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三条杏樹さん

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べっこうあめ

14/08/25 コンテスト(テーマ):第三十七回 【 自由投稿スペース 】 コメント:2件 三条杏樹 閲覧数:868

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無縁仏になったと聞かされて、俺は耳を疑った。
「本当ですか?」

「遺骨の引き取り手もいなかったみたいよ、家族の話とかあんまりする人じゃなかったけどねえ・・・」

死後六日に発見されたという。それまでたったひとりで、誰にも見つけられることもなく、誰にも看取られることなく亡くなっていったおばさんのことを思うと、涙がこぼれた。



親族ではない無関係の人間は遺骨を引き取れない。俺は悔しくて悔しくて、今は自治体の無縁墓地に眠るおばさんに心の中で謝った。

おばさんはよく公園のベンチに座っていた。当時は六十代くらいだったと思う。鳩に餌をあげて、公園で遊ぶ子どもたちを見ていた。その子どもたちが鳩への好奇心に近寄ると、食パンをちぎって俺たちに寄こしてくれた。

「べっこう飴、食べるけ?」

東京生まれの俺には聞きなれない訛りで、子どもだった私たちによくべっこう飴をくれた。
「口裂け女が食べるやつだ!」
子どもたちはこぞってそう騒ぎ立て、べっこう飴を舐めていた。

おばさんは先生のような存在だった。
帰ったら手を洗え、女の子には優しくしろ、お母さんお父さんの言うことはよく聞きなさい、悪いことはするな。
不思議と、学校の先生よりも聞く気になった。
それは俺だけだったのかもしれない。他の子どもたちは、おばさんがいつもべっこう飴を持ち歩いているので、「べっこうばあ」と呼んで揶揄していた。

俺はおばさんが好きだった。

優しかったし、喋り続ける俺の話をうんうんと聞いてくれた。
両親が共働きで鍵っ子だった俺には、それが嬉しかった。本当のおばあちゃんが亡くなっていたせいもあっただろう。

おばさんはいつも公園のベンチにいた。
俺が友達と喧嘩して泣いた日も、頭を撫でてくれたし、「泣いたらあかん」と、袖で鼻水だらけの俺の顔を拭いてくれた。



中学、高校にあがり、そして大学。記憶の中からおばさんが消えつつあったとき、ふいに思い出した。
就職活動で疲れていたせいもあったかもしれない。昔を懐かしんで、その公園へ向かった。しかし、もちろんおばさんはいない。

ちょうど、公園の裏っかわに住む中年の男性に尋ねると、思いもかけない返事が返ってきた。

「向かいの三倉さんだろ?半年前に亡くなったよ」

「えっ・・・」

「公園によく座って鳩に餌あげてたひとだよね。ひとり暮らしだったし、遺体の引取り先もなくて無縁仏になってしまったんだって聞いたよ」









帰り道。とぼとぼと歩いていると、シャボン玉を飛ばす親子の姿があった。
夕暮れ時に赤い夕日が照らして、子どもが笑う。
唐突に、おばさんの姿が浮かんだ。

子どもたちをベンチから見守っていたおばさんは、最後にはひとりぼっちで逝ってしまった。

俺はおばさんに会ったとして、何を言うつもりだったんだろう。
親族でもなんでもない間柄なのに、わざわざ何を言いにいくつもりだったのか。

おばさんは、最後に、何を思っていたんだろうか。何を見ていたんだろうか。


「・・・べっこう飴、欲しかった・・・」

そうだ。俺は、べっこう飴を貰いに行ったんだ。
あのベンチへ行けば、あの時と変わらず、おばさんがべっこう飴を差し出してくれる気がして。厳しい就職活動はもう嫌だと大人気もなくすがって、あの日のように慰めてほしかった。
両親の言うことを聞いて、大学進学した、女の子にも優しくしている、付き合っているひとがいるんだ、悪いことなんて一つもしてない、真面目に生きてきた。


そう言いたかった。




溢れ出る涙をぽろぽろとこぼした。

大人になった俺の顔を拭ってくれる人は、もういない。


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このストーリーに関するコメント

14/08/25 あいっち

なんか物悲しいな・・・

14/08/31 ナポレオン

拝読いたしました。
大人になる切なさとか社会の厳しさとかを感じました。子供の時には確かにそこにいたおばさんにもう二度と会えない主人公を思うと胸が苦しくなります。

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