろうこうだろうと評価は全くできない私ですので、感覚で素敵だなと感じるだけです。そういう意味で、私にとって感性で読み取るものは同じかなと思います。 

>泡沫恋歌さん、輪廻転生を信じている私です。できれば、人間がいいのですが、ごきぶりかねずみかはたまた、コバエになるのか選べないと聞いています。その説とは別に、人間だったものは人間に生まれ変わる説もあるようです。たぶん、人間が都合の良いように作ったものかと思いますが。苦笑 輪廻転生がないかもしれない説が有効かもですが、それは寂しすぎますので、できれば生まれ変わりの説が本ものであってほしいと願っています。
コメントありがとうございました。

>タックさん、お読みいただき感謝しています。コメント嬉しいです、ありがとうございます。 考えようによっては、詩ってそういうものかもしれません。詩人が切り取るその世界は、あちこちにあふれているのですから。

>そらの珊瑚さん、確かに詩人は食えないと聞きますね。有名になっても詩集ってそうは売れないとか……。詩人のこの蜘蛛も食えないところが詩人そのもの?苦笑 コメントありがとうございました。

>朱音さん、お読みいただきありがとうございます。
生きていてよかったと思えることが、人生にそうそう転がっているわけなどないです。でも、音楽を聴いたり美しい絵画を見たり、花を愛でたりと、ちょっとしたきっかけでそんなこと思えることがあります。
人の生きる道は谷もあります、きつくてもうやめようかと思ってしまう日々、でもきっと見晴らしの良い山の頂へ向かっていると考えれば、辛さも緩和されるのではと思います。創作という書くことは、嫌なことが軽減されると思います。きっと、朱音さんの、今の日が糧になり良い時間を作り出せると信じています。

>kotonoha shizukuさん、お忙しい中、お越しいただき感謝、コメントとても嬉しいです、ありがとうございます。

蜘蛛の巣っていくら壊しても、取り除いてもすぐに修復されて巣を張っていますよねえ、あの労力には頭が下がります。でも、彼らにとっては生きるすべですから、本能が命じる当たり前のことなのでしょうね。私はあれほどの根気があるかなあと感心します。
レース編みなるほど、模様は緻密で幾何学的とも見えます、アートだと感じますね。あのべたつく糸は苦手ですので、触れたくはないですが……。苦笑

>鮎風游さん、コメントいつもありがとうございます。詩のように感じていただきとても嬉しいです。私も特別美しい巣をかけている蜘蛛に出会ったら聞いてみたいなあと思います。笑顔

14/10/06 夏日 純希

受賞おめでとうございます。このかなり難しいテーマの中、流石の発想でしたからね。
入賞の光が蜘蛛の巣を照らしているみたいで、より作品が映えるように思います。
おめでとうございました\(^o^)/

14/10/08 草愛やし美

凪沙薫さん、お言葉嬉しいです、ありがとうございます。fecebookでは時空のことお知らせしたの初めてです。今月、同窓会がありますので、もしかしたら、同窓の方々にも作品を読んでいただく機会になればいいなあと願って書きました。コメントありがとうございます。

蜘蛛は害虫を捕えるので、殺さないでと親から言われたことありますが、小さなものは何とかスルーできても、大きなものはやはり怖く苦手ですね。苦笑 汗
でも、山間などで見かける巣には凄く綺麗なものがあります。事実、バス待ちの田舎の橋の傍で見た蜘蛛の巣がとても美しかったこと、またもくもくと巣を張る蜘蛛の姿など、脳に叩き込まれています。今回、詩人で言葉を編むと考え、蜘蛛の巣のことを思い出しました。「ああ、あれは美しくてまるで詩のように幾何学模様が存在していたなあ」と思い出しそこから書かせていただきました。

14/10/08 草愛やし美

夏日純希さん、お言葉ありがとうございます、入賞できとても嬉しいです。

テーマ「詩人」難しかったですね、私は詩を少ししか書いたことがなく、詩人さんのことが全くわからなかったです。でも、小学生の頃、好きな詩集があって何度も同じ本を学校の図書室から借りてきた思い出はあります。あの本、もうないでしょうねえ、詩人のテーマを考える時、懐かしく思い出しました。詩はきっと自然と浮かんだものがいいのだと感じます。心の赴くままに、本能のように、言葉を編むのではないかと……そんなところから書かせていただきました。

14/10/08 草愛やし美

運営Kさん、選評いただけありがたいです。

時空の運営さんには、投稿する場を与えていただき心から感謝しています。この場がなければ、もう私は何も書けていなかったと思います。
年なので、あと何年書けるかなどと考えず、書ける間は頑張って書いていきたいと思いました。本当にありがとうございました。

14/10/22 ドーナツ

拝読しました。時空賞おめでとうございます。

こころがジンわりする良いお話です。


外見は醜くても、大事なのは中身だなと改めて思います。
この蜘蛛は、生き物としていちばん大切な優しさももっているからこそ、カメラを取った人を感動させることができたのではないかなと思います。

詩を書く人は、ぜったいに心の優しい人、そうでなければ感動させる詩は書けないとおもってます。

16/03/25 やっちゃん

草藍やし美さま、
また来てしまいました。

この小説大好きです。
蜘蛛はは本当に芸術家ですね。
神様はいろいろな生き物を作り芸を教えていますね。

「生きる方法はどんなところにもあるのだよ」と人間にも教えているのですね。お写真も綺麗ですね。^^

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