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クナリさん

小説が出版されることになりました。 『黒手毬珈琲館に灯はともる 〜優しい雨と、オレンジ・カプチーノ〜』 マイナビ出版ファン文庫より、平成28年5月20日発売です(表紙:六七質 様)。 http://www.amazon.co.jp/dp/4839958211

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将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

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奴隷じゃないよね優しさは

14/08/28 コンテスト(テーマ):第六十五回 時空モノガタリ文学賞【 守る 】  コメント:10件 クナリ 閲覧数:1067

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私が小学生の時、近所に一学年上のユウ君という男子がいた。
ユウ君は滑舌が悪く、頭もあまりよくなく、運動も苦手だった。
意志の疎通は出来たけど、明らかに歳相応の円滑さに欠けていた。
そのため、低学年の段階で既にイジられ役としての位置を確立し(いじめと言えるものまであったのかどうかは知らない)、友達は少なかった。

ユウ君とは、私が五年生の春くらいまで、よく遊んだ。
彼はゲーム機をいくつも持っていたので、女子ながらにゲーム好きだった私は、珍しいソフトを目当てにユウ君の家によく押しかけた。
ユウ君のおばさんは、私が行くと大きなお皿にクッキーやあられを盛って出してくれた。
私は自分の家に、おやつだのジュースだのといった習慣が無かったため、天国気分でそれらに飛びついた。
ユウ君はお菓子にがっついたりはしないから(彼は常に理性的だった)、大抵私が一人で平らげた。
私がポテトチップスを食べた手でコントローラを触ろうとするとユウ君は珍しく怒るので、彼の家では、ポテチはフォークの先に引っ掛けて食べるのだった。

高学年になると、さすがに私も、周囲の目が気になった。
ユウ君の家に入り浸ると、他の女子には奇異の目で見られるし、両親からもやんわりと諫められるようになった。
私がユウ君の家を訪れる機会は、急激に減った。
ユウ君が、年下の女としか遊べない奴だと、彼の同級生から揶揄されるのを見たのも、一度ではない。
それにユウ君の家で、おばさんと接するのも辛くなった。
おばさんだって、小学生の男の子には外で元気に遊んで欲しいに決まってる。
「女の子とゲームばかりやらないで、外で遊んでらっしゃいよ」と喉まで出かかっていたのではないのか。
でも、ユウ君には、野球に入れてくれる友達も、サッカーに誘ってくれる仲間もいなかった。
無理してアウトドア派に紛れこんだ処で、彼の身体能力では晒し者になるだけだ。
たった一人の女子でも、子供の友達が遊びに来てくれる空間を壊すことは出来ずに、おばさんはどんな気持ちで、テレビにかじりつく私達の背中を見ていたのだろう。
大きなお世話ながら、そんなことを考える程度には、当時の私は育っていた。
まあ成長すれば今まで通りではいられなくなるのが当たり前なんだろうな、などとも思っていた。

ユウ君と最後に逢ったのは私が五年生の冬、小さな公園だった。
私は新しく仲良くなった女友達の家に行く途中、公園を通り抜けようとして、リードを外して散歩していた大型犬に抱きつかれ、思い切り叫び声を上げた。
噛まれたりしたわけではなかったが、上手く逃げることも出来ない私には、とにかく大きな犬が怖かった。
偶然通りがかったユウ君が駆け寄って来て、犬に平手打ちをした。
怯んだ犬は飼い主に捕まり、どこかへ去って行った。
久し振りのユウ君との再会だったが、私は、急に薄情になった自分など、彼にはとうに嫌われていると思っていた。
だから、本来ならすぐお礼を言うべきなのに、
「何で助けてくれるの?」
私の口から出たのは、そんな質問だった。
ユウ君はたどたどしくも丁寧に、理由を説明してくれた。
簡単にまとめてしまうと、「そうすべきだと思ったから」ということだった。
損得も使命感も愛情すらも無関係の、むき出しの優しさというものに、私は初めて触れた。
そして、車椅子の上の私は、気付かない振りをしていた事実にようやく向き合った。
ユウ君は、ずっと私を守ってくれていた。
産まれつき上手く動かない私の足では、女子だてらに腕白揃いの同級生達と一緒に、外で遊ぶことが出来なかった。
どうしても、それに劣等感を感じたくなかった。
仕方がないと諦める感情は、両親を冒涜することだと感じていた。
私は、自分の遊び場所を自分で選んでいるのだと言い聞かせて、ユウ君の家へ行っていた。
やりたいことが出来なくて、仕方なく室内で遊んでいるのではない……と言い張りたかった。
ユウ君だって、駄目元で野球がやりたかったかもしれない。
馬鹿にされても、サッカーに混じりたかったかもしれない。
自分なりのやり方で、友達を増やしたかったかもしれない。
全てを我慢して、彼は私の筋違いの矜持と居場所を、守り続けてくれていたのだ。
私はやっと、
「ありがとう」
と震え声で言った。
小さく頷いてから、ユウ君は、公園を出て行った。
私の静かな英雄の後ろ姿が、ゆらゆらと滲んだ。

何年かが過ぎ、高校生になった今も、ユウ君の噂を時折聞く。
相変わらず、イジられながら暮らしているようである。
私が彼の人間的魅力を周りに力説した処で、とても正確に伝わるとは思えない。
とっても悔しいので、せめてここに書き留めておくため、私はキーボードを叩いている。

のり塩味のポテチを食べながらでも、フォークを使っているお陰で、白いキーボードは汚れない。


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このストーリーに関するコメント

14/08/29 タック

クナリさん、拝読しました。

ふたりの関係、ふたりの立ち位置の切り替わりが鮮やかで、とても自然的だと思いました。映像として瞬時に光景が変わる、その移り変わる空気に大きく変化のないこと、良い意味で派手さを押し出さない、その繊細さが本当に絶妙で見事だと感じます。素晴らしいお話、ありがとうございました。



14/08/29 草愛やし美

クナリ様、拝読しました。

社会から距離を置かれたユウ君、係わりを持ちながら、否定しなければならなくなってしまっていた私。私も同じように社会から、少し離れた位置にいる人だったのですね。途中でそこが明かされて、ちょっとした眩暈覚えました。ああ、そうだったのかと……。
誰もわかってはくれないユウ君の素晴らしさ、書きとめようとしている私。素敵なお話、最後の文が生きていますね。テーマ「守る」って難しいと思いますが、さらりと書かれていますけれど、内容は濃く、感動しました。さすが、クナリさん、良作書かれますねえ、素晴らしいです。

14/08/30 夏日 純希

この「守る」はうまいですね。じんわり感がとってもいいです。
見返りを求めないやさしさが本当に尊いですね。
構成も「うおっ」ってなりました。

>簡単にまとめてしまうと、「そうすべきだと思ったから」ということだった

すいません、すごく個人的なわがままなのですが、
ここを具体的なユウ君の言葉で感じたかったです。
いや、ほんと、わがままですいませんm(_ _)m

14/08/30 クナリ

タックさん>
ありがとうございます。
昔読んだ小説作品で、一つの事実が明らかになることで視点がぐるんと変わる快感を与えてくれた作品があったものですから、そうした仕掛けへの憧れがあったのかもしれません。
人間関係からストーリーを見せて行くタイプの話で、そういう仕掛けを施すのは、自分などがやってもちょこざいなだけかな…とも思ったのですが、やってみてよかったです。
さほど劇的な展開も起きない話ですが、個人の価値観を想像したり変えたりするきっかけって、そういうものかもしれないなあと考えながら書きました。その「派手じゃなさ」を評価していただけたのが、特に嬉しいですね。

草藍さん>
ちょっとこざかしく、小説的な仕掛けをしてみました。<途中で明かされて
この仕掛け自体がオチになってしまってはいけないので、中盤あたりでの開示となりました。この話は、仕掛けにこだわって人物からスポットライトを外しては駄目だろうなーなどと思い。
いや、「守る」難しいですよ!
何を守るのか…その対象によっては、字数の大半を説明に省かなければならない気がするし、いきなりドラマを展開させて行っても読む方の感情移入が追い付かないかもしれないし…と悩んで、ごく一般的な小学生になりました(^^;)。
自分は現代劇では、十代の中高生を主人公にすることが多いのですが、今回は小学生にチャレンジしたこともあり、そういう意味でも苦労がありましたので、お褒めの言葉とてもうれしいです。
ありがとうございます。

夏日純希さん>
ありがとうございます!
構成は、演出効果も含めて考慮しながら仕上げました。
うまくいっておりますでしょうか。
ご指摘の部分、実はユウ君には、どうしても作中でしゃべらせたくなかったんです。
彼は吃音ですが、彼の感情とか真意とかは、読み手に伝わるようにセリフで書くと、どんなにたどたどしくどもって表現しても、結果的にはどうしても「人にうまく伝わる言葉で」「効果的に」しゃべってしまう。
それは、おそらくユウ君の印象を、自分が表現したい形とは違うものにしてしまうだろう…と。
なんだか言葉にすると大げさなんですが、そんな理由です。
吃音の話し言葉というものが、自分にも自然に文字で表現できればよかったのですが…すみません。

14/08/30 かめかめ

女の子から見た視点でふわふわと明るい情景を見ていたのが、
車いすと言う言葉が出て来た途端に足元へ視点が映り、急にカチッとした世間の非情さと優しい現実を感じて、おもしろかったです。

14/09/01 クナリ

かめかめさん>
平和な光景から、主人公が内包していた事情による転換へ一気に向かう、というのをやってみました。
あまり伏線を張り過ぎたり、盛り上げ過ぎるのも良くないかな…と思ってこの位の描写になりましたが、うまくはまっておりますでしょうか。
具体的なるお褒めの言葉、大変うれしいです。ありがとうございます。

14/09/07 そらの珊瑚

クナリさん、拝読しました。

「車椅子」というキーワードが途中で出てきたことで、
一気に話の密度みたいなものが濃くなったように感じました。
 
 コンプレックスというものはそれに対峙しなければならない
本人にとってとても辛いものだと思いますが、
それは人を強くもしてくれるものだと。
まさにユウ君は英雄だと思いました。

14/09/08 クナリ

そらの珊瑚さん>
ある種の叙述トリックというか、変調のためのギミックとして、ああ言った登場の仕方になりました。<車椅子
秘密の開示が、作品中で上手く機能出来ていればと思います。
逃げるか受け止めるか立ち向かって打ち破るのか、自分の状況や周りの環境、繋がりのある人々との関係など、コンプレックスへの対処は正解を見つけ出すのが非常に困難ですよね。
その中で、今回の主人公が得られた気付き、そしてそれをもたらした出会いは貴重なものだったと思っています。
一人の強さ、戦う強さ、認める強さ、立ち上がる強さ。傷つけない強さに、耐える強さ。
強さにも様々な形がありますが、『守る』というテーマを見た時に、直接描写しないまでも、「『強さ』を書かねばならないんだろうな…」と思いました。
だめだなあ、こんなに作品外で作品のことをしゃべってはー(^^;)。

14/09/22 光石七

“車椅子”の文字を境に読む側の世界も変わりますね。
本当の優しさを持つユウ君も、彼のために憤ることができる主人公も素敵だと思います。
このお話が持つ空気はすっと心に入ってきますね。
お見事です。

14/09/22 クナリ

光石さん>
なかなか、書くほうとしてもいろいろ考えた作品なのですが、ご好評をいただけていてほっとしています(^^;)。
「自分とは違う」人たちに対して、100点満点の子供時代を遅れた人など、いるのでしょうか…とか。
普段扱わない年代の主人公なので不安もあったため、そういっていただけてうれしいです、ありがとうございます!

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